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【零度の救世主と仮面の詐欺師/ヘンテコ道化師】

赤黒い世界から抜け出した先には、とても輝いた世界だった。

ご飯はとても種類が豊富で変な味もしない。とても美味しくて、沢山食べても飽きなかった。 教育も乱暴ではなく、優しくて。少しでも出来たら、沢山褒めてくれるから。心が満たされた。 寝床もふわふわで柔らかくて温かい。何時間寝ても怒られないし。怪我をしたら、とても心配してすぐに治療してくれる。赤黒い世界に生きていた時とはまるで違う、本当にとても輝いた世界だった。何より――、零度の救世主である蕾努 彗亜と仮面の詐欺師である月聡 綿枷の二人は温かく優しく接してくれた。


「――おはよう。目が覚めたか? 顔を洗って、うがいして、身支度を済ませたら。綿枷の作った飯を食べに行こうぜ」


「おはようー、夢から覚めたかい? それなら、身支度等を済ましたら。僕が作った朝食を食べよう! 栄養満点でカロリーも丁度いい。しかも、今日はデザート付き! 確実に幸せで満腹な気持ちになれるよ! 」



目が覚めたら、こうして優しく朝食を食べようと声をかけてくれて――。



「おっ、昨日よりも上達してきているな。凄いぜ。流石、夢玖。天才だな! 後でお菓子を沢山あげよう! 」


「へぇー、ここまで出来るなんて。なかなかやるじゃん。ご褒美に今回も一杯、なでなでしてあげるね! 」



些細な事でも。沢山、褒めてくれる。沢山、ご褒美をくれた――。



「夢玖、誕生日おめでとう。これからも、最高の一年になることを祈っているぜ」


「夢玖、お誕生日おめでとう! 今日は夢玖が好きな物を全部、用意したよ!思う存分にエンジョイしてね! 」



誕生日は、やりすぎなくらいに盛大に祝ってくれて、生まれてきてくれてありがとうと言ってくれて――。



「怪我でもしたのか? 顔に出て無くとも分かるさ。今すぐ、治療してやるからな」


「え、大丈夫? とりあえず、応急処置をしておくけど…。急いで、彗亜の元へいこう。悪化したら、大変だからね。 さぁ、僕の手につかまって」



怪我をしたら、とても心配してくれて。すぐに治療してくれて。治るまで懸命に付き添ってくれる――。



――でも、彗亜のは全部。全部、嘘だったんだね。演技だったんだね。

あれもこれも全部、嘘で演技。これぽっちも僕に情なんか抱いてなくて。使い勝手のいい捨て駒としてしか見てなかったんだね。





彗亜は僕の救世主じゃなかったんだね。カタルっていうお化けは騙ったんだね。

なんだ、切り捨てるくらいなら。嘘を吐いて裏切るくらいなら。本当の救世主じゃないのなら。 最初からそう言ってくれればよかったのに。もしくは、最初に出会った時に邪斬達と一緒に殺してくれればよかったのに――。





零度の救世主こと、蕾努 彗亜。いや、零度の復讐者である蕾努 彗亜は。

僕にとっては、かけがえのない存在で いつも僕の心の中では頂点に君臨していた。 一緒に生きようと、赤黒い世界から輝いた世界に連れ出してくれた事がとても嬉しくて幸せだった。 だから、救世主として一番で。一緒に幸せに生きようと思った。復讐劇に協力した。僕の全部を捧げるくらいに。 でも、それが全部。嘘で演技だと分かれば。もう信用なんかできない。彗亜を一番に、救世主にはならない。 そもそも、僕の傍にいつもいてくれたのは色だ。優しく甘やかして寄り添ってくれたのも色だ。 本当の救世主は色なんだ。今更、気づいたのが惜しいけど。勝てるかなんて分からないけど。今なら、彗亜に打撃の一つは与えられるかもしれない。


――だって、僕は物理担当だから。発言が物騒だから。彗亜は風魔法が弱点だから。彗亜の秘密を知っているから。 利用させてもらうよ。


今度は僕が嘘を吐いて裏切る番だ。いつまでも、彗亜の手のひらで踊りに踊る道化師じゃない。 踊りに踊る道化師になるんだったら、最初から本性を全面に出してくれる色の道化師になった方がマシ。 氷のように凍てついた嘘や演技している暇は今のうちだよ。僕はバラバラにするつもりで砕きに行くからね。


