サービス2日目の朝
新章!
ブルルルルルルッ
ブルルルルルルッ
ブルルルルルルッ
規則正しい振動の音がする。
ぼくは目を覚ました。
見知った天井……の前に見慣れないバイザーが視界を遮っている。
これは……VRヘッドセットだ!
昨日の夜に着けたときは、ちょっと蒸し暑いと感じるかと思ってたけどファンが内蔵されていてそれほどでもなかった。
尤も、すぽんと脱いだら時に爽快感があったから多少は蒸れてたかも……
ハゲたりしないだろうか?地味に心配だ。
高校生にして薄毛に悩みたくないぞ、ぼくは。
脱いだヘッドセットを眺めてると、途端にゲーム内での記憶が甦った。
楽しい夢を見れた時の充足感で胸がいっぱいになる。また、遊びたい…が夜まで我慢だ。
あのゲームは1日一時間しか遊べない。
逆に言えば、急いでも急がなくても1日のどこかで一時間プレイ出来れば、他のプレイヤーとの差はそんなに生まれないはずなのだ。
そういえば寝てる間に『VRオンライン公式アプリ』をスマホに入れてたんだった。
相変わらず、このゲームのクリエイターさんは直球ストレートのネーミングをしてる。
通学の時に起動してみようかな。
ぼくは自分の部屋を出てリビングへと降りた。
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リビングへ降りると、弟とお母さんが朝飯を食べていた。
焼けた小麦の匂い、今日もトーストか。
ぼくはお米派だが、家族四人分のお弁当に朝イチ炊いたお米はほぼ消える。
早くからお弁当を作ってくれる母上には頭が上がらない。
弟の名は木更津 渡。
ぼくの名前と合わせて『響き 渡る』
「世界に名を轟かす二人であれ!」との願いを込められた名前らしい。スケールがデケェっす。
からかうように愚弟がパンを齧りながら聞いてくる。
「おはよ、お兄ちゃん。どうだった?クソゲーだった?」
「おはよう。いや、大当たりで最高のゲームだったぞ!」
愚問に食い気味に答えると渡はちょっと驚いた顔になる。
「いつも気だるげなお兄ちゃんがそこまで言うのは珍しいな、凄いゲームなのか…?」
「あぁ、本当にゲームの中に入れるVRゲームだったよ。原理は分かんないけど、夢をゲームに作り替えてるらしい。」
渡はポカンとしてる。まぁ、それもそうか。
「…はぁ?今は2022年だよ?100年先のSFの話してるの?」
「ホント、ホント」
すっごい懐疑的な目で見られて悲しいが夢だからかスクショとか、録画とかの機能があるのか分からない。
配信者とかどうすんだろ?後で調べてみるか。
「遅刻するわよー?おしゃべりもいいけど、早く食べちゃいなさい。」
「「あーい」」
ぼくも朝飯を食べて用意しなくちゃ。
『次のニュースです。本日8時過ぎ頃『ゲームが現実になった』と言って、暴れる男性が取り押さえられました。幸い周囲に人はおらず怪我人はいませんでした。しかし、同様の事件が全国的に多発しています。外出の際はお気をつけください。』
今日も日本はへいわだなぁ。
流れるニュースを尻目にパンを齧った。
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ワイシャツを着て、ブレザーにシュバッと袖を通す。
ぼくは、友達から「やたら格好よくブレザーを着る男」との定評がある。
コツは腕をクロスさせながらブレザーを持って、羽織る瞬間はブレザーを滞空させて袖を通す事。
…いったいぼくは誰に講義してるのやら?
準備を終えて家を出る。
渡は部活の朝活があるから早めに出てる。
ぼくも普段より早いが昨日課題を一部サボタージュ……いや、未来のぼくに託してるから急いで出ねば。
「いってきまーす」
「いってらー」
お母さんの返事を聞いてから、イヤホンをして学校へ向かう。
今日は降水確率40%、念のために傘を持って歩きだ。
うちは学校へは歩きでも25分弱って距離だ。
バスを使う方が速いけど、バスの中の人で濁った空気よりも春の朝のちょっと冷たい空気を吸いたい気分だった。
そうだ、歩きながら『VRオンライン公式アプリ』を開いてみよう。
ピコンッ
『イヤホンを装着して起動して下さい。
OK!/ちょっと待って』
着けてる。OKボタンをタップ。
「Welcome to Variable Real On-line!!!」
「のわぁ!?」
隣から大きな声で呼び掛けられた。
「やぁ、おはようプレイヤー、ワタシだよ?」
振り向くとクックッと笑う白衣の男がいた。
「は?」
間違いない、サービス初日に噴水で演説してたあの人。
「クリエイターさん?」
「ご明察。我が名は創造主 アンドレイ、以降お見知り置きを!!」
ぼくは頭がおかしくなったのか?
「安心したまえ、ここは現実で君は正気だ。プログラムは正常に作動してる。」
呆然とするぼくに男はジェスチャー交じりに指示してくる。
「イヤホンを片側外してみたまえ」
真っ白な頭で片側のイヤホンを外すと白衣の男が崩れて消えた。
「……?幻覚?」
「間違ってないがハズレだ。」
片側だけのイヤホンから男の声がする。耳にイヤホンを戻したら。ザザッと視界にノイズを起こしてから像が結ばれる。
白衣の男は大仰な仕草で自身を指差した。
「これは、タルパもしくはイマジナリーフレンドと呼ばれる存在の応用発展技術さ。君が視てるのは操作されて、意思を持ってる様にみえる自分のイメージの存在なのさ。」
「なんでぼくのイメージが、あなたの姿になるの?」
「かくあるべし!とワタシが創造したからさ!…クックッ、冗談だ。現実には科学しかない、安心してくれオカルトやら怪しい魔術なんて使ってない。」
創造主を僭称する男は、嗤いながら嘲る様に告げる。
「高度に発達した科学は魔術と見分けがつかないだろうがね。君はユーザーで疑問を持つ必要など無い。詳しい原理なんてワタシが理解してれば十分なのさ。
君はイチイチ、スマホの中身やネットの仕組みにに疑問を持って生きてるのかい?」
男は親しげにぼくの肩を叩いてぼくの前を歩きだした。
「ほら、通勤か通学の途中なんだろ?早く行こう。続きは歩きながら話そうか。」
まぁ、確かにぼくにはそれを知っても意味はない。
大事なのはこの男が何をしてくれるのか。それこそ、スマホやネットと同じ様に害がなければ何も考えずに使えばいい。
「何を教えてくれるの?」
後を追いかけながら尋ねるぼくに
白衣の男は笑顔で答えてくれる。
「それは……」




