*21*
いくらなんでも空気が重すぎる。なんだこの空間、居心地最悪なんだけど。目の前に用意された夕飯は、どこかの老舗割烹かと思えるほどすごい料理だけどさ、僕の横にはさっき居たサラリーマン風男。名前は忍さんだそうだ。
夕飯を食べるためにまた別の広い和室に通された。その部屋の中央に少し大きめの木製の机。そこに夕飯がずらっと並べられている。4人分にしっかり配膳されている。忍さんに促され座布団に座る。そして少し待っていたら、そこに30代くらいかな。忍さんよりは年上みたいな男の人と、忍さんと同年代くらいの男の人が入ってきて僕らの向かいに座った。僕の向かいは一番年上の男。男ばっかだ。あ、若いほうの男、さっきの騒ぎで見た顔だ。ていうか、なんか怖いんですけど。そして今に至る。
重いです。誰も箸をつけないので、食べていいのかわかんないんだけど。僕おなかすいたから、食べたいんだけどダメかな。せめてあの年上の人が食べ始めてくれたらいいのに。というか、なんでさっきから僕の方を見てくるんでしょうか。でもこの人、なんか知ってるような気がする……んだけどな。どこだっけ。
「全く、すまないことをしたね。日ごろから無駄な騒ぎは起こすなと言ってるんだが……」
「いえ、別に……気にしないでください」
「けんかっ早いのは職業病になりつつあるようでね、私も困ってるんだ」
「職業病って、それはないですよおやっさん」
「おや……っさん?」
さっき言ってたのはこの人のことだったのか。てことは、この人が此処で一番偉い人ってこと?まぁ、確かに威厳というか、貫禄?みたいなものがあるけど。
「大体、お前たちには今日警察署に行くはずじゃなかったのか?」
「行ってきた帰りに絡まれたんです。やってられませんよ」
「おおむね責任はどっちにもあるというわけか」
「さっきからひどいですよ」
「ほかのやつらは今日は出払ってるのか」
「最近はごたごたしてましたしね。ようやく落ち着いて、みんな羽を伸ばしに行ったんでしょう」
「伸ばし過ぎるのも困るけどね。おっと、せっかくの夕飯が冷めてしまう。食べるとしようか」
「え、あ……はい、いただきます」
さっきから話に付いてけてません。この人たちは何者なんだろ。とりあえず、おなかすいたしおいしそうな料理にありつこう。
夕飯はなんの変哲もない和食。白いご飯、いい感じに焼けたアジの干物、ほうれん草のおひたしに、だ……出し巻き卵。そういえば、あのとき良が作ったのはやっぱりおいしかった。大好物だ。これもおいしそうだな。
「あれ……」
「どうかしたのかい?もしや、口にあわなかったのかい?」
「いえ、とってもおいしいです……」
「そうか、遠慮せずに食べってってくれ」
うん、料理はすごくおいしい。けど、この出し巻き卵。良が作ったのとおんなじ味がする。なんで、手作りだからこんなにも味が似ることなんてそうないはずなのに……。
「そういえば……まだ名乗ってなかったね」
「あ、はい……」
「私は……」
その時、すっと閉じられていた引き戸が開いた。おかげで自己紹介が途中で途切れる。開いたその隙間から入ってきたのは、なぜかあの黒猫。って、あの猫が引き戸を開けたわけじゃないよね。猫ってそんなに器用なの?短く鳴き声を上げながら、なぜか僕にすり寄ってきた。人懐こいんだな。なんかかわいい。僕はその猫を抱きかかえてひざの上で撫でる。
「こら、食事中の部屋に入ってはいけないと言ってるでしょう……レイ……!?」
「え……は……?ええぇぇぇぇぇぇ!?」
猫の後に入ってきたのは、見覚えのある人物で、その人と眼があって僕らはしばし固まった。だからいつも予想外のところで現れるのやめてって言ってるのにな。なんなの一体。
「なぜあなたが家にいるんです?」
いや、それはこっちのセリフなんですけど……。って、此処が良の家!?
やっと良介の実家が出せました。
といってもまだ断片的なものですが。
なかなか話が進みません。




