ロックンロール
ドアを開けた先は宿泊した部屋の前だった。
あの空間のドアと、この部屋のドアが繋がってたみたいだ。
「とりあえずギルドに降りようか。」
階段を降りてギルドのホールに入ると、既に人が多い。みんな、アンドレイから武闘大会のことを聞いたのだろう。ホールはギラギラとした目付きのプレイヤーで溢れて殺気だってる。
「いい雰囲気だ。」
「その感想はおかしいでしょ……」
エルの言葉はさておき。初心者の服のプレイヤーしかいなかった昨日に比べ、いろんな装備のプレイヤーが増えている。競争は始まっている。
「ぼくも装備を脱初心者しないとかなぁ……よく分からないけど素材は色々あるし、何か作って貰えるかも!」
そういえば、装備を作ってくれる場所の地図を貰っていたね。お金もそこそこ持ってるし行ってみようかな。
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と、言うわけで
「占い師のお婆さんの所にきました!」
「なんで、来たんじゃ?……」
「鍛冶屋さんに会う為に」
「……ほんと、なんで来たんじゃ??」
冗談はさておき
「鍛冶屋さんの場所はレジスタさんに聞いてます。ですが、他に良いとこあるかなと思ったので!」
占い師のお婆さんの目が少しだけ見開かれた。
「ほぉ……」
「レジスタさんの話だと序盤として東の平原、中盤の惨殺平原などがそれぞれ存在します。どちらにも接するロンディニアの街に序盤用の鍛冶屋しかないのは不自然だと思いません?」
「なるほどの、お主の推察の通りじゃ。この街にはギルドが最初に案内する鍛冶屋以外にもいくつか店があるの」
「その中で、ぼくに合いそうな工房があれば紹介して欲しいです。」
「ふぅむ、『一人の異邦人に肩入れし過ぎてはならぬ』と教会から言われておるが……どうしたものか?」
そんな、邪魔な教えがあるのか……
「なら、金銭で情報を買うのはどうでしょう?」
ちょっと前に観た、マフィアものの海外ドラマで情報屋が出てきたのを思い出した。
「クエストって形で異邦人との取引は存在しますよね?ルール的にはセーフではないですか?」
お婆さんは、額に手を当てて考えてる。
「むぅぅ、10万Gなら手をうってやろうかの?ちょっと欲しいものもあるしの。」
「その値で買いましょう!」
「……即決でずいぶんと高く買ってくれるんじゃな?」
「探すの面倒です!戦闘出来る時間を削るのも勿体ない!」
「清々しいくらい振り切れとるの……ほら、地図じゃ」
「はい!10万G差し上げます」
どうやってお金を渡すのかとメニューをいじってたら、メニューの所持金の項目から引き出す金額を入力できた。画面から、ちょっと重たい硬貨の入った袋が出てくる。
「地図の目的地の名前は……『ヴィースト・ウッド』?」
「そうさね、服屋と鍛冶をちょこっとみたいな店じゃが腕は確かな店じゃ」
ほぉほぉ?服屋なの?
「これは紹介状さ、持っていけば話しもスムーズにいくじゃろう」
お婆さんは便箋を渡してくれた。
「ありがとうございます!早速行ってきます!」
貰うものもらったから、さっさといこう!
少年がいなくなった後の路地に、取り残されたお婆さんがいた。
「……10万Gあったら、ギルドのオススメ鍛冶屋で一番いいのを揃えられたんじゃがの。まぁ、後々に価値が出るじゃろうて。」
その呟きを聴くものは、誰もいなかった。
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目の前にある建物と地図を見比べる。
場所はここであってる。看板も三回くらい確認した。
「…………」
『ヴィースト・ウッド』とド派手に書かれたその店は、ショーウィンドにボンテージ衣装やトゲトゲした世紀末なジャケットを着たマネキンが飾られてる。
「…………10万かけて教えてもらった店だし、入るしかないか。」
ドアをくぐるとギターとドラムの軽快でいて、激しいリズムが耳を打った。
見るとレジっぽいとこに、ロックなミュージックを大音量で垂れ流してるラジカセが置いてある。
ラジカセは世界観的にセーフなのだろうか……?
オーパーツ??
ふぁっきゅー! しっと!