彗亜の事は――、大嫌いで邪斬達よりも憎い相手。殺意を抱く相手だからね。


躊躇はしないよ。自ら、弱点を教えてくれてありがとう。カタルというお化け、バラしてくれてありがとう。 彗亜、ここまで育ててくれてありがとう。彗亜の捨て駒として、風圧で打撃を与えてあげる。 最高に、最低に、感謝の気持ちを込めて――。



―――



仮面の詐欺師こと、月聡 綿枷。ううん、仮面の愉快犯である月聡 綿枷。

僕にとって、とても気の合う仲間として。一緒に悪ふざけや悪戯をするのが楽しく面白かった。 意見が食い違うこともほぼ無いから、綿枷と共に行動するのは苦痛じゃなかった。次は何が起きるのかとワクワクしていた。 他にも料理が上手で美味しいし、勉強や戦闘もそれなりには得意だったし、確かに元優等生らしさは感じた。 腹黒いところもあるけど、一緒にふざけてくれる弟想いの優しいお兄ちゃん的な存在にも感じることもあって、綿枷と出会えて本当によかったと思っている。これからも仲間として、一緒に楽しく過ごしたいなと思うほど。大切な存在の一人。 だけど、僕の事を綿枷がどう思っているかなんて。分からないけど、彗亜や邪斬達みたいに切り捨てるような事はしないはず。それが確証を持てるのは、綿枷も彗亜にまんまと騙されていたから。切り捨てられちゃったからね。


――だからもし、凍死していなければ。一緒に彗亜へ復讐しようと誘おう。

きっと、ううん。確実に綿枷なら、快く承諾してくれるはず。綿枷は相手からの裏切り行為は嫌いだから。 綿枷はゆっくり辛辣にじわじわと。僕は素早く物騒にずかずかと。左右同時に責め立てよう。ヒビ入るように、粉々になるようにね。



―――



彗亜の妹の一人から襲撃があって、快輝と共に一依と彗亜が処刑されるのを防いだ後。 隙を見計らって、あまりバレないように抜け出して。彗亜の自室へと向かった。 カタルというお化けから彗亜の過去を聞いた時、現場はどうなっているのかと密かに気になっていた。 だから、興味本位で彗亜の自室へと入り込んだけど。聞かされた話よりも現場はおぞましく当時のままといった印象で。何処も綺麗に片付いておらず、壁や床に飛び散った血で赤黒く染まっていた。ううん、赤黒く変色していたといった方が正しい。赤黒く凍てついた処刑場と表してもおかしくないくらいに。 変色するほど、こんなにも惨い拷問を受けていたなんて――。


「うぷっ…、危ない。吐くところだった……」


いたいくて、こわくて、いやな過去を思い出し、現場と重ねて。あまりの気持ち悪さに思わず、吐きそうになる。 僕は血の繋がりのない悪魔みたいな奴らからだったけど。彗亜は血の繋がりのある悪魔みたいな家族から受けていたなんて。 地獄でしかないだろう。自業自得な部分もあるとはいえ、ここまで痛くて。怖くて。嫌な仕打ちや拷問をするのは。 少し異常なんじゃないかと思う。もしかしたら、これが歪んだ愛情ってやつなのかもしれないけど。それでも、こんなやり方はよくない。こんなやり方されるくらいなら、何もしないで放置していた方がよかったと思う。その方が、彗亜自身だけじゃなく、兄妹や王達自身も互いに犯した罪の重さに気づいただろうから。――とはいえ、今の僕にとっては。どうでもいいことなんだけどね。彗亜に対しての情は完全に冷めちゃったから。冷たい風のように流れ去ってしまったから。


――温かい風は色に向かっているからね。



「だから、色。はやく、起きて……、死んじゃったら、嫌だよ」


何処からか、落っこちて来た消火器を使って。なんとか燃え尽きる前に炎の渦をかき消して色を救出することができたけど。何度、思いっきり頬を叩いても、呼びかけても返事が返ってこない。重い瞼を更に重く閉じ込んで、ずっと黙り込んでいる。いつもなら、面倒くさそうに「何ですか? 」と目を細めて返してくれるのに。もしかして、魂の方は燃え尽きちゃったのかな――いや、そんなことはありえないはず。色は、生存率だけは高いから。今は気絶しているだけで――。


