遊女
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事件は夜に引きおこるという。そこで拠点を確保する為に、朝の間に今回の目的地である吉原遊郭へ到着した。まだ朝方だというのに人混みが出来ている。あまりの賑わいに驚きを隠しきれない。江戸の町も大概賑わっているが、ここはそれ以上である。朝帰りの遊び人達がまだ酔った様子で歩き回っている。
「なんか女らしい女ばっかりいるな」
遊女の歩く姿に、何故か面倒な連中だなみたいな顔をしている。滋賀栄助の姿は髪型を覗いて侍そのものの。まあ疎まれている感があるのは栄助の方だろうが。
「憧れますか?」
「いいや、別に。ああいう格好をして欲しいと思っているのか?」
「え、いえ、ええええええ、え、いやいやいや、それはそれは」
「素直に見たいって言えよ。まあ、今回は遊女が襲われている訳ではないから、この前の溝鼠戦みたく私が変装する理由はないけどな」
あの時も変装して油断させる作戦などあっさり忘れて、刀を持って突進していた人がいたような気がするのだが。
「今回は私が囮になります」
「で、お前を襲ってきた百鬼を私がぶった切ればいいんだな!」
「そうですね」
吉原という地にも陰陽師は存在する。ここを担当している人間と合流しなくてはならない。が、もう全員殺されてしまっている可能性もあるが。夜まで時間があるので事務所には顔を出そうと思っている。
「でもなんでこんなに遊女が朝から歩き回っているのだろう。普通はこの時間は寝ているはずなんだけど」
「ん? 歩いていたら可笑しいのか?」
「そりゃあこの辺のお店は夜営業でしょうから。昼間の間は寝ている場合も多いんですよ。居間で雑魚寝するんです。だから出歩くはずがないと思いますが」
「随分と詳しいな」
「これくらい常識の範囲内ですよっ!」
過剰に反論する実松に対してムッツリめという顔をする。恥ずかしそうに地面を見て歩くようになってしまった。そんな姿を見つめてクスクスと遊女達が笑う。
「おお、じゃあ聞いてみればいいじゃねーか。おーい!」
遊女たちが集まっている集団へ躊躇なく走っていく。右手を頭上で振りながら、「おーい、おーい」と叫びながら。実松が後から追いかける形で駆けていく。
「ちょっと聞きたいことがあるのだけど、いいかな」
「江戸から来た武家の方ですか?」
「おう! 助けに来たぜ! で、こっちは陰陽師だ」
初めて会った遊女に声が出なく、実松は恥ずかしそうに小さく会釈をする。
「助かります。はよ、退治してください。殆どの店が化け物騒動のせいで営業が出来ません」
独特なイントネーションで言葉を話す。実松は手に顎を置いた。
薄々理由は分かっていたが、やはりという感じである。化け物が夜に暴れている。お客を神隠しに合わせる訳にはいかないので、営業を停止したのだ。だから、仕事を中断された遊女たちが昼間に外にいるのだろう。
「あれ、でもさっき酒に酔った男が出歩いてなかったか?」
「あの化け物は幕府のお偉いさんやお大臣様しか狙わないんです。庶民を襲っている訳ではないので」
貴重な情報だと思い、すぐに懐から筆を取り記録を取る。
「ふん。金持ち狙いか。で、実際に襲われている所を見たのか?」
「いいえ。誰も見ていません。しかし、叫び声なら聞いている者が多くて。まるで鶯のような鳴き声でした」
百鬼閻魔帳は猪飼慈雲に預けてしまっているので、手元にはないのだが、ここでようやく絵之木実松は今回の戦う相手の名前が連想できた。迦凌頻迦鶯小町。これで間違いない。




