13不審者を泳がせる
家に帰るともうあの高価なオーラを持つ夫人らしき女性は居なくなっていた。
ホッとする。
居座られていたら即警備とかを呼ぶところだったから。
ゾッと背中が気持ち悪くなる。
コレスが大丈夫かと声をかけてくるけれど、全くもって大丈夫じゃないし平気じゃない。
普通っぽいのならば警戒すればいいのだが、普通じゃなさそうだから警戒を引き上げねばならないのだ。
警戒し過ぎて悪いことはない。
特にこの世界じゃね。
エレラの夫は警戒しすぎと言わず同じように対応してくれた。
さすが、自分が二人いても驚かない男だ。
満足げにエレラは笑う。
防犯意識が高くなければ、逆に心配になるレベルだ。
自分も一般人だからこそ、注意をしておかなければならない。
コレスは体をさするエレラも見て、ようやく自覚してくれたのかさらに近寄る。
そういうんじゃないよなぁ。
とは思ったが、いてくれた方が壁として使える。
とても硬いので役に立つだろう。
いろんな意味で。
剣にもなるし、防御にもなる。
万能器かな?
レンジで温める機能があればよかったのに。
エレラはその日から、家の周りに怪しい奴はいないかということを聞く。
会話が多いことを喜んでいるのか、毎回いるかいないかを教えてくれるコレス。
それでいいのか、この男。
次の日はいなかった。
三日後ぐらいに、いると言われてハァ?となった。
(いる!?)
何か仕掛けてきたかと、緊張に顔がこわばる。
何者が来たのか聞くと、彼は見たことがないと教えてくるので明らかに、雇われたやつかもしれないとコレスに話す。
彼は二人の生活の邪魔をされるのを嫌うのか、男を追い払うと言って聞かない。
それを止めると、なんで止めるのかと言われる。
もう少し泳がせたほうがいいとアドバイスする。
アドバイスの意味、わかるよねと笑みを浮かべる。
やるのなら、徹底的に。
そう告げたときの男の顔はなぜか悟りを開いた鳥のようだった。
鳥ってなんだって思われるかもしれないが、鳥なものは鳥だ。
こちらの方が聞きたい。
鳩がいっぱいいるような中央広場とかで、ずっと困っているときの顔。
まさに人というより鳥だ。
何か言いたいのかね?
圧をかけると相手は首を振る。
まるで己が悪いみたいな反応はやめなさい。
悪いのはこちらを監視している人だし、それを指示している誰かだ。
エレラはこれっぽっちも、一ミリも悪いわけじゃない。
正当防衛正当防衛。
具体的に今、何かをするというわけじゃない。
今、こちらを見ている人の跡をついていくことを伝えると、男は頷く。
「弱みも握れる。流石はおれの妻だ」
「普通のことを言っているのに、褒めるところなんてなかった気が」
無理矢理、褒められてるような気がする。
短所も長所も褒めるから、ゲシュタルト崩壊しそう。
コレスの言葉はエレラよりも手慣れている。
この世界ではよくあるやり方らしいので、変な提案をしたわけじゃなさそうで、彼も直ぐに理解する。
「捕まえないのはもどかしいがな。行ってくる」
「いってらー」
男はシュッと目の前から消える。
この消える芸当が、魔法じゃなくて普通に身体能力で消えているんだよ、これ。
冒険者というより、忍者なんじゃないかと思う。
「手裏剣でも今度、教えてみよう」
面白いことになりそうだ。
相棒を見送り、一時間もしないうちに目の前に現れた。
「行ってきた。黒幕はあの宝石老婦人だったから先に伝えておく」
「最早、約束された出オチってやつだよ。知ってた」
わざわざ直ぐに知らされなくとも、彼よりも流れを読みきれていたからこそ。
やっぱりねとしか思わん。
コレスは本当か、と感心してきたけど、おばあさんが犯人説を先に説明してたんだからそうなるわな、としか。
「前に因縁のあるやつが犯人の場合もあるからな……ミスリードを誘ってるのかと思ってた」
「え、なになに、コレスはミステリー好きなの?ミスリード知ってるってなに?」
ミステリーとは、という概念がないのでやはりそれはなんだと聞かれてそうだよねとなる。
ミスリードをなんで知っているのか。
聞くと、エレラの寝言で聞いたから学んだというではないか。
現代言語がすごく通じてるなって思ってたけど、そんなカラクリが。
自分でも知らないうちに、寝言を言っていたという衝撃的な真実もある。
本当に言っているのか疑わしくはある。
しかし、こうして現代語をちょくちょく流用するからには、本当に言ってしまってるんだろうな。
彼に、今後泳がせてどうするのだと聞かれる。
そこは、泳がせて弱みを握るのは基本だしさ。




