12ドキュメンタリーで見た
あと、貴族の礼儀もドキュメンタリーで知ってるから揚げ足を取られることはないと思う。
この世界独自のマナーなどもあるだろうから、絶対というわけじゃないけどね。
「可愛らしい、奥さんね」
「ありがとうございます」
社交辞令でお礼を言う。
視線と内容が合致していないようだが。
まぁ、いいや。
関係ないし。
エレラは別に妻ではあるが、マウントとか妻ブルとかそういう気はさらさらないので。
相手がどれほど夫を気に入ろうと、然程って感じだ。
取られても悔しくないし。
それに、こちらに危害を加えないのならば気にしない。
加えてくるのならば、徹底抗戦と壮絶な仕返しがあるだけ。
やっぱり敵意を感じていない、この男の危機感はポンコツだ。
見直すどころか暴落。
もし、わかっていたら、二度と近寄るなと計画している筈だもん。
妻だ、じゃないんだよそこは。
なんでここにいるのか問いかけるべきなのだ。
そんな場面だろうに。
高ランク冒険者なのに、身のうち晒してはいけないと思いますよ、本当。
このやりとり、今いる?
普通に散歩させて。
妻だからと付き合うのはここまで。
老婦人の横を抜けようと動く。
そこ移動しないと歩行の邪魔だ。
エレラは例え高名な存在だろうと、高貴な者だろうと現代の価値観ばりばりで動くので気にしなかった。
呼び止められる気配がしたから走ったというか競歩。
早歩きした。
ある程度遠くになったから、コレスへクレームをする。
あのお婆さんなに?と。
私達の暮らしてる場所把握してるとか、なにそれヤバい、とか。
「確かに変な話だ」
「貴方がいくら有名でも、住所はギルド登録してないのに。知られてるとか可笑しいが多数ある」
ギルドのある街の中にあるとはいえ、そこそこの場所で、まだオープンもしてない借り家。
「知られてるとか、不動産屋?探ってきてよ」
ストーカーされて非常に怒ってるのだが?
ちょっと助けられたからって、宝石渡すまでは良いとして、住所の真ん前に出没は恐怖。
うちの防衛魔法を、最大強化させておかねば。
探る前にウチの防御壁を強化してから行ってきてと頼む。
ついでに、自身への防御も。
なにかされそうな雰囲気がした。
(あの老女の目、敵意に近い)
なぜわかるのか?
小説や漫画やアニメやドラマなどで、そんな展開を一億回以上見たし。
「相手へのカウンター度百でいいいから百で」
「それは、小突いた相手が骨折して全治半年のものになるぞ」
「あ、それだけ?なら二百で」
「……わかった」
こちらからはなにもしないからこそ、相手が何かしたらただの犯罪なのだ。
「隠蔽も辞さないよ。こっちは。ドロドロなド修羅場展開に怪我は付きものだし。私に怪我して欲しいの?」
「そんなわけないだろ。わかった百五十倍にしておく」
「わかってるじゃん」
もりもりの防御を施された。
あと、録画できないのかと聞く。
録画ってなんだという根本的なことを聞かれて、録画の概念はないのかと首を肩まで下げた。
この世界にはまだそういう魔法が開発されてないみたい。
「録画は、映像にするというか」
と、切々説明。
説明し終われば、男はむんという顔をする。
「それは、実現すれば凄いな」
確かにすごい技術だよね。
先ずは写真が先だけど、映像が欲しい。
無理だよなぁと諦めた。
昨日、今日で作れる魔法じゃなさそうだし。
流石に無茶振りとわかるから、やらせるのも意味がなさそうで。
「いや、なんとかやってみる」
イヤイヤ、ちょっと技術的に速いし、知っているのとやれるのは別物だし。
「まあ、好きなだけやれば良いよ」
止める理由はなく、適当に応援しておいた。
今の所、家とか自分への攻撃への対処は完了しているから。
コレスはやる気に満ちていて、エレラは投げつけ、丸投げた。
その撮影とかの魔法の原理なんて知るのよしもないし、やれる気がしないもん。
高度過ぎて、一般人の頭には到底理解して使えるかわからない。
エレラはとたとたと散歩をする。
コレスはそこに並走。
早歩きだけど、彼もずっと並んでる。
あの老婦人から距離を少しでも稼ぎたかったし。
なんか怖かったし。
コレスを、値段の高い宝石を見る目だった。
値踏みの目。
「あの人、どう思った」
「普通の老女」
「可笑しいでしょその評価」
「宝石を持ってる女?」
「いやぁ、どう見てもさー、コレスを婿としてとか、利用価値のある目で見定めてるやつだったよ」
「いつもそんな目で見られてる」
「えー、鈍感なんじゃなくてあれが普通なんだ……」
「鈍感じゃない。わかってたが気にしていたらキリがない」
高ランクの猛者。
強者なので、皆からアプローチされてるってことか。
大変なんだなこの人も。
なんでエレラと結婚したのか益々謎だ。
疑心暗鬼と、人嫌いになってしまうものなのではないのかな。
「私なら一生家から出られなくなる」
「おれも積極的に仕事をしなくなっていた時に、お前と出会った」
「奥さんができたから、仕事やる気になったの?」
「この街付近のモンスターを駆逐したかった。無償でやるよりは依頼で引き受けて小金を稼いだ方が、得だったから受けていただけだ」
街のモンスターを倒すことに拘ったのは、その街に妻が住んでいたからだと言う。
いやいや、だからとはいえ寂しがらせては本末転倒だろうに。
即座に突っ込んだ。
それにドキッとはならない。
ならない。
「そんなことよりもやることあったでしょ」
掠れた声で補足しておいた。
エレラは見えてきたUターン地点で曲がる。
再び我が家に向かって、行く。
「ストーカー探るの頼んだからね。もし、危害を加えるんだったら知られないようにやってね。事前に阻止するよりも、相手がやらかしてやった方が見せしめ具体が強くなるから、手を出すのならやった後かな」
「それもそうか。頼りになる妻で、最高だな」
「いきなり褒めたところで今回のトラブルを持ってきたのコレスってこと忘れてないからね」
「なにか欲しいものないか」
「露骨で姑息な定番セリフ」
今度は隠さずに言い返した。