「――色さんは。常に危険な状態です。些細な事でも致命傷になる可能性が高い。今すぐにでも、彼を幸せにするべきです」


「まぁ、ある事の為に生かす方向にはしているけど。

幸せに…って、アイツが望んでいる幸せはもう叶わないはずだ。どうしようもない。 第一、本人が死ぬことを望んでいるんだから。無理な話じゃないか? 」


「確かに無理です。無謀でしょう。でも、ワタクシは彼を…色さんを幸せにしてあげたい。 幸せになってもらってから、断ち切ってほしいです。何一つ、幸せなことがないままなんて…」


「それは随分と傲慢な考えだな。

まぁ、どの道。色は救えない。手を差し伸べても跳ね除ける時点で、救いようがないんだから」


ふと、遮るように。一依と彗亜の会話を思い出した。

当時は何の事を言っているのか分からなかったが、今の状況に当てはめてみると納得したくないけど納得がいく。 だって、色は――。


「そんな…、やだ。やだ! 死なないで!生きて!生きてよ! 」


常に危険な状態で、些細な事でも致命傷になるんだったら。今の色は、粉塵爆発で受けたダメージと炎の渦に呑まれた時のダメージが重なって、いつ死んでもおかしくない――いや、もうあの世を彷徨う状況に陥っているということ。いくら生存率が高くたって、これじゃあ助からない。死んでしまう。だけど、彗亜みたいに回復魔法が使えるわけでもない。一依みたいに状況を覆す知識や判断力は持ち合わせていない。綿枷と快輝みたいに頭をフル回転させて打破する俊敏性があるわけでもなく、最低限の蘇生術を知っているわけでもない。僕は皆みたいに賢く立ち回れない。何も知らないから。何も――、


「――泣き喚かないでください。あと、【生きろ】って言うな。断刈様から教わったのに、もう忘れたのですか? 全く…、これじゃあ。仮眠で体力回復もできないじゃないですか。はぁ…、やっぱり。気持ちが落ち着いていない状態で動くのは…」


「うぐっ…、うぅ……しきぃ。しきが、色…いつも通りのひねくれ陰湿無芸無能の色だぁあああ」


「あまりにも思い込んで泣き喚いているのを放っておけなくて。生きていることを証明したのに。 証明した途端に、罵倒されるなんて。やはり、生きていても良い事ないですね。じゃあ、本格的に寝ますか」


「やだぁあぁあぁぁあああ! 本格的に寝ないで! そんなブラックジョークいらない! 色の馬鹿! 」


色はいつも通り、生きていてくれた。その事がとても嬉しい反面、紛らわしい事をしないでほしいと、心配した意味がないと怒りに満ちていた。全く、今まで心配して悲痛に暮れていた気持ちをどうしてくれるの。いや、色の事だから。どうもしないだろうけど。とにかく、怒りが収まらなくて。ポコポコと、ポカポカと音を立てながら色の身体を拳で殴り続ける。些細な事でも致命傷になる事を忘れて。


色はそんな僕の様子に、相変わらずの呆れた表情で溜息を吐くだけ。

そして仕舞いには、「それができるって事は。精神的に落ち着いてきたのですね」とゆっくり起き上がって、僕の頭を優しく撫でて宥めるだけ。自分の都合のいいように物事を進めようとしてくるだけ。これだから、ひねくれ利己主義者は。彗亜よりはマシだけど。いや、そもそも。こうなったのは彗亜のせいだ。彗亜が裏切って切り捨てなきゃ――、


「もう!全部、彗亜のせいだ! 彗亜に責任とってもらうんだから! 」


「はいはい。そうですね。全部、彗亜さんに責任を押し付けましょうね。

あっ、そういえば顔隠しの布…、燃え尽きたと思いましたが。意外と燃えないものなんです…ね?え、」


「どうしたの? そんないつもより渋い顔をして」


「夢玖さん。もし、一依さんそっくりの化け物が出たら。どうします? 」


怒りの矢先が彗亜へと変わり、文句を垂れ流す僕を適当にあしらって。顔隠しの布に関して呟いたと思ったら、急に血相を変えて動きが止まるもんだから。どうしたのかと尋ねると、一依にそっくりの化け物が出たら、どうするのかと返してきた。一依にそっくりの化け物が出たら、どうするかって。そんなの、決まっている。風魔法で――、


「夢玖さん。今、貴方。風魔法を使えないのを忘れているんじゃありません? 」


「…………」


「黙るってことは。完全に忘れていましたよね? まぁ、いいです。非戦闘員とはいえ、貴方を護れるくらい、逃がせるくらいの時間稼ぎはできます。いや、できなきゃ。マスターの思惑通りになるでしょう」


