サービス初日の終わり
殺られた…
『大聖堂』の祭壇からむくりと起き上がると
入り口の辺りでアズさんが司祭のおじさんからお説教を食らっていた。
パーティーだとおんなじ部屋と担当司祭になるのかなと、どうでも良い事を思った。
「命とは貴方のご両親、そして神様からの大事な贈り物。それを粗末に扱うなどとんでもない…」
「すみません…」
真面目に説教を受けていて偉いなぁ…
現実でも素直な人なんだろうなぁ
死に戻りしたから一時間が経過したはず。
お昼過ぎに出て戦闘して今は14時32分とメニュー画面に表示されている。
とても、微妙な時間だ。
寄付金を払いたくないからぼくはまだ一文無しのままだ。
せっかくだからそろそろちょっとたまった素材を持ってギルドのレジスタさんの所に換金に行くのも悪くない。
生き返ったぼくに司祭様が気付いてしまった。もはや、顔馴染みを通り越して友人になれる気がするほど見慣れた真っ赤な顔だ。
というか、このおじさんと門番のおじさんにお世話になってる回数が一番多い。
おじさんNPCと仲良くなれるゲーム、それがVRオンライン。(違います)
そろそろアズさんをお説教から助けてあげよう。
「またお前か!こんな女の子まで巻き添えにしおって!」
「違います!アズさんは自分の意思でパーティーを組んでウサギに挑んだんです!つまり、ぼくと同じ『命を大事にしない側』の仲間に自分から入ってきたんです!」
「なんだと!?考え直すのだお嬢さん!」
テキトーにあしらってみたら、司祭さんが真に受けてアズさんをガクガクと揺すりはじめて面白い。
「そして、今回も説教されても金は出しません!持ってないから!
アズさんの分もパーティーリーダーとして、ぼくが払います!持ってないから払えないけど!」
堂々といつもの倍踏み倒す宣言をしたぼくに、司祭様は愕然としている。
その隙に、アズさんの手を取って大聖堂のドアを潜る。
「また来ます!」
「しまった!…二度と来るな罰当たり!」
いつものやり取りをして大聖堂を後にした。
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大聖堂を駆け出したぼくたちを、霧の多いロンディニアでは珍しい陽の光が迎え入れた。
「いつも元気なおじさんだよなぁ」
「初めて死んじゃったけど、お説教をされちゃうのね……逃げてきて良かったのかな?」
憂いた顔のアズさんに頷く。
「大丈夫!いつも踏み倒して無視してるから!」
「……大丈夫かなぁ?」
首を傾げるアズさんを他所にぼく達は冒険者ギルドのある広場に着いた。
ギルドがあるだけあって周りにはプレイヤーらしき人達がチラホラいる。
「初めてのウサギ狩りはどうだった?」
「活躍出来なかったしやっぱりレベル上げしなきゃって思った。まぁ見た目は可愛かったから癒されたかな?けど殺されちゃったしノーカンかも」
たははと苦笑してるけど、饅頭饅頭と愚痴ってた時よりは元気そうだ。
「ノーカンでもマイナスよりはマシじゃない?もう一回ウサギの所で命を粗末に扱うのも悪くないけど、どうする?」
「殺されちゃったら思ってたより気疲れしちゃって……悪いけど今日はもう冒険よりも街の散策とかしたいかも」
「そっかそっか。ぼくもはしゃぎすぎてたし、一回冒険者ギルドへ行こうかなって考えてた。」
「賛成!あのウサギの素材と討伐報酬がいくらになるか楽しみだね!それじゃいこっか」
「うん、いこう!」
ギルドに入ると中は相変わらずの広さで、見渡して素材の買取受付を探すのも大変そうだ。
と思ったが、人の集まっている場所に看板が見えた『素材の買取 最後尾はこちら』……
先頭を見るとあの小部屋がある。
レジスタさんの部屋だ、案外早く見つかったてよかった。
まだ15時前だし他のプレイヤーはみんな冒険中なのかな?並んでる人はそこまで多くない。
