第十三話 『地上、危険すぎません?』
戦いの後。
コロニー全体が、妙な静けさに包まれていた。
「……生き残ったぁ……」
真琴は巣の奥でぐったりしていた。
疲れた。
とにかく疲れた。
女王フェロモンを限界まで使ったせいか、頭がぼんやりする。
だが。
働きアリたちは休まない。
崩れた通路の修復。
死骸回収。
負傷個体の搬送。
戦後処理が凄まじい勢いで進んでいた。
「みんな真面目すぎない?」
しかも統率が異常に高い。
以前より、明らかに“群れ感”が強くなっている。
女王フェロモン強化の影響だろうか。
「……ちょっと怖いなぁ」
便利だけど。
便利すぎる。
その時。
エース兵隊アリが戻ってきた。
外骨格は傷だらけ。
片脚も少し動きが悪い。
「うわぁ……満身創痍」
それでも堂々としている。
というか妙に誇らしげだった。
「いや君ほんと頑張ったよ……」
真琴が触角を伸ばすと、エース兵隊アリも静かに触角を合わせてくる。
すると周囲の働きアリたちが、一斉にざわつき始めた。
「ん?」
次々と食料を運んでくる。
しかも優先的にエースへ与えていた。
「え、英雄待遇?」
完全に功労者扱いだった。
アリ社会にもそういう概念あるんだ……。
その時。
真琴の頭へ、一つの問題が浮かぶ。
「……でも」
今回、防衛できたのはギリギリだった。
もし敵がさらに戦力を増やしたら。
もし巨大兵が三匹来たら。
「……詰む」
地下だけでは限界がある。
餌も足りない。
資源も足りない。
兵隊アリを増やすにも栄養が必要。
「つまり」
真琴はゆっくり触角を上げた。
「新しい餌場が必要」
その結論へ辿り着く。
そして。
避けて通れない場所がある。
「……地上かぁ」
研究者時代の知識が警鐘を鳴らした。
アリにとって地上は危険地帯だ。
鳥。
トカゲ。
蜘蛛。
他昆虫。
雨。
全部脅威。
「でも行くしかないよねぇ……」
すると働きアリたちが、一斉に真琴へ触角を向けた。
出撃準備完了。
「仕事早いな君たち!?」
数時間後。
真琴は数匹の働きアリと共に、巣の上層通路へ来ていた。
ここまで来るのは初めてだ。
湿った空気が変わる。
土の匂い。
風。
そして。
光。
「……うわ」
眩しい。
地下暮らしに慣れた複眼へ、地上の光が刺さる。
真琴は恐る恐る外を覗いた。
そこに広がっていたのは――。
「でっっっか……」
巨大な世界だった。
草一本が木みたいに高い。
小石が岩。
水滴すら池に見える。
完全に別世界。
「いやスケール感バグるって……」
その時。
ぶぉんっ!!
「!?」
凄まじい風圧が通り過ぎた。
巨大な影。
羽音。
「うわぁぁぁ!?」
トンボだった。
だが今の真琴視点では、完全に怪物である。
しかも。
少し離れた場所では、蜘蛛が昆虫を捕食していた。
「地上こわっ!!」
危険生物しかいない。
地下の方が平和に思えてくるレベルだった。
だが。
同時に。
餌も多い。
落ちた果実。
虫の死骸。
樹液。
地下とは比べ物にならない資源量。
「……これは」
上手く使えば、一気にコロニーを強化できる。
真琴の触角がわずかに震えた。
その時だった。
どん。
遠くから、重い振動が伝わる。
「……ん?」
どん。
どん。
規則的な揺れ。
何か巨大なものが近付いてくる。
働きアリたちも警戒フェロモンを出し始めた。
「な、なに……?」
そして。
草の向こうから現れたのは。
巨大な二本脚。
「…………え?」
革靴。
布。
そして人間の足。
真琴の思考が止まる。
「人間いるの!?」




