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幼なじみに「どうせ押し倒す度胸もないくせに」と散々煽られたので、朝チュンしてやった  作者: 本町かまくら


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第23話 初デートは特別なモノ


 終業式を終え。

 教卓の前に立った教師が気だるげに声を飛ばした。


「明日から夏休みだ。羽目は外さない程度に外すように。以上」


 放課後のチャイムが鳴り響き、全員が解放される。

 明日からと言わず今から夏休みだ。


 もれなく全員の表情が明るくなる中、ツンとした眞白が俺の席にやってくる。


「兼助、帰るわよ」

「おう」


 俺が荷物を整理している間も、眞白はじっと待ってくれていた。

 それがなんだか嬉しくて、


「……へっ」

「急にニヤけないでくれる? 気持ち悪いのだけれど」


 それは無理なお願いである。


 それから、夏休み到来にひたすらはしゃぐ長谷を含めたクラスメイトたちと軽く挨拶を交わし、教室を出る。


 いつもより浮足立っている校内。

 みんなで同じことに喜び、騒いでいるこの雰囲気が俺は割と好きだった。


 眞白と並んで校門を抜け、いつもの帰り道を歩く。


「夏休み、眞白はなんか予定あるのか?」

「特にないわ。早いうちに課題を終わらせるくらいね。あとは……まぁ、八江子と遊ぶとか」

「ほんと仲いいな」


 ここまで眞白に仲のいい友達がいるのも珍しい。

 今までよく言えば孤高、悪く言えばぼっちに近い状態だったし。


 最近は、周りとも上手くやっていく術を身につけたみたいだけど。


「で、そういう兼助は……あ、ごめんなさい。自明のことをわざわざ本人に聞くのはあまりに酷で可哀そうよね。配慮が足りていなかったわ。ごめんなさい。とはいえ、このごめんなさいは至って形式的なもので、私は全くもって兼助に申し訳ないという感情を抱いていないのだけれど」

「全部が全部俺を傷つけてるぞ。それも的確に」

「そんなこともないわよ? どうせ兼助には予定なんてないだろうから、それを自分の口から言わせるのは可哀そうだと思って聞かないであげたもの。ちなみに、可哀そうとはいえ同情はしてないのだけれど」

「補足がわざわざ助走つけて蹴り飛ばしてるのと同じなんだよな……人の傷つけ方の手数がすごいよな、眞白って。褒めてないけど」

「あら、兼助も習得したみたいね。おめでとう。まぁ、心から祝ってはないのだけれど」

「……なんだこの会話」


 呆れてため息をつく。

 すると、眞白はあからさまに咳ばらいをしてそっぽを向きながら、ごにょごにょと言い始めた。


「だ、だから、まぁ……そんな兼助と一緒にいてあげてもいいというか、私が仕方なく予定を作ってあげてもいいというか……」

「え? なんて?」

「よ、要するによ!」


 眞白が意を決したように俺をまっすぐ見ると、まるで命令するかのように言い放った。



「明日、十時に駅に来なさい。拒否権はないから」



「……え?」










   ▽   ▽   ▽










 翌日。そして、夏休み初日。


 眞白に言われるがまま駅に向かう。

 ちょうどに着いたら怒られると思い、十分前を目安に来たのだが……。


「ねぇ、見てあの子かわいくない?」

「うっわ、めっちゃ美人じゃん。芸能人じゃね?」

「スタイルよすぎ……絶対モデルとかでしょ」

「誰か待ってんのかな……いいなー、あんな子に待たれるなんて」


 時計台の前に立っている、一際注目を集める女の子。


 白のプリントTにダメージの入ったワイドデニムパンツ。

 鞄を肩にかけた綺麗なAラインのシルエットで、髪型は長い黒髪をひとつに結んだポニーテール。


「…………ふぅ」


 チラチラと時計を見て、どこか落ち着かない様子の彼女。

 周りの注目なんて気にする素振りもなく、明らかに誰かを待っていた。まるで早く来てほしいと言わんばかりの顔をして。



 ……ちょっと待って、俺の彼女かわいすぎるんだけど。



 遠くから見惚れていると、眞白が俺に気が付いた。


「! ……む」


 スタスタと俺の前までやってくると、胸倉を掴む勢いで睨みつけてくる。


「ちょっと、遅いのだけれど。どうして私が兼助を待たなきゃいけないの? 兼助は私を待つ側であって、待たせる側ではないと思うのだけれど?」

「いきなり勢いすごいから。ってか十分前だから」

「十分前? 遅いわよ。兼助なんだからもっと早く来なさいよ。兼助なんだから」

「兼助なんだからなんだよ。ってか俺どんだけ立場低いの? 対等じゃないの?」

「……知らないわよ、フンっ」


 眞白が不機嫌そうにそっぽを向く。

 しかし、よく見ればその表情は柔らかく、どこか嬉しそうだった。


「待たせてごめん」

「ほんとよ。私がどれだけ待ったと思って……」

「へぇ、早く来ちゃうほど楽しみにしてくれてたのか」

「っ! そっ、それは……は、早く準備が終わっただけよ」

「……ほんとに?」

「ほんとよ。あとは……まぁ、早く起きちゃったのもある、けど」

「……へぇ」

「っ!! た、楽しみで早起きしたわけじゃないわよ! ほんとに! ほ、本当に!」

「……ほんとに?」

「ほ、ほんとだって言ってるでしょ?」

「…………」

「な、何よ」

「……ほんとかなと思って」

「ほんとだって……」

「…………」

「……はぁ」


 眞白が深いため息をつき、腕を組む。

 斜め下に視線を落とすと、頬をほんのり赤らめて口先を尖らせながら言った。





「…………楽しみで早く来たら悪い? こ、これでも私……その……真っ当に女の子なのだけれど」



 