「前来たときよりは空いてるかな」
「やっぱり少なめなの?ラッキーな時間帯に来たね。」
そんな雑談をしながら並んだぼく達がレジスタさんのとこに行くまで、そう時間はかからなかった。
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昨日は1日中ギルドに戻らず暴れてたからか、レジスタさんに会うのも久しぶりな気がする。
「おかえりなさいませ、斬殺平原は楽しめましたか?」
「はいっ!」
「可愛いのと戦えて気持ちが回復しました!」
「それは良かったですが、倒せました?斬殺平原の『辻斬ラビット』はレベル差30オーバーのモンスターです。殺されるだけになってなければいいのですが…」
「私は一匹おこぼれで!」
「ぼくは12匹殺してるよ!おなじ位殺されて『大聖堂』送りにされたけど!」
「?!レベル10のプレイヤーが『辻斬《リッパー》ラビット』を12匹も?不正行為は不可能なはず……いったいどうやって?」
レジスタさんは『あり得ない』と顔に書いてあるような表情をしてこちらを凝視してきた。
「それはこうしてです」
ズルリっと左腕を異形の巨腕に変えてつまみ上げるようなポーズを取る。
部屋が狭くなるからすぐにしゅるりと『擬態モード』に戻す。
「速く動ける脚があっても足がつかなきゃ動くも何も無いです。あとはなぶり殺しに出来ます。」
「……なるほど、不可能ではないですね。」
「とても硬くて殺すのには時間がかかりますけどね。」
「『辻斬ラビット』《《には》》十分な作戦です、お見事です……おっと、そろそろ討伐報酬と素材買い取りのお話に移りましょうか。」
レジスタさんはそう言って、ジャッとどこからともなく算盤を取り出した。
……ここのAIはアナログ好きなのかな?
「アズさんは討伐数がパーティー参加で1、ラティさんは討伐数が12ですね。討伐報酬額が一匹5000Gなのでアズさんは5000G、ラティさんが60000Gになります。」
おぉー?
そう言えばこの世界でお金使ったこと無いから、ぼくにはそれが高いのか安いのか判別つかない。
「?!討伐報酬だけで、そんなに貰えるんですか!」
高いんだなぁとアズさんのリアクションから判断する。何にせよお金は持ってて困らないし、良いことだ。
…あ、蘇生後の寄付金になるから早めに使い切らなきゃ。
持ってて困らないけど、持てないなら仕方ない。
「素材の換金はされますか?現状のプレイヤー間に出回るトップクラス以上の素材になります。手放されずに装備の作成に使われるのがよろしいかと思います。」
「私はやめとこっかな。せっかくだから装備に使おうっと。」
「ぼくも装備に使おう。何処に装備を作れる場所が有りますか?」
「かしこまりました、地図はこちらです。」
準備がいいね。広場のプレイヤーも少しだが初心者装備を脱してる人もいたし、よく場所を聞かれるんだろうな。
「装備を作ったらまた戦いたくなるのが目に見えてるし、ぼくは明日行こう。」
「私もそうかも、明日行ってみます」
「かしこまりました。それでは報酬をお支払します。」
『システムメッセージ:160000G手に入れた』
「あれ?10万多いですよ?」
「そちらは初クエストクリア報酬になります。」
「おぉー、ありがとうございます。」
使い切れるかなぁ……
「昨日は野宿されてたようですが、今日は宿に泊まって回復されたらどうでしょうか?」
「あっ!宿代ってまとめて支払い出来ますか?」
「可能です。職業が冒険者のみの間は、ギルド二階のゲストハウスが一泊2000Gで使えます。また、宿屋及びゲストハウスはここのような一時的個人空間になります。アズさんと一緒に寝るというのは不可能です。」
「今日会ったばかりの子にそこまで下心は抱けないですよ。10日分まとめて支払いします。」