「ねぇ、色。僕の背後で急展開な事が起きているの? 」


「デスゲームに…いや、物語に急展開が頻繁に起きるのはお馴染みですよ! 」


質問に質問を重ねて返す猶予はもうないのか、最後に声を少し荒げて僕を護る形で前へと飛び出す色。 そんな色の動きを、後を追うように、自分の背後で起きている急展開な事がどんなものが確かめるべく振り返る。 振り返ると、確かに一依にそっくり――いや、色がいなきゃ。一依本人と信じ込んでしまうほどの何者かが、不敵な笑みを浮かべて立ち尽くしていた。そして、優しく高らかな声音で色を見つめ直して――、


「気が変わった…いや、殺人鬼の頃の血が目覚めてしまったと言っても納得していただけないでしょう。 貴方は、とても疑い深い方ですから。ねぇ、色さん? 」


「そもそも、偽物なのに。納得するわけでないでしょう。これでも、見分けはついている方です。 断刈様の事もあって。なるべく、争い事はしたくありませんが。相手がそういう気であるのなら、致し方ありません」


「ふふっ。最愛していた大切な家族を護れなかった貴方に。幼きお化けを護れるのですかねぇ? 」


「一依さんが下品な笑い方をするときは。抑え込んでいた元の性格が意思関係なく飛び出る時と。演技をして皆を楽しませている時です。だから、皆が楽しめない演技はしないんですよ。本物は」


お互いが非難をぶつけ合うと同時に、熱い舞台で火の粉と一緒に血があちらこちらに飛び交う。 一瞬で変わりゆく急展開に頭が追い付けないまま、僕はその光景を見守る――いや、光景の中に入って。偽物の角を真っ二つに折ろうと力強く掴んだ。僕を護って死ぬなんてこと色にはしてほしくないから。 でも、すぐさま振り払われて。熱い床へと叩き付けられてしまった。叩きつけられてしまって。


叩きつけられた衝撃で頭が真っ白になり、意識が遠のいていき――。



―――





彗亜の元裏切り者兼元殺人鬼&宮廷道化師。現新たな仲間として入団した、冠化 一依というお化けは。 聞いていた話とはちょっと違っていた。いや、かなり違っていたと表した方が正しい。 裏切り者の殺人鬼&宮廷道化師と聞いていたから、相当な残忍酷薄で物騒な野郎なのかと思っていたけれど。 若干、元宮廷道化師らしく。お道化るような事もあっても。実際には、丁寧な言葉遣いを使用し。何事にも寛容的で温厚かつ争い事は好まないような性格だった。本人曰く、昔は荒れに荒れていたと言っていたけど、その面影が見えない程に穏やかだった。何より、何も出来ないと謙遜ってやつをしつつも。家事も戦闘も何もかも全部、こなして得意だし。特に魔法薬を作る事に関しては一番と思えるほど万能で、まさに所謂、頂点にいる存在。手を伸ばしても届きそうにない皆の憧れの的って感じだった。でも、彗亜の事を裏切ったのは事実だから。もしかしたら、この姿は演技って可能性も否めない。


だから、本心を探ろうと揺さぶりをかけたんだけど。ちょっと意地悪な事をしただけじゃ、効かないのか。 戸惑いつつも、穏やかな笑みを浮かべて曖昧な返事をするばかり。逆に上手いこと話を変えられて、隠し通されてしまう。なかなか、一筋縄ではいかない。いや、やけに頑固者な一依に不満が沸々と沸き上がって、綿枷と共に一依について愚痴混じり話し合う。


「ガード固すぎじゃない? どうせ、いつかはバレちゃうっていうのに」


「確かに。いずれはバレるのにねぇ。今のうちにさらけ出した方がいいのにさァ」


「まぁ…、知らなくても良い事もありますから。それより、流石に目の前で愚痴られると地味に傷つくのですが……」


――当てつけるように本人の目の前で。

勿論、本人の溜息混じりの言葉など無視して。ささやかな意地悪を込めて会話を続ける。


またそれだけではなく、ストレートに物騒な事を。遠回しに辛辣な事を。左右同時に目の前にいる本人に向かって浴びせ続け、反応を楽しむ。何も答えてくれないのだから、これくらいの事。やったって――、


