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幼なじみに「どうせ押し倒す度胸もないくせに」と散々煽られたので、朝チュンしてやった  作者: 本町かまくら


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第6話 女王様、フォームを崩す


 それは実に、快適な朝だった。


「んぅ……すぅー……すぅー……」


 ――となりで眠る、全裸の幼なじみがいなければ。


「(そうだ……俺、昨日……)」










 ――昨晩。

 

 ふたりきりの部屋。

 

 俺は眞白を押し倒していて、眞白の顔の横には開いたコンドームの箱。

 眞白は反抗的な目をしているが、どこか弱弱しかった。


「な、なんだよその顔。俺のことなんて何とも思ってないんじゃなかったのか?」

「そ、そうだけど? 一回できた程度でいい気になってる小さい兼助なんて……わ、私からしたら何ともないわ」


 視線がぶつかり、火花が散る。


「へ、へぇ。眞白の中では俺に屈したあの一件がなかったことになってるのか。随分と都合のいい頭してるんだな。いつも俺に散々言うくせに」

「都合がいいのは兼助の方よ。……というかどいてくれる? 邪魔だし……ち、近い、から」

「近いと何がいけないんだ? あ、もしかして照れてるのか? 免疫ないもんなぁ、いつも俺にモテないとか言っておいて」

「はぁ⁉ て、照れてるわけないでしょ⁉ なんで私が兼助ごときに照れなきゃいけないのよ! そ、そんなのまるで……わ、私がこの状況にドキドキしているみたいじゃない……!!」


 眞白がふいっとそっぽを向く。

 熱が高まり、どんどん引っ込みがつかなくなっていく。


「いやいや、どう見たってその顔はドキドキしてるだろ。傍から見たら恋する乙女にだって見える少女漫画クオリティーだけどな?」

「っ! い、言いがかりはやめてくれる? 私が兼助に心を動かされることなんて、少しもないんだから。な、何とも思うわけないじゃない……こ、こんなへっぽこ」

「うぐっ……な、何とも思わないんだよな? 俺が、眞白に、何をしても」

「っ!!! ……お、思わないわよ? ま、まぁ? 兼助にその度胸があるなら、だけれど?」

「「…………っ!!!!」」



「い、言ったな……今言ったな!」

「い、言ったけど? 今言ったけど⁉」



 そして、お互いに一歩も引かず、見つめ合うだけの時間が流れる。

 訪れる静寂。


「「…………ごくり」」


 眞白は一度煽っておいて屈した手前、これ以上俺に負けてたまるかという女王様ゆえの意地があったのだろう。


 そして、俺もまたここまで煽られ、さらに一回目の後に俺から煽りもしたために引き下がることが出来ず……あと、普通に眞白にムラっとしていた。だって……エロかったから。正直、はい。


 そんな、またしても絶対に折れてたまるかという意地のぶつかり合いの結果――










「(なんだこの通常のラブコメじゃありえないお決まりは……)」


 しかも、この短期間で二回目なんて……いや正直、めちゃくちゃよかったけど。じゃないじゃない。


「すぅー……んぅ……んっ……」


 今回は気持ちよさそうに寝ている幼なじみを眺める。

 