罵詈雑言と思われる単語が乱舞する歌詞を聴き流しながら、この店に来たことをちょっと後悔する。
「すみませーん!」
音に負けないように声を出すけど、依然として店の中に人の気配はない。
店の奥まで届くように更に大声を出す。
「すみませーーん!!!」
「そんな、大声を出さなくても聞こえるよ」
ひどい騒音の中でも冷ややかで、スッと耳に入り込むようなその声が降ってきた。
「うわっ!?」
その人は天井に逆さまにぶら下がっていた。
「ごきげんよう。今、そちらに降りよう。」
挨拶をしながら、軽やかに降り立ったその人は事も無げに言い放つ。
「こうも、騒々しいとお客様が来てくれても気づかなくてね。入り口で待っておくことにしたんだ。」
「……音楽を切ればよいのでは?」
「あの音の出るアイテム鳴り止まないし、捨てられない呪いのアイテムでね。」
「……もしかして、夜中も聞かれてます?」
その人は、美白というよりは不健康な程、真っ白な顔に黒々とした隈が浮かんでいた。それに合わせて、ぶら下がっていたからかツンツンと髪が逆立っている。
……寝不足そうな人だな。
「これは生まれつきだよ」
バサリとブラックレザーのコートを広げて宣言する。
「自己紹介がまだだったね。
私は『マルシャス・マルクレン』。偉大なる不死の一族ヴァンパイア……のはみ出し者だよ。」
ニッと笑うドヤ顔から、ヴァンパイアとは珍しいモノなのだろう。種族のことは、詳しくないから普通に自己紹介を返す。
「ご丁寧にどうも、ぼくの名前はラティ。」
そして、
「私はエルだ」
左腕が突如として、擬態モードから禍々しい異形の腕へと変貌を遂げる。
「……ヴァンパイアよりも珍しいな。」
マルシャス氏の顔がひきつってるが、いつもの事なのでスルーする。
「お婆さんから紹介状を貰ってここに来ました。」
「ふ、ふむ。拝読しよう。」
お婆さんから貰った紹介状を渡す。
「なるほど、なるほど」
チラリとエルを見ながら、納得される。
「君の相棒のエル君を手に入れる代償に『腕』の装備枠を無くしてるんだね」
「……あ」
忘れてた。占い師のお婆さんは占って知っているからこの人を勧めたのだろうか?
「普通、装備は一式揃えると『セット効果』を発動出来るのは知っているかい?」
「初耳です……」
あー、モンスターを狩るゲームにもあった気がする。
「だろうね。『セット効果』の恩恵は割りと大きい。君にはそれが使えない。だが、問題ない」
ちょっと落ち込んでたけど、マルシャス氏の言葉に顔を上げる。
「私こそが、その常識に反逆する者!!この街で唯一の反逆反骨服飾家なのだ!」
ちょうどお店のBGMのギターが、ギュィインと盛り上げるようにエレクトリックな音を奏でた。
「……パンク・ロック??」
お婆さん、めっちゃ濃い人を紹介してきたな。
パンクとはなんだろうか?
それは、破壊である。
骨董品に個性を叩きつけ、砕く。
生まれた塵屑を誇らしげに掲げる事だ。
ロックとはなんだろうか?
それは、反逆である。
周りで合唱される秩序あるメロディを乱し、
歪めてなおも、己を轟かせる。
個として、全に異を叫ぶことだ。
パンク・ロックとは、自己中心的で、自己偏愛的な、自己表現なのだ。
……という話を、かれこれ一時間ほどマルシャス氏から受けている。
新手のペナルティかな?
とても、とても長い話を聞いてやっと本題に入れた。
「ん?ラティ少年よ、目が死んでるが大丈夫かい?そろそろ本題に入ろうと思うのだが……」
「お願いします!はやく!はやく!本題を!」
「よ、よいだろう。ついついパンク・ロックについて語り過ぎてしまったようだな」
ちなみに、この間立ちっぱなしでマシンガントークを受けている。
これで、大した腕でなかったら本気で占いお婆さんを恨む。
「では、本題だ。反逆反骨服飾家の私は、尖った個性のあるデザインの装備が大好きだ。
控え目に言って、愛してる。」
お、おぉう。
蕩けるような顔で告げるその声に、ゾワリと変な鳥肌がたった。
「だが、私の好みの組み合わせを、許さないモノがあった。それが『セット効果』だ!」
打って変わって憤怒の表情で激しい憎悪を迸らせた。
正直、やべーやつだと思った。
「私の愛するデザインの装備は、『腕』装備が存在しなかった。つまり、『セット効果』は元々得られなかった。
人々は憎き『セット効果』の誘惑に抗えず。ついぞ《《デザイン》》を気に入ったとしても、私の作品を選んではくれなかった。」
確かに服系の装備にガントレットみたいな、ゴツい『腕』装備がくっつくのは変な気がする。
例えば手袋みたいな装備だとしても、似合わない装備には蛇足っぽくなるだろう。
どんどん語り口が速くなってく。
「『セット効果』は世界のルール。そう気付くのに時間はかからなかった。世界は《《キレイ》》な《《ちゃんとした》》装備の冒険者を求めているのだ。」
……なるほど、ゲーム世界と捉えてるぼくらと違って、この世界の現地の人には不条理なルールなのかもしれない。
ゲーム的には冒険者に変な装備の人がいるよりも、カッコいい実用的っぽい一式揃えた装備の人が多い方が絵面がいい。
そういった《《ゲームとしての事情》》が彼のファッションを妨げたんだ。
「私は怒り狂った。その激情のままに装備を作り続けた。
レザー生地にスタッズの多いゴテゴテしたデザインの胴装備。
カッコイイだろ!何が悪い!!
