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「え? それって婚約破棄ってこと?」
「……違う。婚約『解消』」
露骨にムッとしながら、ルディガーは熱い紅茶を口に含んだ。
対面に座るエルシャは、女のくせにずけずけと物を言うところがある。
おかげで付き合いやすくもあるのだが、不快な思いをさせられることも多々ある。
まさに今のように。
「だってアルマ様って、あなたより年上でしょう?」
「たった三つだぞ」
「女性が十九歳で婚約破棄だなんて、とんでもないことじゃない!」
いよいよ返事をする気力を失ってきた。
そんなことはルディガーだって十分理解している。
「別に俺がそれを望んだわけじゃない」
「じゃあどうして?」
「あちらが、気鬱が酷くてとても嫁入りができる状態ではないと。医者もまずは養生させる必要があると言っているそうだ」
「お元気になるまで待ってさしあげたらいいじゃない!」
「お前が言ったんだろ。女性の十九歳がどういう年齢なのか分かっているのかって」
ルディガーには婚約者がいた。
十二歳のとき、三つ年上のアルマというご令嬢との婚約が結ばれた。
それは今や貴族制度というものが形式上のものとなったこの国で、伝統を守るために取り決められた約束事であった。
それから四年。
情熱的な恋愛とはいかないなりに、精一杯婚約者としてやるべきことはやってきた。
アルマは非常によくできたご令嬢で、年上ながらルディガーをよく立てた。
決してでしゃばることもなく、静かに後ろに控えているような女性だった。
それが突然、父からこの婚約はなかったことになったと告げられた。
それも、アルマが心を壊してしまったのが理由だというではないか。
ルディガーは当然見舞いを申し出たが、とても人に会える状態ではないと断られた。
そして一度も顔を見ぬままに紙切れ一枚で婚約は解消された。
「アルマ様、おかわいそうに」
「心の病とあっては仕方ないだろ」
「違うわよ。我慢してあなたなんかに四年も尽くしたのに。無理しすぎたのね」
「は?」
「自覚ないの?」
「何の?」
「自分がどんなに最低な婚約者だったかってことよ」
ルディガーは面食らった。
しかしエルシャの目はふざけているわけでも、からかうわけでもない。
本気で、自分のことを最低だと言っているのだ。
「お、俺が何をしたっていうんだ」
「言いたいことは色々あるけど、まぁそうね——強いて言えば、あなたは何もしなかったのよ」
そう言って白い目でルディガーを一瞥し、エルシャは立ち上がった。
そしてそのまま客間を出て行ってしまった。
ルディガーは呆気にとられたまま、年上の婚約者の顔を思い出そうとしていた。




