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Dragoon Bandit  作者: ぺちっとぶん投げる
14/16

指南書

魔法の本を閉じると、僕に使えないという結論に至ってそれならこれからどうしようかという漠然としたこの後の長い人生について考えた。


まあ何をするにしてもこの先の人生を生きるには金が入用だという初心に強制帰順した。地獄の沙汰もそうだが存命中も世はまさに金の沙汰次第だ。

金、金、金。まったくいやになる。


今のとこ冒険者は稼げているけど年をとってからも続けるのは危険だし、早めに軌道修正して読み書きと計算ができるようになったのは正解か。

何か開店資金か丁稚商人とかになるのがよさそうだ。最初はどこかで下働きしてそこで実績を積んで自分の店を持つか、戦地にまで戦利品を買取に来た行商人みたいに自分の足で稼ぐか。

楽そうに言っているが始めたら、それはそれで冒険者とも違う苦労が待っているのだろうが。


商売を始めるにしても先立つものが必要で暫くは冒険者で稼ぐことになるだろうけど。

僕はギルドで前は何となく絵で判断していたけど、ちゃんと依頼の紙を読めるようになった。だからボーっと眺めていた。ああ、こんな説明なのかと今まで見ていた同じ景色が似て異なるように見えて目からうろこが取れた気分だ。


その中、目に入ったのは技術指南書だ。ついつい字が読めるようになったものだから周囲の字を目で追ってしまったのだ。指南書が並んでいたのはクエストボードの隣に鎮座している本棚だ。モンスターの種類や特徴、薬草の種類そういった冒険者活動に有益な情報があるようだ。

その中に、何言っているのかよくわからない文章で説明するなよって感じであるが、よく映画とかで森の中を歩いていたら足にロープが引っ掛かって逆さま宙づりになる罠が記載されていた。

今やっているくくり罠は木のしなりを使って罠に仕掛けるタイプだが、いかんせん自分の力で引っ張って曲げれる程度の木が限界だ。狙える獲物は小振りで大物は無理だった。


しかしこれは自力でも小さな岩を幾つも集めて縛って一つの大きなおもりとして使えばより大物が取れるのだ。


ほうほう興味深いと仕組みを勉強していると頭に手を置かれた。

グレン先輩だ。


「ルーク字読めたっけ?」


「ローゲル先生から字教えてもらったんですよ。罠の本読んだんでオークにリベンジしてやろうかなって」


「なら赤布を置けよ。人が引っ掛かるかもしれない。規則だ」


冒険者の規則で大型罠を仕掛けるなら目印をギルドで買わないといけないらしい。

けど安いもんだ。

それにしても先輩が冬の早朝にやってくるとは珍しい。

この人は寒いと酒が手放せないのだ。


「冬は籠ってるだけだとたまに体が動かしたくなるからな。オークは重いから全身持ってこれなかったら、そうだなこことここと……こっちが売れるから」


先輩に言われてオークの売れる個所を覚える。可食部、他睾丸等薬になるところ。解体手順も覚える。

やはり字を読めるようになって良かった。指南書のオークの解体図鑑も役に立ったし、今まで雑草だと思って薬草と知らなかった種類の薬草がわかったしそれの根が薬草になるから嵩張る葉はいらないとか非常に為になった。


取りあえず本で学ぶのは今日はここまででいいだろう。本を棚に返した僕は受付で職員から目印の布を買う。そうしたら職員が怪我をしているのに気付いた。痛々しく、頭部に包帯を巻いている。転んだのかな?


「ああ、オークで思い出したが、あのテッドだが」


横からグレン先輩の声。

それは何でもひどいだろうと思ったが口はつぐんだ。彼は少し可食気味な体型なだけだ。医者は痩せることを迷わず進める程度。


「あいつがオーガを狩って来たんだけどな買取価格が低いと暴れてな。ルークちゃんと教えたのか?」


おっとこっちに飛び火してきたぞ。これって僕が悪いのか? 初心者講座教師役でもらった金は返さんぞ。

それにしてもオーガか。オークより倍強い相手だ。僕はその弱いオークにすら二の足踏んでいるというのに。やるじゃないか彼は。


「初心者講座でゴブリン倒してもらったけど死んでるのに執拗に切り付けるんですよ。そんなのじゃあ魔石も討伐証明部位とかずたずたになって買取が下がるぞって言ったのに。依頼だって僕が事前に9割集めてた薬草の納品してですけど一度はクリアしてもらいました」


文句を言われる筋合いはない。

モンスターはただ殺しただけではいけないのだ。というか殺すだけってただの快楽殺人だろう。魔物だけど。

少しだけ治安が良くなるから討伐証明部位でお金は出るけども。

素材売ってなんぼだ。


「それにしてもオーガかあ。こんな季節なのに彼は見た目の割に勤勉ですね。グレン先輩より強いんじゃないですか?」


「安保か、魔法使い最弱でも非魔法使い最強よりよっぽど強いしあいつは便利なものを持っている。あのまるまる太った腕にはめられた腕輪は周囲の温度をある程度コントロールできるアーティファクトだろうな。それに魔法使いは平民より税金が高い」