チェーンや安全ピンを散りばめた、スキニージーンズ系の脚装備。
洒落てるだろ!理解しろよ!!」
吠える、吼える、咆える。
自分の好きを叫ぶその絶叫は正しくパンク・ロックだろう。
叫んだ後に不気味に笑い、静かになった。
「怒りのままに装備を作り続け、そして至った。」
ニッと笑う。
「反逆反骨服飾家。
その職業スキルの効果は
『作成した装備に『セット効果』を超える付与が出来る。ただし、装備枠を全て埋める一式装備は作成出来なくなる。』
それが私のスキルの効果だ。」
ほほん?
「つまりは?」
「装備の枠に穴が空くから、基礎の防御力では負けるが、トータルの補正値なら勝てる!
しかも、とってもオシャレで素敵な装備だ!」
最後のは主観だと思うけどすごい!
さらには、『腕』装備を元々装備出来ないぼくにピッタリの一式装備だ!
お婆さんに10万払って教えて貰っただけある!
「くっく 私のスキルを気に入って頂けたようで何よりだ。ラティ少年よ、カッコイイのを作ってやろう。」
「はい!早速装備を作ってもらいたいです!(なるべく趣味は抑えてくれると嬉しいな!)」
「よかろう、どの様な装備を作るにせよ、素材を見せてもらわないとな。
早速、奥の工房で手持ちの素材アイテムを見せてくれたまえ。」
バサッとレザージャケットをはためかせながら、店の奥へと進んでいくマルシャスさんを追いかけた。
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インベントリをひっくり返してみる。
驚異のウサギの革の比率、申し訳程度の阿修羅素材……
「……これは辻斬ラビットの革?
それも、頭部以外にあまり損傷が無い。
こっちに関しては、なんだこれは……??
ヒト型のモンスターのパーツなのか?」
うん、装備になるような素材の組み合わせでは無さそうな感じだ。
マルシャスさんは、一頻り、素材を見て並べると。
頭を捻って考えたり、天井にぶら下がって頭に血を集めて考えたり、ヘッドバンキングしながら考えたりしてた。
……本当に大丈夫なのかな、この人?
「すまない、ちょっと素材が足りないな。」
「デスヨネー」
まぁ今の素材で作れたとしたら。
革といってもウサギだし、モコモコになっちゃいそう。
「だが、本当にあとちょっとで出来そうだ……インスピレーションがバクバクと湧いてくるのが分かる!!!」
シュババと作業台にあった白紙の寸法用紙に図面が描かれる。
「ラティ少年。辻斬ラビットの素材があるなら斬殺平原には行けるんだろう?」
「死にまくってますが通ってますね!」
「……異邦人は、不死不滅だと言うのは本当なんだな。でなければ、こんなにウサギの革も集まるまいか。で、あれば」
言葉を区切って、ぼくの目を見つめてきた。
「ウサギの領域の先。鹿のナワバリの主、鮮鋭鹿の革を一頭分持っておいで。それでイカした装備に仕立ててあげるよ。」
言葉にはしてないが、『キミに殺れるかな?』と聞いてきてる気がした。
ウサギの先に待つのは鹿なのか。
まだ見ぬ強敵の気配に背筋にゾワリと武者震いが走る。
「明日には、持ってきますよ!」
そう、にこやかにした。
ぼくはまだ知らない、ウサギは本当に《《浅瀬》》でしかない事を。
斬殺平原の本気とも言える地獄。
VRオンラインのプレイヤー達が後に、
運営に『殺意が高過ぎてココから別ゲーになってますが仕様ですか?』と
何度も質問を送る事になるエリア。
ぼくは何も知らず『VRオンラインの奈良公園』と俗称されるエリアに、初めて足を踏み入れるプレイヤーとなるのだった。




