14木彫りで可愛いものを彫ってもらう
エレラはにっこり笑って夫と顔を見合わせる。
その人の家を探るのだと命を出す。
何故か彼もノリノリで行ってこようと美麗にお辞儀する。
本当にまるで命を受けた騎士みたい。
エレラも、段々楽しくなってきた。
彼は少し頭を上げてから、シュルリと消える。
またこれも、身体能力により消えただけなので、魔力の揺らぎもない。
魔力の揺らぎがないというのは、欠点がないということなのだ。
コレスの帰りを待つ間に、ドライフラワーの制作を進める。
ドライフラワーをどの値段で売ろうかなと悩む。
まだ開いてないから、売れてもないけど。
値段が安ければ手に取りやすい。
大きさで決めよう。
カラフルなのはプレゼント用だと紹介しておけば、どの要件で買おうかと悩む前に視覚で理解可能。
コレスは多分直ぐ戻ってくるだろうけど、自分のすることは変わらない。
ここでまったり過ごす。
今回のトラブルは、彼の持ってきた宝石のせいだし。
「ふふふーん、ふふふーんふふふふん」
鼻歌が自然と出てきて、アニメソング的なものになる。
お風呂とかでも二年に一度くらいはあったなぁ。
あんまり響くと、耳に入ってきたからやめることが多かったけど。
「ここを引っ付けて……完成っと」
「器用だな」
「あ、おかえり。もしかして鼻歌聞いてた?」
「あれは鼻歌と言うのか?初めて聞いたな」
「鼻歌の概念もあんまりない感じ?」
「お前が風呂に入ってるときに稀に聞こえてやつを鼻歌っていうのか?」
「聞こえてたの?リビングからお風呂場離れてるのに?耳すっご」
「まあな」
胸を張るシーンじゃないよ。
ちょっと恥ずかしいけど、外で鼻歌をした自分に責任がある。
聞かれても可笑しくない場所だった。
それに、相手は鼻歌の概念がないからこそ、好きに誤魔化せる。
鼻歌はアニメの歌だったから、誰も知らないから。
「まあ、気にしなくていい。忘れて忘れて」
さらりと気にしてない風に言う。
けれど、彼は妻が好きらしいので嫌だったらしい。
もっと聞きたいと言い出す。
「え、嫌……歌わない。聞きたいなら自分で歌えば」
嫌そうな顔をこちらは浮かべているのに、引かない。
好きなんだったら察してくれ。
エレラは首を振る。
「残念だ」
(録音できる再現魔法をやってもらおうと、教えようと思ってたけど、考え直した方がいいのかな)
でも、惜しい。
録音してほしいものが結構ある。
お店の店内BGMとか。
考えてたんだけどなあ。
やっぱり教えたい。
くっ、となる。
男は首を傾げて、エレラの隣に座る。
最近はもっぱら、隣に座れるから嬉しそうなのだ。
夫の彼はこちらの手元をずっと見つめて、微動だにしない。
こちらもなにかしてるから、彼にも何かしていてほしい。
落ち着かなくなるからさ。
(なにやらせよう)
異世界の知識を総動員させて、なにかしら手を動かしさせていた。
刺繍とか、スプーンを木彫りでとか。
彫刻もよいかもしれない。
木はそこら辺に転がってたり、外の場所から取る。
なんなら、伐採すればいいし。
伐採しても誰も気にしない、迷惑をかけない趣味。
コップや皿を作ることは、この世界の人にも普通に存在する。
けれど、その木工にデザインをつけるという方法は広がってない。
一応彼が木彫りしたクマがそこにある。
クマっぽいのはいるけど、勿論モンスターなのでリアル寄りではなくてデフォルメされたものになる。
ちまっとしてるから、可愛い。
その可愛さに、他にもウサギとかリスやネコも掘ってもらった。
色付けしたくなる。
色合いを花でいけるかもしれないと、ドライフラワーの合間にやろうと思う。
しかし、絵の具みたいなものを作りたいので、花では難しい。
もっと色合いの濃い品種を探さねば。
せめて、赤を特に使いたい。
彼が少しそわっとする。
外にいた男はどうだったのかと聞く。
聞いたら彼は、待ってましたと言わんばかりに声高に総評を告げる。
家がわかったと教えてくれる。
「結構近かった。この付近に住んでるやつを雇ったらしい。あの宝石老女」
「あの宝石元の場所に戻してきてよ。最早呪われてるって。そんな勢いでつける気なんて、ないし」
付けたら多分、あの老女烈火の如く怒るんじゃないかな。




