武者
鶯小町は悪鬼ではあるものの、純粋な戦闘能力が高いようには描かれていなかった。怪談らしく迷い込んだ人間を喰らう一般的な悪霊だ。緑色の着物を着ており、麗しい姿をしていると表現されている。その魅惑で金持ちや権力者を誑かし、最後には喰らう。人間の様々な欲を餌とする生き物だ。
「その姿は幼い少女のように表現されます。まあ百鬼に年齢なんてあるのか疑問ですが」
「なんだ、今回の敵は雑魚そうだな」
いや、鶯の鳴き声と聞いて百鬼だと確信しているが、もしかしたら一般的な悪霊かもしれない。ここは吉原遊郭だ。人間の欲と豪が集まる場所。妖怪や悪霊は人が多い場所を好む。この場所ほど怪談話が生まれそうな所はない。だからこそ、この地には優秀な陰陽師が集うはずなのだが。機能していないということは、倒せない敵である百鬼なのか。
「人間社会に溶け込んでいるかもしれない。探し出すのは大変ですね」
★
鶯は江戸時代にはかなり飼育されていた。鶯の糞には美容効果があり、米ぬかと一緒に洗顔材として使われていたのだ。また、鳴き声を楽しむ為にも飼育されている。
「滋賀栄助がこの地に来たぞ」
「ちゃっちゃっ」
とある密室。誰も入れないこの薄暗い空間に二匹の百鬼がいた。前髪で目が見えないほどの長髪、緑色の浴衣を着た幼女。袖が余る程のサイズの合わない物を着ている。不気味な笑い声をあげて床に寝転んでいた。そして、横たわる無数の死体。外傷は一切なく生気を吸い取られたような姿。
もう一匹は緑色に変色した甲冑を着ている武者。白髪で髑髏のような顔をして、人の背丈ほどの長刀を帯刀している。鬼らしく二本の角を持っていた。その角は枯れ枝のように折れ曲がっている。その姿はまさに落ち武者そのもの。
名を『百鬼将:偽神牛鬼』。
「なんや、面白くなってきましたなぁ」
「あぁ。この機を逃す手はない。他の百鬼将に手柄を渡してなるものか。奴は拙者が殺す」
疑神牛鬼は横たわる死体を持ち上げると、噛み砕きもせずに頭から飲み込んだ。それを見て、鶯小町は笑い転げる。
「獄面鎧王さんからの情報では、どうやらコッチの世界に協力者がいるようで。何や陰陽師を語っているそうなんです。滋賀栄助の夫を名乗っているらしく」
「そんな有象無象に拙者は興味がない。ならば、そちらは貴様にくれてやる」
「おおきに」
獄面鎧王が鎧武者だと表現するなら、偽神牛鬼は髑髏武者だ。まさに剣豪が死んだ後の姿を体現している。口から白い煙を吐いて、髑髏の仮面から真っ赤な光が灯る。全身から溢れんばかりの妖力が流れ、部屋中の床を黒紫色で染め上げた。
次の瞬間に天井から三匹の百鬼が現れた。忍者のような姿をした悪鬼。三者三様に気色の悪い面をしている。右は歪んだ笑い顔の狼、左は巨大な一つ目、中央の忍者のお面は一切何も造形されていない。
「滋賀栄助を連れてこいっ! 殺して来ても構わん」
その言葉と共に三匹はまた天井の中へと吸い込まれていった。
「あの刀こそ我が悲願だ。遂に天和御魂が拙者の物となる!」