「――あんまり、酷い言葉を使ってんと。真っ二つに切り裂いて、中の肉と血を抜くぞ? 」


酷く冷たい声音が脳内に響き渡ったと思ったら、腹部に当たるか当たらないかの間近な距離で、魔法がかけられた刃物が飛んできた。幸い、刃物は一瞬にして塵と化し、消え去ったからよかったものの。流れるように一依の顔を見ると。


本能が今すぐに逃げろと脳内でアラートを鳴らすほど、歯と牙を剥き出して、殺意に満ちた不気味な笑みをしていた。 先程の穏やかな姿から一変して、魔法といい、不気味な笑みを浮かべる様子に小さく叫び声を上げて、身体を震わせ、冷や汗を流す。そして、ゆっくりと後退りを――した時。今度は優しい声音で小さく笑うと、いつもの穏やかな姿に戻り、謝罪を口にすると共に僕達に重みのある忠告してきた。


「驚かして、怖がらせて、すみません。今もこの先も、切り裂いたりなんてしませんから、ご安心ください。 しかし、僅かながらでも。身の危険を感じたでしょう? 綿枷さん。夢玖さん。今回はワタクシでしたから、よかったのですが…。あんまり、物騒で辛辣な言動を繰り返していると相手によっては、怒りを買って本当に切り裂いてくることもあります。最悪の場合は命を落とすことだって、充分にあり得るのです。だから、あんまり物騒で辛辣な言動を繰り返してはダメですよ。そして、知られたくない。教えたくない事を無理矢理に足を入れ込むというのも。常に襲われる覚悟で、自分の言動には責任を持ちましょうね。後悔する出来事が発生してからじゃ、遅いですから」


重みのある忠告と演技とはいえ、襲われそうになった事を踏まえると。言葉を失い、ただ事ではないと思うと同時に。 だったら、襲われる前に襲ってしまえばいいと判断した。綿枷も同じ思考に辿り着いたのか、不敵な笑みを浮かべて。大口を叩く。僕もそれに続いて便乗し、返り討ちにしてしまえばいいと声を上げる。


「そんなの先に動けばいい話でしょ。僕らに勝てるお化けなんて、そうそうにいないし。別に忠告されるような事でもないんだけど? 」


「綿枷の言う通り、襲われる前に襲っちゃえば、無問題だもんねー。竜巻に巻き込んで返り討ちにしちゃうよ」


「…いや、あの。そうではなくて…、まず、過信するのはよくないですよ。相手の事を舐めていれば舐めているほど」


余計なお世話だと、平気だと声を揃える僕らに。次は困ったような、呆れた様子を見せる一依。 だけど、あまりにも話を聞かない姿に。ついに諦めたのか、それ以上は何も言う事はなかった。 しかし、今思えば、色の怒りを買ってぶん殴られた事もあったし。彗亜にも切り捨てられて、裏切られちゃったし。一依の忠告をちゃんと理解しておけばよかった。でも今更、後悔しても致し方ないんだよね。過去には戻れないから。





ヘンテコ道化師こと、冠化 一依は。

僕にとっては、何をしても許される保護者的なとても優しい存在だった。

いつも皆が笑顔になれるように楽しませることに全力で取り組んで。望めば、どんな役だって演じてくれた。 本当に愉快な道化師として、僕らを見守ってくれていた。でも、厳しいところも。いや、優しいからこそ。僕達が行き過ぎた言動には恐ろしい演技をして忠告してくれていた。ダメな事はダメだと丁寧に教えてくれて。誰よりも、保護者として善悪について教えてくれていたと思う。だから、一依には安心感があって甘えていた。保護者的な意味でも、仲間の大切な一人としても。一依と出会えて、一緒に過ごせてよかったと心から想っている。だから、もし。一依が一緒だったら、色だって僕を護らなくても済んだはずだ。一依は今、何処にいるんだろう。はやく会いたいな――。



偽物じゃない。本物の一依に。いつも楽しませてくれる、ヘンテコ道化師な一依に。 一依なら、この状況を打破してくれるはず。彗亜に大ダメージを与えてくれるはず。色を助けてくれるはず。 だから、一依と合流するためにも。色に護られてばかりじゃダメなのに。どうして、僕はこんなにも弱いんだろう――、




「ゴメンね……、色。僕が弱くて。ゴメンね、一依。綿枷。快輝。僕は無知なままで…… もう、赤黒い世界にはしないって決めたのに。ゴメンね……」



何処か温かく、ゆっくりと揺れて起きる振動と共に。景色が見えない暗闇の世界をただ彷徨っていた――。

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