 眞白の言葉が、ずきゅんと胸を打ち抜いた。


「……ダメだ、俺の彼女がかわいすぎる」

「っ! あ、当たり前でしょ? だって……私、だもの」

「…………好きだ」

「っ⁉⁉ あ、あんまりそういうことを軽々しく言わないでくれる⁉ ひ、人前だし……」

「じゃあ人のいないところで言うな」

「そっ、それは……なんだかえ、えっちじゃない……」

「えっち……よし、人のいないところに行こう。今すぐに行こう」

「っ!! 調子に乗るんじゃないわよばか兼助! ば、ばか! ばか!」


 悪態って、ある程度弱体化するとかわいいでしかないんだよな……ほんとにかわいい。


「次からは俺が早く来るよ。正直、俺も楽しみで早く起きちゃってたし」

「……そうして」

「……次も当たり前にあるんだな」

「っ! う、うるさい!」


 ……はい、かわいい。


「ほ、ほら、さっさと行くわよ」


 眞白が前を歩いていく。

 

「兼助、早く」

「わかったよ」


 眞白に急かされ、慌ててとなりに並んだ。

 改札を潜り、ちょうどやってきた電車に乗る。


 ホームドアの前に立つと、眞白は胸の前で腕を組んだ。


「そういえば、どうして駅集合にしたんだ? 家の前の方が楽だし、簡単だろ?」

「……はぁ、ほんっとわかってないわね。これだから兼助は……」


 呆れたようにため息をつき、眞白が車窓の外に視線を向ける。


「そんなの……味気ないからに決まってるじゃない」

「味気ない?」

「そうよ。いつも家の前で会ってるんだし……」


 眞白はちらっと俺の方を見ると、すぐに外に視線を戻し、照れたようにぼそっと呟いた。




「……せっかくのデートなんだから、待ち合わせとかしてみたいのよ」




 そしてもう一度、俺のことをちらっと見てくる。


 ……本当に、俺は乙女心を分かってない。


「そっか。確かに、待ち合わせっていいよな……なんかいつもと違う感じでワクワクしたし。ありがとな、眞白」

「っ! な、何よ急に……気持ち悪いわね」

「あ、そうだ。今日、なんかしたいこととかあれば構わず言ってくれ。もちろん、俺からも言うしさ」

「きゅ、急にやる気を出さないでくれる?」

「最初からやる気満々だよ。言っただろ? 俺も楽しみにしてたって」

「っ!! ……私は別に、楽しみになんかしていなかったけれど」

「さっきの眞白はどこ行ったんだよ……」


 さすがに無理がある誤魔化し方だ。


「というか、兼助に言われなくてもそのつもりよ。私が兼助に気を遣ったことなんてほとんどないし、そもそも兼助に拒否権はないもの」

「それはそうでした」

「まったく……だから、今日一日付き合ってもらうから」

「喜んで」

「……そ」


 雰囲気はいかにもデートっぽく、ふんわりと弾んでいる。


 眞白とのデート。

 眞白から誘ってくれた、付き合って初めてのデート。


「……ってか眞白、ちゃんとデートだって思ってくれてたんだな」

「っ! ……うるさい」


 まだ始まったばかりなのに、もうすでに楽しい。


 それからしばらく電車に揺られ、大型ショッピングモールのある駅で降車した。


 ふたり、並んで歩く。


 今、この雰囲気ならいけるかもしれない。

 そして何より、俺がつなぎたかった。せっかくの初デートで、眞白と……手を。


 揺れる眞白の手にさりげなくも、思い切って触れる。


「っ!!」


 冷たくてやわらかい眞白の指。

 ビクンと反応するも、すぐに避けられることはなかった。 


 これはいける。ようやく付き合って初めて、眞白と……!



「こ、こっちよ。ついてきなさい」



 眞白が進行方向を変え、早歩きで前を歩く。

 俺の伸ばした手はするりとかわされ、空を切った。


「お、おう……」


 やはり、眞白はガードが堅い。というか堅すぎる。

 手をつなぐのも初めてじゃないし、何なら二回もセックスしてるのに……。


 いや、この際もはや関係ないのか? 手をつなぐよりもっと深いことしてるわけだし、関係あると思ってたけど……ダメだ、こういうの初めてすぎてわからない。


 ただ、今更初歩中の初歩でつまずいていることはわかる。残念ながらわかる。


「何しているのよ。早く来なさい」

「お、おう」


 慌てて眞白のとなりに並ぶ。


 ……いや、焦るな北兼助。これくらいの手強さ面倒くささ拗れ方、眞白が相手なら当然だ。むしろそこがかわいいまである。


 まだデートは始まったばかり。

 でも今日こそは、眞白との恋人としての仲を進展させて……。


 手をつなぐ。


 ってか、つなぎたい!



 ――こうして夏休み初日、初デートが幕を開けた。


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