66火の国の王家視点
大変なことになったと知ったのは、エレラとコレスが妖精と楽しく暮らしている頃まで遡る。
ミナイサから妖精がいなくなったとの報告を受けた、王家の愛し子を担当する部署。
愛し子協会と王家は密接。
王家が愛し子協会の資金を出している。
しかし、経営は協会に一任されており王家は気配を持たせないように気をつけているのだ。
それは、愛し子がなんの憂いもなく協会に所属できるようにという配慮。
そのおかげで、安定して毎年愛し子が見つけられている。
その中でも、妖精の数が多く今年の妖精の愛し子として様々な催しに参加してくれた。
妖精の愛し子が傲慢になるものも一部いて、ミナイサとその一人である。
しかし、それくらいは周りが調節したりすれば大丈夫なので特に愛し子失格というわけでない。
それに、性格に難があっても妖精は離れていかない。
しかし、報告によってその離れていかないという性質が、変わったかもしれない疑惑が出てくる。
ミナイサから妖精がいなくなったことを受けて、王家は彼女の後見人を呼ぶ。
「参上いたしました」
後見人の男はにこやかに笑う。
どこか嬉しそうな顔に、こちらは顰めたくなる。
非常事態というのに。
のんきにやってきて、というのが周りの反応。
後見人の男へ妖精がいなくなった愛し子について聞く。
なにか最近あったかと聞くと、妻のいる男に言い寄ったという。
性格が悪くても、いなくならなかった妖精がいなくなった原因は、それなのだろうかと王家に仕える者達は騒めく。
後見人は非常に楽しそうに笑って、妖精はきっとミナイサを見限ったのだろうと告げてくる。
そんなに簡単に言われて、たまったものではない。
同じ男に二度も言い寄ったと聞かされて、流石にそれはと顔を難しくさせていく。
白い目で見られるだけではなく、非常識な愛し子というレッテルを貼られる。
こんなことを聞いて召喚しないわけがない。
ミナイサを慌てて呼びつける。
その間に言い寄った男について調べるように指示を出す。
火の国の王はため息を吐く。
「なんということだ」
火の国の王は歳若く王位を継いでいる。
王妃たる妻もいて、順風満帆だ。
今代で一番の愛し子から妖精がいなくなるなど、聞いたこともない。
妖精について詳しい専門家も呼ぶように言いつけた。
忙しくなると肩が下がる。
ミナイサが来たと聞き、愛し子に聞くと何も答えない。
「妖精はなぜいなくなった」
やはり、なにも答えない。
他の愛し子よりミナイサは妖精が見えない体質だと聞いている。
妖精がいなくなった時も報告がなかったのではなく、見えないから伝えようがなかったのではないかと思っていた。
妖精が多い少ないで優劣を決めていないという王家の対面により、今まで言ったことはなかったが見えないことは特に不便もない。
いなくなったとなれば別問題。
「どうした?なにか言うことはないのか?」
「……はい」
「妻のいる男に何度も擦り寄ったと報告が来ている」
「そ、それ、は」
モゴモゴと答える女は、気まずげにしている。
妖精がいないと知って、急に足元が不安定なのを感じたのかもしれない。
手遅れだ。
何もかも。
妖精の間だけでも、大問題だと言うのに。
聖女に尋問を続けても、妖精が見えない彼女にはいついなくなったかも、わからなかったのだ。
聞いても時間が無駄にすぎていくだけ。
王は息を吐くのをやめて、もう下がっていいと聖女を下がらせる。
後日、また召喚するのでという言葉も忘れない。
拒否権が本来あるのだが、今まであと仕事して権限を奮っていたことは皆知っている。
それだけ好き勝手しておいて、今更知らないと逃げることは許されない。
それこそ、愛し子達も怒る。
周りの人たちも、関係者らも憤るに違いない。
愛し子から妖精が消えた、で終わりではない。
どうして消えたのか。
それを調べねばならない。
次に同じことが起こった時に、対処できるようにしなければ。
王は愛し子ミナイサが去った後に調査を求め、帰ってきた頃には、問題をまた起こしたと聞かされる。
ミナイサに同行した愛し子協会の調査員が、青白い顔で震えていた。
「して、どうなっている?」
ミナイサがまた声をかけた男は同じだった。
調査員を各地に派遣して得た情報は、やはり愛し子から妖精はいなくなっていて、戻ってきていないということ。
青白い理由は、ミナイサがはしたなくも既婚者に声をかけていたこともあった。
が、その男の威圧感と殺気に話を、問うことができなかったせいもある。
頭が痛いと手で抑える。
「その夫婦のことについて調べよ」
「はっ」
派遣する人間を更に増やす。
ミナイサには謹慎を言い渡しておけと、伝える。
王家に愛し子を縛ることはできないが、倫理的に問題があると協会側から雇われているので、解雇は難しくとも謹慎はさせられる。
皮肉ではあるが、雇われていなかったらなにも罰を受けさせられなかった。
正直、協会が雇っていなかったならば無視していた。
いや、愛し子のイメージが悪くなるのでなにもしないわけにはいかなかったが。
「はあ、問題が次から次へと」
王は次の日も、次の日も妖精が戻ってきていればいいと思ったが、全く戻ってこない。
「た、大変です。王!」
猛烈に嫌な予感がした。
「なんだ……」
コレスがSランクだと知って王が倒れるまであと……。




