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灰の都 最初の1日の始まり

ドアをくぐった先は、

どんよりとした曇り空の広がる、冷たい空気のにじんだ街だった。


ここは広場のようだ。


視界が効かなくなる程ではないが、緩く霧がかかっている。ほんのりと肌が湿らされ、そよ風が身体の表面の温もりを掠め取っていく。


ぼくの立つ石畳には泥がはね、

馬車のわだちだろうか?少し磨耗してる部分もある。


レンガ作りの建物の赤は灰色に少し煤けた色をして、月日による劣化を感じさせる。


広場にはぼくを含めた異邦人プレイヤーが驚きの余り動けてない様子が散見される。


逆に慌ただしく動く人々がいた。


集団のご婦人が姦しく談笑しながら、立ってるだけの人の横を通り抜ける。


身なりのいい男性が書類入れを持って大きな建物に同僚か部下のような人を連れ足早に向かっている、立ってるだけの人を邪魔そうにかわした。


広場の端には列をなす露店商が、自分の取り扱う商品の珍しさをがなりたて、立ってるだけの人にも声をかけている。


街も人もただ、そこにある。


主人公になりたがって、この街にやってきた

異邦人《プレイヤー》に対して遠慮も何もないほど泰然とある。


この街が、灰の都。


リリース初日の祝日ハレのひとは思えないよそおいだが、それがかえってリアルだった。


ぼくや周りの人からすると、いきなり異国に放り出されたように感じて動けないのだ。




しかし、


カチリと世界が止まる。


街の人 噴水 そしてぼくたちの挙動が固まる。


間の抜けたアナウンスが響き渡る


『ピンポンパンポーン!全プレイヤーのチュートリアルの完了、『灰の都:ロンディニア』への進出を確認しました!』


『これより、クリエイターから開幕の挨拶を行います!』


パッとついたスポットライトが、

中世ヨーロッパ風な衣服の人ばかりの世界に似つかわしくない白衣の男が曇天から降ってくるのを照らし出す。


その男は停止した噴水の水の上にふわりと降り立った。



「あーっテステス。ワクワクしてるところ申し訳ないけれど、ホンの少しワタシの話を聞いてください。」


男の声が響く。


「まずは、ログインありがとう。事前情報を全然出して無いのに食いついてくれた君たちの勇気に心から感謝する。」


「色々話したいが、手短に。この場にいる9865人のプレイヤー諸君にお伝えせねばならない事がある。感謝も大事だが、それ以上に大事なお知らせだ。」


…以外と少なくて、ちょっとさみしい。


「このゲームは人間の夢の電子化及び共有化により成り立っている。君たちはバラバラの時間にログインした気でいるが結局はチュートリアル完了後、現実時刻の深夜一時までは寝落ちして、今この瞬間に夢の中に《《全プレイヤー》》が戻ってきたのだ。ここからヨーイ、ドン!でゲームが始まるぞ」


なるほど、ドアをくぐった瞬間の暗転の時間にぼくは寝てたのか。


「お知らせはもう一つ ある。

このゲームは基本的に1日一時間しか遊べない。しかし!その一時間はゲーム内では2日分の時間に引き延ばされるから、遊び足りないなんてことはないぞ!

一時間を超えてインしようとしても寝落ちするだけになるから、注意してくれたまえ。

ちなみに今この世界は朝の9時だ。2日後の朝9時までの48時間を好きに過ごしてくれたまえ」


「あぁ注意点というかデメリットだが、このシステムは友達と会うのが難しい。ゲーム外部や現実での友達と遊ぶ際は別途説明書を読んで頂きたい」


「こんなところかな?伝え忘れがあれば、また専用アプリに通知がいくし、問い合わせもアプリで送ってくれればワタシとAIが必ず対応しよう。」


「以上だ、ではジャマしたね。どうぞ初日の2日間を有意義に過ごしてくれたまえ。」


フッと噴水から男がスポットライトの光と

ともにかき消える。


瞬間に噴水の水が落ちる音、

現地人の喧騒、世界を構成する音が帰ってくる。


ぼくたちプレイヤーもようやく動きだし、先ほどの話について 語り合ったり、攻略に乗り出したい人が何処かへ走り出したり思い思いに行動し始めた。


けど、ぼくはどうしようにも

何にも分からないから

街をぶらつくことにした。


ぼくのゲーム開始初日の目標は

『目標を見つける』にしよう!


そうしてぼくはとりあえず、

向いていた方向へと歩きだした。


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