アーティファクト、つまりは古代の遺跡で見つかった過去滅んだ超文明の遺物だろう。勿論自分で見つけたものでなく家から持ってきたものだろうけど。

何だ受付の人を怪我させたのはいけないが勤勉に魔の森の安定に貢献していると思ったら戦争に行きたくない納税者なのか。

僕と一緒だとわかると、まるで彼までもが僕のレベルまで落ちて気がしてほくそ笑む。


僕はそれから2,3先輩と談笑してから森に向かった。

今日から心機一転、オークを狩るのだ。

その為に取りあえずロープを買った。流石に正面からは勝てない。正面切って戦うのは罠で身動きできなくして、弱点なりどのくらい腕力があるとか見てからでも遅くないだろう。


それで僕は脱初心者エリアと初心者エリアの境界線のよさげな大木に目を付ける。

オークとそのオークを釣り上げる重しに耐えそうな立派な大木だ。きっと持ち帰られたら、木材や薪として重宝されそうなくらいの大きな大木だ。

自覚がないわけではないがあまり僕は力がないらしい。

それに左手は指が少ない。ロープを引っ張る力がないのは分かり切っている。


だからオーク一匹分を宙づりにするだけの重さの岩で位置エネルギーを稼ぐのは苦労した。

何個も何個も僕の力で抱えられる中くらいの岩を周囲から運び、ロープを使って木の高いところに運んではそれぞれを結び付けて一塊にして総重量を稼ぐのだが、これがまあ大変だった。

罠を仕掛ける木のところまで手ごろな岩を運ぶのもだが、冷たいし、湿ってる。集めれば集めるほど近くの岩が無くなってより遠くから運んでこないといけなくなる。

それに運んでからも吊り上げるまで苦労したし、地面に木の杭を打ってつっかえでその重りと繋いだのだがかなりの重量だ。つっかえが耐え切れず外れて重りが落ちたときなんかは頭がおかしくなりそうなほど狂い苦しんだ。


オークを仕留めるのに安定の目途が立てば滑車を購入するのもいいかもしれないが、何か見落としや穴があるかもしれない。作戦を断念した時にその出費は痛い。成功実績を積んでからでも遅くないだろう。肉体労働で代価を支払う屈辱と労力に今は耐えるのみだ。

けどこれはあんまりだ。続けるなら早く購入したいし諦めるにしても早めに判断したいものだ。


そうしてお約束で赤い布を木に巻いて餌はオークが好きな酒の残りかすをまぶしたドングリを撒いた。

これでいいだろう。久しぶりに違うことをしてどっと疲れた。


「罠仕掛けただけだけど疲れるなあ。やっぱ寒い中ロープを引っ張っると手が痛い」


その日は帰って明日罠がどうなっているか確認しよう。

荷物をまとめると僕は家に帰った。





結果は初めてでうまくいくわけはなく、罠は壊されていて餌はなくなっていた。

けど引っかかったのは間違いない。罠にかかって地面を擦った跡がある。問題は足跡が複数あることだ。

概ね一匹が引っ掛かって宙づりにされたけど二匹目が助けたというところだろう。

そうだよなあ。オークは知恵もあるし群れるよなあ。


「……そうか、そう来たかあ」


脱初心者エリアだなんて銘打っているけど敵の強さ知能狡猾さそれはぐっと上がる。ゲームみたいにただ初心者エリアより少し強くなるだけじゃないのだ。

体感数段強さの格差がある。


畜生と毒づいて罠を位置を変えて再度仕掛け直した。

はぐれに当たるのを期待しつつも幸運に全てを賭けるほど愚かな真似はしない。ならと罠を増設するのだ。罠にかからなかった二匹目が助けるというなら罠を近くに複数個しかけてその二匹目も罠にかければいいのだ。


そうしてオーク用の罠を仕掛けて、ルーチンワークで罠に引っかかっていた角兎と双頭鳥をもってギルドに戻る。

解体して可食部を調理場に渡して軽めの食事を作ってもらおうとすると、ただ前を何の気なしに掲示板を過ぎただけだが、不意に目に映った物に目が留まる。


薬草採取の依頼の値段が上がっているのだ。

そりゃあ実りが少ない冬でどんどん消耗品とか無くなっているから値上がりするのは分かるけど、今までの緩やかな上がりからガクッと上がった。異常なあがり具合だ。

それに今回ギルドに売った獲物も、いささか高値で買い取ってもらった。


そりゃあ売った身としてはありがたいことだけど何だここにきてこの上がり用は。

いや、これはおかしい。僕に都合がいいなんてこの過酷な世界では可笑しい。

異常なことだ。

食料なり薬草なり値上がりしているのだ。生産者側だからいいけど僕だって栄養バランスよく他の飯を食べるため他人事でない。


角兎と双頭鳥の可食部を売った僕は角と羽をもって矢の材料として買い取ってもらおうと武器屋に向かう。商人だから物流に詳しいだろうという下心の表れだ。

口が堅ければ幾つか差し入れの肉を詰め込めば開いてくれるかもしれないし。

何か知っているのでないかと武器屋の道中を歩いたわけだけど、ここでまさかの再開。

店の中からテッドが出てきたから僕は慌てて避けて彼に道を譲った。

こんなところに珍しい。


彼は僕の方にチラリとも視線を寄越さず通り過ぎて行った。寄越さなかったから逆にこっちが探るように無遠慮に彼の様子を見た。

珍しいことに腰に量産品の剣を持っていたのだ。僕の持ってるのより高いけど。いつものあの自慢した高価な剣も持っているのに何でだ。謎だ。今更二刀流にでも目覚めたのだろうか。