 普段はツンとしていて近寄りがたい雰囲気のある眞白だが、こうしてみるとやはりただの可愛い女の子にしか見えない。


 しかし、いざそういうときになると可愛いだけじゃないというか、色気があるというか……。


「んっ…………ん……?」


 ゆっくりと眞白が目を覚ます。

 どうやら寝ぼけているようで、しばらくの間ぼーっと辺りを見渡し、


「…………あれ?」


 首を傾げ、ようやく俺と目が合った。


「…………へ? …………え⁉」


 白い肌を布団で隠し、眞白が顔を真っ赤にする。

 どうやら状況を理解したらしい。


「その……おはよう」

「おはっ……よ、ようじゃない、わよ……吞気な顔して……」


 眞白が布団で顔を隠す。かと思えばちらっと俺を見て、また隠す。

 それをしばらく繰り返した後、


「…………し、シたのよね、私たち。それも……また」

「……あ、あぁ、また」


 眞白がぷるぷると体を震わす。


 幼なじみである俺は知っている。

 これは眞白がブチギレるときの前兆で……。




「…………か、帰る」




 そう言って、眞白は服を着てそそくさと部屋を出ていった。


「……え?」


 あまりに予想外で、間抜けな声が漏れた。


 眞白は俺にキレなかった。

 それどころかやけにしおらしくて、俺に対する棘を一切感じなかった。


 昨晩だってそうだ。

 すぐに大人しくなって、俺に対する罵詈雑言だって弱くて、それで……。


「どうなってんだ……これ」


 心が全く追いつかない、二回目の朝だった。




















 その後、いつも通り別々に登校。


 俺はHRギリギリに着き、教室に入った。

 眞白はすでに登校していて、長谷と何やら楽しそうに話していた。


「ってかましろん髪サラサラだよね~。やっぱし、朝結構セットしてきてんの~?」

「そんなことないわよ。それに今日はあまり時間がなくて、軽くブラシで梳かした程度だし」

「……サラサラ税徴収していい? 格差是正のために」

「嫌よ」

「たはー」


 確かに、眞白はいつもの高嶺の花然としている。今日は普段より確実にバタバタしていたはずなのに。


 素直に感心していると、不意に眞白と目が合った。


「……あ」

「ん? あ、北っちじゃん。はよー」

「お、おはよう」


 怒っているのかわからないが、眞白にじっと見られる。

 セオリーでいけば、何か言えばいつにも増して罵詈雑言を浴びせられるだろう。


「ま、眞白も……おはよう」


 ビクビクしながら話しかけると、眞白はキッと俺を睨んで――くることもなく。



「…………はよ」



 とだけ呟いた。

 明らかにいつもと違う、棘のない言葉に長谷が首をかしげる。


「ましろん? どしたん?」

「どうもしてないわよ」

「そ?」

「そうよ」

「ふーん……」


 またしても長谷が俺と眞白を交互に見て、さらりと言った。



「あ、今朝もちゅーした?」



 ちゅーどころではなく、二回目の……というツッコみはさておき。


 長谷にとっては挨拶代わりの軽いジョーク。

 今の眞白なら多少は動揺するも、バシッと返す――かと思いきや。








「っ!!! な、何を言っているの⁉ そんなことするわけないでしょ⁉ ば、馬鹿なの⁉ 馬鹿! 馬鹿兼助! け、兼助馬鹿!!」

「俺何も言ってないのに⁉」








 眞白の声が教室中に響き渡る。

 教室はしんと静まり返り、顔を真っ赤にした眞白に視線が集まった。


「えっと……ましろん?」

「…………し、知らない。もう兼助なんて……しっ、知らないわ……っ!」


 眞白がつかつかと教室から出ていく。


 普段、特に学校ではあまり感情を見せることがなく、クールビューティーの印象を保っているがゆえに一連の眞白の言動は物珍しく映った。


 クラスメイトたちも困惑し、教室に妙なざわつきが残っている。


「な、なんで俺ばっかり……今の流れは長谷だよな?」

「ひ、避雷針的な? 北っちの天職は避雷針だから。ってか前世?」

「なわけないだろ……ってか天職ってなんだよ避雷針が」


 大体のほほんとしている長谷でさえ、あの眞白に動揺していた。


「とりあえず……鞄置けば?」

「お、おう」


 かくいう俺も、動揺していた。

 眞白がここまでブレるなんて……革命どころの騒ぎじゃない。


 ただでさえ、勢いでまたシてしまったことに対して気持ちの整理が出来ていないのに……ここまで来ると、大賢者とかじゃなくて逆に冷静になってきた。

 

 とりあえず、鞄は置こう。まず鞄……。


「北っち、そこ私の席」

「あ」




















 放課後。


 美化委員の簡単な仕事を片付けた俺はすぐに帰路についた。

 もちろん、眞白のことを考えながらである。


 思えば最近、眞白のことばかり考えている。

 最初の一件があってから、俺と眞白の関係は大きく変わった。というより、眞白が大きく変わった。


 女王様は、あの頃の女王様ではなくなったのだ。


「(そりゃそうだよな……プライドが高くて俺のことガンガン見下してて、それでいて男を自分に一切近づけなかった眞白が、俺と二回もするなんて……)」


 なんてことを考えていると、カフェの前でうろちょろしている女子生徒が目に入った。


「いやっ……で、でも……よしっ……じゃなくて……」


 入ろうとしてためらって、決意を新たにまた入ろうとするも引き返して……というのをずっと繰り返している。


「…………うぅ、なんでなのよ……今こそ甘いものを食べないと、いよいよ自己のバランスが保てなくなって……だ、第一、私のせいじゃ……で、でもシたことは事実で……し、しかも二回も……っ!! うぅ……うぅ……」


 ブツブツとひとり呟き、やがてしょんぼりする女子生徒。


 ……ってかあれ、眞白だよな?


「ま、眞白?」


 反射的に声をかけると、眞白が肩をビクッと震わす。

 鞄を両手でぎゅっと握り、消え入りそうな声で言った。








「……な、なに? 私に……何か用でもあるの?」








 用があるというか、傍から見たら不審者だから……というツッコみはさておき。



 ……あれ? 眞白って、こんなにしおらしかったっけ?



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