page 5 -誤解ー
あ〜あつ〜・・・」愛実が目覚めた。
「げ〜まだ朝の4時じゃん。そうだ、拓斗んとこいっちゃお〜、もう起きてるかな?ま、いいや」
トントントン・・・。愛実は軽快に拓斗の下宿しているアパートの階段を上がっていった。
愛実は拓斗が下宿しているすぐ近くの宿に泊まっていた。
「おはよ〜!」「・・・・・」
「おはよ〜!!拓斗!」
「えっ!」俺はまだ寝ぼけ眼のまま起き上がった。
「愛実?なんでいんのよ・・・!」
「えへへ・・・だって目がさめちゃったんだもん・・・。」
「えへへ・・・じゃないだろ〜まじかよ〜もう少し寝かせてくれよ〜」
「だめだめ、起きて!私、今日はもう帰んなくちゃいけないんだから・・・。少しでも長く拓斗といたいの!」
「は〜!?」意味がわからん。ま、いいか・・・
「んじゃ、ちょっと海にでも行ってみるか?朝の海は気持ちいいぞ〜」
「え〜、ま、いいか。じゃあ、その帰りコンビニ寄って朝ごはん買おうよ!ねっ!」
なんか愛実は嬉しそうだ。俺はまだ半分眠くてしょうがなかったけれど・・・。
トントントン・・・
下宿の階段を2人は並んで下りた。
「わ〜本当だ、海がきれい〜!」「だろ!」愛実は楽しそうに笑っていた。
「あれ〜拓斗じゃない?おはよ〜ずいぶん早起きだね〜」
一瞬、俺はその声にドキッとした。なんでこんなとこで・・・
「あっ!海憂さん!おはようございます」俺は極力冷静を装って挨拶をした。
「ね?誰?拓斗」愛実が俺に聞く。
「あ〜ここで知り合った海憂さんっていうんだ」
「帆苅海憂といいます。よろしくね・・・。」
「成瀬愛実といいます。拓斗の同級生です。どうしても拓斗に会いたくて来ちゃいました。」
「あら、そうなの・・・」
「海憂さんはこれから練習ですか?」その時の俺はきっとどうしていいかわからない顔をしていたに違いない。
どう考えても愛実が俺の部屋に泊まったにしかみえないもんなぁ〜。言い訳がましく言うのも変だし・・・。
頭の中が真っ白になった感じがした。
「じゃ、練習しなきゃいけないから、またね、拓斗」
「はい・・・また」なんかそっけないな〜どうしたんだろう?
あの子は拓斗のなんなんだろう?彼女なのかな?やっぱそうだよね、こんなに朝早く、しかも彼の下宿先から2人で出てくるなんて
普通な関係ではないよね・・・。痛っ!やだ私ってばこんなとこでこけるなんてどうかしてる・・・。なんだか涙が出てきた・・・。
「海、行ってみるか?」「うん、そうだね。」俺はとりあえず愛実を海に連れ出す事にした。
「ね、拓斗?バイトどう?」「う〜ん・・・」「かわいい子ナンパした?」「うん、まぁ〜」「この服どう?」「あ、いいんじゃない」
「ね、拓斗?海憂さんてどんな人?」「えっ!・・・」「どんなってべつに・・・」
今日の拓斗はなんかへんだ・・・どっか上の空っていうか、私の事なんて眼中にないっていうか・・・舞い上がってる感じ。
特に海憂さんに会ってから・・・
「拓斗、拓斗ってば!!」「えっ、なに?」「さっきからどこ見てんのよ!」「どこってべつに・・・」
「べつにじゃないでしょ、海憂さんの方ばっか見てる!私の事なんて見てないでしょ!」俺はハッとした。
愛実を自分の目の前に置きながら俺は海憂の事ばっかり目で追っていた。
「最初からわかってた、拓斗が私の事、幼なじみにしか思ってないって。それでも私は拓斗の事が好き!」
愛実が抱きついてきた。
その時、大きな波が砕ける音がした。
「おい、愛実、いったいどうしたんだよ?「・・・」「おい!」
顔を見上げた愛実は涙顔だ。
「拓斗のばか!!もう、帰る・・・」
愛実がもうダッシュで走って行こうとする。「おい、愛実、ちょっと待てよ、おい!!」
2人の姿が私の視界から消えていく・・・。拓斗は彼女の事好きなのかな?
