散策 回帰
はてさて何をしようか、
「その前に…ここはどこだ?」
「初めて来た場所で、ひたすら前に進んで曲がり角は、『左手の法則!』と言いながら時々右に曲がったりしてたらそれは迷うでしょうよ。」
左手の口は理論整然と至極全うなことを
持ち主 におっしゃる。
「仕方ないだろう!初めての異国情緒にアレコレ観たくなるのは日本人観光客の性と言うものだ!」
「建物や風景はともかく『ちょうちょだ!』ってどこにでもいる生き物にも気を取られて道を外れましたよね?」
ふひゅーふひゅーと吹けもしない
口笛を吹きながら散策を続ける。
ずいぶんと人気の無いところまで来てしまった。
レンガ作りの建物も初めに居た、広場周辺よりも更にくたびれていて、ガラス(?)のはまった鉄格子めいた窓は錆がにじんで変色し。ひさしの下の鉢植えには萎びた花が植えられたまま放置されている。
これぞ下町、ダウンタウン
いや、オールドタウンか。
「そこの人、異邦人だね。一つ占ってやろうか?」
「おわっ!」
誰もいないと思ってた、古い建物と建物の間の路地にいかにもなおばあちゃんが水晶玉を前に座っていた。
「占いですか?…あ、初期装備で払えるものはお金も武器も何も持ってないですよ?」
「なぁに、こんな寂れた場所で暇してたんじゃ。退屈しのぎに視てみるだけじゃよ。金など取らぬわ」
「なら、せっかくですのでお願いします。」
がらがらと木製の椅子を引いて、おばあちゃんの前に腰かけた。
「うむうむ、何を占ってやろうかのぉ…」
「あ、旅の目標というか、今後どうするのかの指針みたいなのが分かると嬉しいです。」
「ふむ、難しいが…わしなら造作もない。視てやろうかの…」
おばあちゃんは水晶に手を向けると。
『アクセス権限:市民サーバー演算機能に借用申請………申請受理…演算開始…下位予言』
呪文?おばあちゃんが何事かを
呟いて水晶を覗きこむ。
「ふぅむ…お主の望みは『暴れること』とあるな」
「すごい!当たってます!それで、どうすれば暴れられますか?」
「待て待て、『暴れる』にも種類があろう。」
ぼくを宥めるように老婆は言う。
「種類?」
「左様、魔物や盗賊・ギャングのような討伐されて然るべき害ある暴力」
「ふむふむ」
「それと、逆に軍や冒険者のようにそれらの害ある暴力を取り除く為の暴力じゃ」
「なるほど…」
「して、どちらを望む?」
「もちろん、どちらも平等にぶっ潰せる様な『理不尽で大きな暴力』です。」
「…えぇ」
「どちらとも別に最初から仲違いするつもりは無いですが、どちらでも気に食わない瞬間があればぶん殴りたいんです!!」
日頃、仲の良い友達がいたとしても「殴ろうかな」と思う瞬間は必ずある。
例えば、『ゴミのポイ捨て』そいつからすると軽い気持ちでしたことなんだろうけどぼくはそれが嫌いだった。
反省するまでサンドバッグにしてやろうかと思ったが、現実でそこまでは《《常識的に》》やってはいけない。
それが、とても歯がゆかった。
ここなら、《《常識》》よりも暴れられる。
おばあちゃんが『マジかよコイツ』って顔で見てくるし、左腕も似たような目を向けてくるが、本心だ。
「…今の発言で水晶がバグって結果が読み込めなくなっておる。」
バシバシと手のひらで水晶を叩くおばあちゃん、古い家電でもイマドキ通用しないから…
ブンッ
「お、ついたのじゃ」
「…なんと出ました?」
古い家電レベルの水晶で何が分かるのだろうか…
その結果は…
_____________
「…とりあえず冒険者ギルドにいけ、か…正規ルートに帰ってきた感がすごい。」
「あの老婆、懇切丁寧なこの街の地図もくれましたね。」
結局、広場に戻ってこれた。
一番大きな役所めいた建物がギルドらしい。
丁寧にニスが塗られたしっかりとした作りのドアを開いた。
中は、とても広く長椅子が幾つもある様はますます役所っぽかった。
これ、先輩に絡まれたりみたいなテンプレは期待できなさそうだ。残念なような、よかったような。
「あっちに新規登録窓口がありますよ。」
エルが指差してくれてる方向に確かにそれはあった。
カウンター窓口の中の端に懺悔室のような、
小部屋が5つほどある。
「…一万人弱のプレイヤーに対してそれだけ?」
と思ってたが、ぼくと同じ服のお姉さんが
スッと入ると次の瞬間に入口とは別にある横の扉から出てきた。
「!?」
目をぱちくりしてると、お兄さんが話しかけてくれた。
「ははッ あれ、スゴいよなぁ。」
お揃いの麻の服からこの人も少し前に来て
「どうなってるんですか?」
「あぁ、あの中はチュートリアルの空間のように個々人の夢になってるらしく。部屋の中でふつうに説明されてる間、こっちと加速する時間の速さが変わってるらしい。」
「あぁ!なるほど、それでここから見ると出たり入ったりしてるだけに見えるんですね。」
「おぅ、スタート直後に人が殺到した時は、多少順番待ちは出たが。並んでる間もあの、クリエイターの話について駄弁ってたからそこまで混乱はなかったらしいぜ。」
「優しい世界ですね、良いことです。」
フランクなお兄さんのおかげで謎が解けてすっきりだ。
「あ、そういえばまだ名乗ってなかったな。俺は『アルマ次郎』気軽にアルマって呼んでくれ。」
「これは、ご丁寧に。ぼくは『ラティ』です。」
「《《そして、》》」
ぼくは長袖の上着を腕捲りして、左手を握手の形に差し出した。
実は、街に来てからぼくたちは
なるべく目立た無いように擬態していた。
今のぼくの左手は黒いだけでエルの口も肩の、声が聞こえやすくて他人からは見にくい場所にある。目玉も目立た無いように手の甲に小さいのを付けているだけだ。
エルに『不定形の身体』のスキルで、ぼくの身体を満遍なく覆うように分散させてた体積を《《元に戻す》》 ように念じた。
「ん?」と差し出された左手を見ていたアルマさんの表情が凍りつく。
最初は黒い左腕程度だった異様さは、
ズルズルと己の肉を取り戻し誇大化して禍々しさを取り戻していく。
集まった肉は巨大な腕を形作り、鋭利な爪を伸ばし、口や目玉を無作為に生成する。
ギョロりとアルマさんを見た目玉は
目を細めて嗤う。
異形の左腕
ぼくも笑顔で紹介する。
「相棒の『エル』です。こいつとも仲良くしてください。」
アルマ次郎を容易く握り潰せるだろう手が
そこに顕現した。
「…な、なんだコイツ…」
唖然とするアルマ次郎。
アルマ次郎さん、2d6/1d10
SAN値チェックです。
何処からともなくそんな声が
聞こえる気がした。




