守護
獲物はすぐに見つかった。独眼巨人は行動が早いわけではない。まだ燃え盛る炎の中で辺りを見回していたのである。奴の探している標的はただ一人。滋賀栄助だ。
「どこだ、連れてこい! 滋賀栄助を連れてこい! どこにいる!」
憤っている、平然ではない。持っている棍棒を左右に振り回し、地面を大足で踏み抜いて咆哮する。ただ殺害すべき対象、百鬼の宿敵であるという理由では説明がつかないほど、憤慨していた。まるで駄々をこねる子供のようであり、必死さが伺える。
何か大切なものを失ったような、どうしようもない姿。勢いよく手首を切断してやろうと思い、切り掛かる腹積もりだったが、あまりの惨めな鬼の姿に栄助が一瞬行動を躊躇った。立ち止まって鞘と鍔に両手を添える。足を肩幅に開いて居合の体制を取る。
「おい」
「なんだ小僧。貴様も喰らうぞ」
(俺が滋賀栄助だと気が付いていない?)
知恵を持たぬ怪物であるとは思っていたが、自分が探している人間の素顔も分からないとは。
「なぜ滋賀栄助を狙う。誰の命令だ」
百鬼を唯一殺せるのが栄助である。百鬼が滋賀栄助を狙うは必然。だが、奴の一つ目からは涙が零れていた。知恵は無くとも感情はあるのか。鬼は返事をしない。ただ栄助の方へ腕を伸ばし、掴もうという動作を取った。交渉の余地はない。栄助は暴神立を抜いた。
「独眼巨人。この俺、滋賀栄助が成敗いたす」
まずは伸ばした腕を切断するつもりで刀を当てた。が、カンッという金属が衝突する音が鳴り響いただけである。刀はあっさりと受け止められた。独眼巨人としては受け止めたという意思すらないだろう。
(暴神立の切先が届かない)
今まで暴神立で倒せない相手はいなかった。切り刻めば相手は消滅していたのである。しかし、独眼巨人の鋼鉄の皮膚には日本刀を寄せ付けない。身体の全てが鉄壁の防御である。
「お前が滋賀栄助だと?」
独眼巨人の一つしかない目がギョロっと栄助を捕捉した。今までの巻き散らしていただけの怒りが、奴の脳に収束された感触である。今までのように暴れない。ただ、腕を大きく振り返して刀を掃った。栄助は後方に跳ねて間合いを取る。
「ふざけるな! お前じゃない!」
栄助は怒り狂って殴り掛かることを想定していたのだが、予想は大きく外れた。
「馬鹿を言うな、小僧! 私の神殿から閻魔帳を奪ったのは、もっと高貴な青年だったぞ!」
「はぁ?」
小僧ではなく小娘なのだが、と言い返す暇はないとして。閻魔帳を盗んだ? そんな記憶は栄助にはない。栄助は手渡されたのだ、とある青年に。銀髪の上に烏帽子を被り、青く高価な服を着た、そんな青年だった。
「私の役割は百鬼閻魔帳を守護することだった! だが、滋賀栄助によって盗まれたのだ! だから、殺して奪い返す! このアイアンサイクロプスがなぁ!」
栄助に向かって棍棒を振った。今までのスローな動きじゃない。振り下ろしただけとはいえ、かなりの速度があった。栄助が躱せたから良かったものの、地面には軽いクレーターが出来ていた。
「小僧、滋賀栄助の替え玉だな。小癪な真似をしおって!」
「替え玉じゃねーよ。なんだよ、動作の遅いデブかと思えば、俊敏じゃねーか」