たぶん、あの愛実ちゃんて子は拓斗の事好きなんだろうな・・・。
拓斗はどう思ってるんだろ?きっと好きなんだろうな・・・
若くってかわいらしいあの子の事・・・じゃなきゃ拓斗の部屋から2人仲良く降りてなんかこないもんな。
こんなとこで私は撃沈するんだ・・・そんなのってそんなのってやだ・・・。
私ってば、こんなに彼の事好きなんだ、こんなにも好きになっていたんだ・・・。
私はこみ上げてくる涙をぬぐう事が出来なかった。
「愛実、おい!」「拓斗、拓斗って私の事好き?ね、答えて、今すぐここで答えてよ」
「なんで、お前、急にそんな事言うんだよ?」
「だって、拓斗、わかりやすいんだもん!あなたが今ここでどんな事、考えてるか私にはわかる」
「何がわかるっていうんだ?俺の何がわかるって言うんだ?なっ、愛実?」
「拓斗は拓斗は海憂さんの事好きなんでしょ?」
「わかるんだよ、今まで、ここまでこうしてあんたと過ごしてきてあんたの気持ちが私にはわかる!」
図星だった。俺は海憂に初めて会った時からきっと好きになっていたんだと思う。ただそれに気が付かない振りをしていたんだ。
彼女は俺より5つも歳が上だし、俺の事なんてガキだと思っているに違いない。
でも、そう思われてもやっぱり俺は海憂が彼女の事が頭から離れなかった。こんな気持ちは生まれて初めてだった。
「拓斗、1つだけ答えて・・・」愛実が泣きながら言う。
「私の事、少しは考えてくれてた?私の事、少しでも好きになってくれてた事あった?」
俺はしばらく考えた後、愛実に言った。
「正直、俺はお前の事は幼なじみとしてしか見ていなかった、ごめん、でも、これだけは言う、お前の笑顔に俺は何度となく助けられたし
ホッとしたりもした、でも、海憂に対する俺の気持ちと愛実に対する俺の気持ちはあきらかに違う」
「拓斗、正直だね・・・」「お前に嘘を言ってもどうせバレバレだろ?」「だね・・」
「でもね、ここへきて拓斗みてたらなんとなくわかってたよ、なんか、拓斗、楽しそうだったし・・・」
「私も、きっぱり拓斗の事はあきらめる・・・しばらくは、辛いだろうけど。バイト先でね、ちょっと気になる人いるんだ〜」
「愛実、嘘をつけ!そんな余裕はお前にはないだろ?」「へへ、バレたか・・・」
「当たり前だろ、何年、お前と付き合っていると思ってんの?」「だよね〜」
「でも、拓斗の本当の気持ちわかったら、なんか安心した、安心?って事もないか・・・」
「正直に本当の気持ち教えてくれてありがとう」「愛実、俺のほうこそ、悪かった、お前の気持ちに気づかなくって」
「うん・・・。んじゃ、私、もう行くね!学校で会おうね!下手に気を使わないでね、悲しくなるから、今まで通り、幼なじみのおばか同士で行こう!」
「なんだ、それ?」「いいじゃん、ばかなんだから・・・」「まぁな〜」「バイバ〜イ!!」
少し元気になった愛実はその日に帰って行った。
愛実には悪いと思ったけど、愛実が帰った後、俺はまじにホッとした。
もう、これ以上、海憂に誤解されたくなかったし、海憂の事をじっくり考えたりもしたかったから・・・。
その時、愛実が泣きながら歩いていたなんて、これっぽっちも考えもせずに・・・。
その後、いつも海憂が波乗りの練習をしている所にいってみたけれど、海憂の姿はどこにもなかった。