シカとの遭遇
マルシャスさんから装備を作る為の素材を教えられたぼくは『斬殺平原』へやって来た。
北の門の門番のおじさんからの制止の声を前回同様にテキトーに振りきって。
「まちなよー、危ないよー……」
おじさんも止められないのが分かってるからか、制止の声が弱々しくなってきている気がする。
「いやー、罪悪感があるなー」
「口ではそう言っても、ラティの歩みに一切の減速が無いんだよね」
「……勘のいい左腕だ」
話しながらも、歩調は変わらない。
今回の目的地はウサギの先。
だから、ずっと早歩きくらいのペースだ。
そろそろ、いつウサギが出てきてもおかしくない。
ガサッ
茂みが揺れ、
『エンカウント!辻斬ラビット!レベル差が大き……
「よし!逃げるよ!」
遭遇のアナウンスが入り切る前に走って逃げ出した。
「エルはウサギが追いかけて来ないか見といて!」
「戦わないのか?!」
左腕に見てもらう事で、ぼくは後ろを気にせずに全力のスタートを切る。
「先を目指して進むんだ!イチイチ殺り合ってたら楽しんじゃって進めなくなるよ!」
今回はまだ見ぬ強敵である、鮮鋭鹿との対決が待ってる。
そんなわけで、余計な体力の消耗と死に戻りのリスクを避ける為にぼくは殺り合わないと決めていた。
正直ムズムズするし、心の中の衝動が『ヤローぶっ殺してやる!!!』とコマ○ドーの悪役の様に叫んでいる。
それでも進む、だって新装備にワクワクしてるから!
あのお店の存在は、プレイヤーの中ではぼく以外誰も知らない。
どう見ても装備を作ってくれる店とは思えないし、気付かないだろう。
そんなお店で一番に作ってもらうという事は、実質ぼくだけの装備になるわけだ!
オンラインゲームの醍醐味は、競争!
『いい装備』を所有する事は、きっと気分がいいだろう!
ぼくも、他のオンラインゲーをかじってた時にカッコイイ装備を見て『強そう、いいな』と素直に憧れた。
そんな視線を向けられれば、きっと楽しい!愉悦部に入部できちゃう!
「待ってろ!新装備ー!その為の鹿ぁぁあ!!!」
「うちの本体がハイテンション過ぎて怖い」
走り抜けるぼくとウサギ。
「そういえば、『兎追いし』は聞いた事あるけど追われる人間は少数派かもしれな……
「危ないっ!!」
シュパンッ
「ぬぉッ!!?」
くだらない事を呟いたらツッコミの様に、脇からウサギが跳んできた。
エルの警告に頭を下げたから、首を狙った斬撃が髪を何本か持ってきながら通り過ぎる。
兎達の不意討ちは首にくる率が高い。
殺意が高いっ!
急に頭を下げた事で、体勢がブレたぼくの隙きを見逃す後ろのウサギでは無い。
「だぁぁあ!ぁっぶない!」
背中を斬りつけようと、すっ跳んできた追いかけて来ていたウサギをマルセイユルーレットめいた回転回避で何とか躱す。
これ、サッカー部でもやっていけそう。
まぁ球技の中で一番苦手だから絶対に入部しないけど!
2匹のウサギを躱しきり、再びぼくは立て直して走り出した。
あと何回命がけのマルセイユを決めなければならないのだろうか。
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そして現在、
5匹のウサギに追われている。
「回避のたびに奇声あげてれば、集まるよ……」
「エル、気合と勢いが神回避を引き寄せるんだ。」
「悟った目で呟くのやめて」
神をその身に降ろす為に、古来よりシャーマンが不思議な踊りを踊っていた。
そして、今のぼくにも回避の神が降りてきてる気がする!(あくまで個人の感想です)
飛び掛かる5匹のウサギ。
「ホワァァッ!!ホッ!!ョッ!トォアッ!!」
縦横無尽に飛び掛かるウサギ達を、奇妙なポーズになりつつも躱す。躱す。
叫びにより限界以上の力を引き出す行為はハンマー投げに代表されるように、スポーツの世界でもある事だ。
つまり、この奇声にもきっと意味がある。
(あくまで個人の意見です。)
「カンッ!!フーアクションッ!!映画に出れそう!ッブナィ!?」
「余裕そうだなぁ!?」
躱しながらも前に進んでるし、常時絶体絶命なだけだと余裕が無くなる要素足り得ないね!!
そして、草むらの多い平原から
まばらに低木の生えたエリアに侵入したときにそれは起こった。
「ホァッ!ちゃっ!っと?……あれ?」
猛攻を続けていたウサギ達のうち《《背後》》にいた一匹が、来ると予想したタイミングで攻撃が来ない。
ぼくの殺気を読むスキル(自前)が外れたかと振り返るとヤツはいた。
ポタポタと血を流すのは、
さっきまで元気にぼくを殺そうとしていたウサギ。
よく、4番目くらいのタイミングで斬りつけてくるから『四郎』と勝手に名付けていた。
その、四郎が角に串かれていた。
べチャリとソイツは角を振り、落としたウサギを《《捕食》》する。
硬いはずの皮や耳の刃も構わずに、咀嚼する音だけが平原にしていた。
『エンカウント!肉斬鹿!レベル差が大きい相手です、撤退を推奨します。』
「し、シローーーっ!!」
「誰のこと?!!」
鹿とは聞いていたけど、肉食とか聞いてない!
困惑と驚きに満ちた、鹿との遭遇戦が幕を上げた。




