29.疑問
栞太が目を覚ました時、最初に瞳に映ったのは岩天井と岩壁ではなく。
「本当にごめんね。迷惑をかけっぱなしで」
天使の歌声と称される海外の合唱団に所属していそうな、天使の少年だった。
眠気眼と死んだ魚の目の中間に位置する目が、まっすぐ己に注がれていた栞太は、まずは自己紹介をして、名前を聞こうと思った。
この天使の少年が己の唯一無二の相棒、凍夜か、雷を食べる震霆のどちらかがまだわかっていなかったからだ。
その前にまず起き上がらなければ。
仰向けで眠っていた栞太は上半身を起こそうとした。
いつもならば、楽々と起き上がる上半身が何故か、持ち上がったはいいもののほんの少しだけ。起き上がらずに、地面へと戻ってしまった。
栞太は首を傾げた。
疲れは取れたと思ったけれど、取れていなかったのか。
気分は爽快なのにおかしいな。まあでもしょうがない、起き上がる方法を変えよう。
栞太は両腕や両足を重ねるように、身体を横向きにした。
ら。
視界に映るのは、両腕を覆う真っ黒の学ランの袖ではなく。
ふわっふわ、もふっもふの真っ黒の毛だった。
学ランの袖にいつの間にか、何か動物の毛がくっついたのか。
栞太は手を使って掃おうとしたが、強力な接着剤でくっつけられているのか、まったく掃えず。
それどころか、新たな疑問が噴出。
手の指の開き具合が悪いのだ。
手の指の長さが短いのだ。
手の指の先に鋭い鉤爪があるのだ。
掌に桃色の肉球がくっついているのだ。
さらに視界に入っていない、お尻にも違和感を覚えるのだ。
何か、お尻に一つ、くっついているような。
さらにさらに視界に入っていない、頭にも違和感を覚えるのだ。
何か、頭に二つ、くっついているような。
「?????」
栞太は横向きの状態から仰向けの状態に戻って、天使の少年を見上げて、名前より先に今の己の状況、状態を尋ねようと口を開いた。言葉を出そうとした。
が。
「キャン」
果たして、裏声でしかないような甲高い犬の鳴き声が、己の口から発せられたのだ。
「くぅうん?」
「うん。本当にごめんね。君、呪いをかけられたんだよ。九尾の妖狐に。僕と同じ、ポメガバースの呪いを」
あ、この天使の少年が凍夜だったんだ、癒さねば。
栞太は冷静にそう思った。
あ、ポメガバース最高だとはしゃぐ友人が喜ぶかも。とも。
(2024.3.20)