気を取り直して矢の材料を売って何か心当たりがないかと聞いたが武器屋の亭主は肩を竦めて首を振った。

肉も薬草も王都の方に運ばれているとだけ。専業じゃないから詳しく知らないと言われればこちらも深く聞けないだろう。物流の流れだけはわかるけど理由は皆目見当がつかないみたいだ。

冗談風に、王都のでかい食糧庫がボヤでもなったんじゃねえかと笑っていた。


詳しく気になるのなら魔法使いでありあちこちに顔が利いて実際に薬草を取り扱うローゲル医師に聞いた方がいいだろうと言われたので僕は挨拶をすると武器屋を後にして診療所を目指した。


するとちょうど先生が出てくるところだった。


「あ、せんせー」


「む、ルークか。何だ診療所に? また怪我か?」


そんなに僕ってそそっかしく見えるのだろうか。


「いえ、何か王都に薬草とか少量が集められてて高騰しているから何か知らないかなあって」


「最近乾燥してるからのう、誰かが火の不始末で倉庫を燃やしたか……。それならまだいいが儂の考えじゃあ……最悪なことになりそうじゃの。今からギルドに行って少し依頼をしてくるところじゃ」


勿論先生がギルドに行くのなら僕も行く所存だ。

依頼内容はこの町から少し離れている村に薬草を買い付けに行ってもらう仕事のようだ。その村は今は亡きガイアがいた村で、村の奥にある薬草園の洞窟で解熱や咳に効く薬草を栽培しているのだ。隣村でよく物々交換しているから覚えている。僕も小さい頃風邪をひいたときお世話になった物だ。

ここ近辺一番の薬草生産地の村。


先生がギルドに到着すると受付にいつもの薬草採取と買い付けの依頼を頼んだ。

ここだけの話だがうちのギルドでは暗黙の了解で安値で治療してくれる先生の依頼は薄利でもいつものお礼として中堅帯の人たちでも受けることがある。

駆け出しも依頼を達成したらよくやったと褒められて先輩たちと顔をつながって、戦闘のコツとか教えてもらえるため優先されるのだ。


当然こんなお使いみたいな仕事は戦闘が起きないかもしれない安全な依頼だ。難易度は高くないし誰かが受けるだろう。何だったら僕が受けてもいいとすら思っている依頼だが何だか掲示板前で中堅帯の人たちが厳しい顔で佇んでいて雲行きが怪しい。


何だろうと思っているとその村から依頼があるそうだ。

人を掻き分けて見せてもらうと薬草園の洞窟に住み着いているジャイアンアント討伐のようだ。


それを見て、ああ、あいつら足元見やがったなと思った。隣村に住んでいるから事情を僕は知っていた。

ジャイアンアントはだいぶ前からあの村の洞窟で見られるようになった魔物だ。

きっと洞窟を拡張していたら巣にぶち当たったのだろう。

当然村は自分たちの手には負えなくて町の冒険者ギルドに討伐依頼を出した。

けれど依頼内容に対して報酬額が少なくて誰も受けず、村は何とか魔物が嫌がるお香とか、巣の穴をふさいでやりくりしていたのだ。


これが本当に村が貧困だったりしたら心痛めた冒険者が受けたかもしれないがあいつらは僕の村よりよほど裕福だ。薬草で儲かっているのに危険な魔物討伐の報酬を出し渋っているのだ。

冒険者としては相場以下の値段で依頼を受けると安い前例を作って他の冒険者から睨まれるため、よほどの理由でないから無視されたのだ。


きっと戦場帰りにガイアに身内割引で格安に受けさせようとしていたのだろう。けど彼は死んでしまった。

残念だ、村総出で彼の門出を祝っていたのに。

その村が値上がりを背景に討伐してくれないと薬草は売らないと強気に出てきたのだ。



因みに僕はこの話を聞いて途端に蚊帳の外に追い出された。

糞雑魚だからだ。未だに冒険者として最下級のランクから脱せずにいる僕にこういった大ごとな依頼が回ってくることはないからだ。


先生がキレ気味で、プルプルしている。こんなことになっても利益を追求する醜い生き物におかんむりだ。

冒険者ギルドひいてはこの町の薬草の流通に関して頭を押さえられ締め上げられているからこれは間違いなく大きな問題になりそうだ。もしかしたら領主案件かもしれない。

速やかに解決されることを祈って僕は特に止められることもなく他人任せでギルドを出た。

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