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† 残 †   作者: 月海
第六夜 螺旋の彼方
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繋がる想い(5)


「エルを傷付けた男を葬った後、奴らの残党はひとまず森へと逃げて行った。俺はすぐにエル、お前を村へ連れて行こうとした。ゲイル司祭なら、あるいはエルを助けられるかもしれないと思って。……だが、それだけの猶予は無かった……」


 音もなく閉ざされていく瞼の向こうに紫暗の光を隠しながら、ロイズハルトは一つ、複雑な色を込めて溜め息を吐いた。


「俺を庇った時に胸を貫かれて、肺と……心臓をやられていたのかもしれない。ほとんど……息は無かった。だから俺は……魔法を使った」

「それが闇の……回復魔法……」

「そう。だが、さっきも言った通り、本来は人間を死に至らしめる可能性もある魔法だ。あの状態のエルに使ったらどんなことになるか、覚悟もしていた。だが、頼れる者もいない中、躊躇っている時間は無かった」


 内臓を損傷し、ハイブリッドヴァンパイアに吸血され、事切れる寸前だったエルフェリスに残された道はそれしかなかった。


 ロイズハルトはきっぱりとそう言い切った。


 普通に聞いている分には、そのどこに問題があったのかなんて分からないだろう。


 放っておいても死ぬ。魔法を使っても、耐えきれずに死ぬかもしれない。そのような状況で、ヴァンパイアであるロイズハルトが人間である自分を助けようと苦悩して、決断してくれたという事実にはむしろ感謝はしても、なじる対象にはならない。


 それに、現にエルフェリスはこうして生きている。


 彼の魔法が功を奏し、自分は助かった。何を気に病む必要があるのだろう。


 そういう結末で話が終わるのではないかと思ったその時。


 ロイズハルトは思いも寄らぬ言葉を発したのだった。


「傷は跡形もなく塞がり、消えた。だが消えたのは、傷だけじゃなかった。魔法を施した後、すぐにゲイル司祭が現れた」

「司祭が?」

「ああ。俺と出会ってからのエルの言動にどうにも得心がいかなかったようでな、危険を承知であの夜、村から逃げ去るハイブリッドどもの後を一人で追ってきたらしいんだ。まあ、司祭も神聖魔法使いだしな。彼とは三者会議で顔を合わせたことがあったから、手短に事情を説明してエルを引き渡し、俺はハイブリッドどもを追った」


 そしてその夜のうちに、追い散らしたハイブリッドたちを森の奥深くで捕捉ほそくしたのだとロイズハルトは言った。


 残党は全部で六人。


 うち三人はその場で首と胴体をバラバラに引き裂かれ灰と化し、残りの三人はロイズハルトによって捕えられた後、ゲイル司祭の前に引き出された。


 そして数日後、普段からは想像も付かないような慈悲の欠片もない司祭の命令で、彼らは様々な刑に掛けられて死んでいくことになる。


 杭を心臓に打ち込まれ、瞬時に灰と化した者。太陽の光に曝され、じっくりと焼き殺されていった者。そして、司祭の血を飲まされ、オレンジの業火に包まれた者。


 見せしめのごとく行われたあの処刑の記憶はエルフェリスの中にも鮮烈に残っていたというのに、それに至るまでの一部分がすっぽりと抜け落ちていたことに、エルフェリスはようやく気付いていた。


「夜が明けぬうちに密かに村へと赴き、捕えた奴らを司祭へ引き渡した。その時エルはまだ目覚めてはいなかった。見守りたい気持ちはあったが、俺もヴァンパイア。できれば太陽は避けたかったから、その日はひとまずあの小屋へと引き上げた」


 そして再びの夜を待ち、難なく村への侵入を果たしたロイズハルトの見たものは、ひどく無感情で佇むエルフェリスの姿だった。


「冷めた瞳で、夜空を見上げていた。俺を見ても……」


 ――反応が無かった。


 そう言ったロイズハルトの両の手に、わずかながら力のこもるのをエルフェリスは見逃さなかった。


「それどころかハイブリッドの処刑を見に訪れた旅人だと思われたらしい。無表情のまま上から下まで観察された後、この辺りは物騒だから処刑を見たら早く立ち去れと忠告された」


 あの時の状況を思い出し、そしてくすくすと苦笑する彼は、どうしてか同時にひどく辛そうに顔を歪めた。


「俺は……エルの記憶とともに、エルの感情さえも奪ってしまったんだ」



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