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*27*

 あれは小学4年くらいだったか。夏休みのある日で、その日もひどい猛暑だった。それでも俺は外で遊ぶのが好きだったからその日も出かけた。青いリボンがついた麦わら帽子をかぶって少し離れた公園に向かう。途中で駄菓子屋によって冷たいジュースを2本買う。それを抱えて公園に向かう俺の足取りはこの暑さにもかかわらず軽いものだった。

 公園の中に入ると、夏休みだということもあって俺以外にも子どもの姿は多い。そんな中、一本の木の下でピンクのボールで遊んでいる一人の子。俺はその子のほうに駆けよる。


「レイ」

「あ、りょうだ―。あ、それジュース?2本あるけど……」

「うん、一本はレイのだよ」

「わーい、ありがとう」


 ボールを足元に置いたレイは俺からジュースを受け取るとおいしそうにそれを飲んだ。そんなに高くないけど、冷たく冷えたそれは夏のこの時期とてもおいしい。


「ぷはっ!今度は僕が買ってくるよ」

「そう?」

「今日は何して遊ぶ?それともどこか行く?」


 レイとは多分学校が違う。学校であったことなかったから。確かもう一校小学校があったから多分そっちだったんだろう。俺もレイもたがいに名前くらいしか知らなかった。でもどこかで気があって、よくこうして遊んでいた。はじめて会ったのもこの公園で一人で遊んでるところにレイが声をかけてきたんだ。子どものころから俺は友達が少なかった。家のこともあって、同級生の親が俺に近づかないように言ってたらしい。だからほとんど一人でいた。でもその原因となった家にいたくなんかなかったから、放課後は日が暮れるまで一人で公園にいた。

 レイはすごく活発で明るい子だった。人見知りもせず、はじめて会った俺にもおじけることなく遊びに誘った。そんなレイに俺は嫌われたくなんかなかったんだとおもう。だからこそ、家のことは言えなかった。夏休みの間、俺は毎日のようにレイと遊んでた。

 そして夏休み最終日。その日も俺は2本のジュースを手に公園に向かっていた。だが、その公園にレイが現れることはなかった。日が暮れるまでずっと待っていたが、結局会うことはなかった。遠くの方でうるさいくらいのサイレンの音がかすかに聞こえていた。

 翌日、朝ご飯を食べ終わり通学時間になるまでテレビのニュースをぼんやり眺めていたとき。トラックと小学生の交通事故の県内ニュースが流れた。


「この近くみたいですね。若もお気をつけて」

「うん……あ、行ってきます」


 ランドセルをしょったとき、ふと目に入ったテレビ画面の中のピンクのボール。俺はレイと一緒だなと思っただけでそのまま学校へと向かった。


***   ***   ***


「……その事故の……」

「俺は今もレイの苗字を知りませんし、ニュースでもその子の名前を公表したりはしませんでした。ですから、それがレイだったという確証は何もありません。それに子供の頃のことで、その子がどうなったかもわかりません。ですが……」

「死んじゃった?」

「それ以来、俺は何年もあの公園を訪れたんです。ですがレイは来ることはなかった。おそらくあの事故の被害者がレイだったんでしょう」


 どれくらい話しただろう。いつのまにか俺の傍らで横になり静かに話を聞いてた彼が眠たそうにまどろんでいる。此処まであっけらかんに話したのは初めてだった。こんなこと、忍ですら知らない。


「事故か……トラックじゃ、痛かったね」

「は?」

「僕もさ……子どもの頃事故にあってさ……トラックだったかは分からないけど……。しばらく意識が戻んなかったんだって。で、意識は戻ったけど、ひどい怪我でしばらく入院。半年くらいかな?そしたら親の仕事の関係でフランスで治療して……。だから、事故にあったその子の痛み……少しわかる気がする……。僕の背中にさ……あるんだ……事故の時の傷跡……痛かったなぁ……」


 眠気が勝ったのか、そういって眠ってしまった。知らなかった。事故にあっていたなんて。いや、この人のことは知らないことばかりだ。レイ以外の人間に興味がなく、誰とも深くかかわろうとしなかったから。


「事故にあったレイ……まさか……」


 俺の中で何かが動き出した。 

なかなか難しい話になってきました。

一応ラストは浮かんでるのでそれに向かって頑張ります。


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