「私もラティくんは嫌っては無いですけどちょっと…それはそれで私の魅力不足なのかな?って思っちゃうな」
「アズさんは十分魅力的でリアルで会えたら三度振り返る級に綺麗ですよ。
茶髪よりの金髪と青い瞳はまるで青空と太陽のように眩しくて綺麗です。日本人的な丸みや柔らかさとメリハリもある顔立ちはクレオパトラも裸足で逃げ出すほど整ってます。小柄なのも素晴らしい、隣にいてくれると落ち着くサイズ感がとてもグッドです。他には……「ストップゃめて」あ、はい」
ぼくもこのアバターにするのに弄ってるし、アズさんもキャラリメイクをしてるんだろうから現実は違う顔だろう。
きっと頑張って整えたんだろうなぁ。
「会計お願いいたします。」
レジスタさんに会計をお願いする。
スッと指をレジスタさんが動かした。
「では20000G頂きます……(すごい誉め殺し)」
「?何か言いました?」
『システム:20000G支払いました』
ぼくの問いはシステムメッセージの通知音に飲まれた。まぁ気のせいかな。
「部屋は201号室になります。ギルドは門限無しで開いていますが、ロンディニアの夜道は少し物騒なのでお早めの就寝をオススメします。それでは、お疲れ様でした。」
ペコリとお辞儀されたので、返礼して返す。
「ありがとうございます。それでは、また明日。」
「アズさん?出ないんですか?」
「で、出るよ!」
なんだか怒ってる?《《アバター》》を褒めただけなのに……
釈然としない気持ちを抱えてギルドを後にした。
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赤い顔したアズさんに
「明日は、東の平原の攻略に戻るから!今日はありがとう!またね!」
と早口で告げられて何処かに行かれてしまった。
『システムメッセージ:パーティーを解消しました』
なぞにシステムメッセージに寂寥感を感じながら装備屋さんの位置を確認するなど少し散策をしてギルドに帰る。
晩御飯に魚と芋の揚げ物(名物らしい)を食べたけど、味がする事に驚いた。どうなってるんだろう?
腹ごなしに運動したいとギルドの人に聞いたら地下に訓練用のスペースがあると教えて貰えた。
ここは個人空間と共有空間で好きに選べる場所らしい。
エルと遊びたいから個人を選択。
湿った土のフィールドはキレイに均されてグランドを思わせた。
「エル、限界まで伸ばしてぼくと闘うことは出来る?」
「自分の腕と闘いたがるなんてやっぱりお前は変なやつだな…」
「槍も慣れたいからね」
『ハジマリの短槍』を構えたぼくと、ぼくから細く伸びる線でつながったエルが向かい合う。
お互いが自分だから合図は要らない。
オレが駆け出すと同時に、腕になってから靄がなく飛べなくなったエルは指を動かして這うように接近してくる。
槍を繰り出したぼくと爪を伸ばすエルの攻撃がお互いを弾き合う。
ニヤッとしてしまう手の痺れの心地よさ。
「また噛み千切ってやる」
「自分の手だろうに」
目がこちらを見て、口が弧を描く。
5本の指が 移動の為に地を掻いたり、 爪を伸ばしたり忙しなく動く。
オレも突いて払っていなしていく。
隙を見ては攻撃の突きを放ちエルに生傷を増やす。逆にオレも掠めた攻撃で赤い線がいくつも増えていく。
楽しいな、痛いけど《《生きてる》》って感じがする。
「エル、楽しいね!」
「……ノーコメントだ!」
二人して遊んでるとあっという間に時間が過ぎた。
殺さない程度にやりあって。(HPは共有だからどっちが勝っても自分も死ぬ)
201号室に入った。
汗を流すためのお湯とタオルがあってとても助かった。
適度に疲れた身体を横たえて、左手を天井に向けて突きだす。
「なぁ、エル。この世界は楽しいけど一体どうやって実現してるんだろうね。夢がどうこう言ってたけど、ぼくにはよく分かんなかった。」
「偉大なるお父様が創造されたのだ、矮小なラティには分かるまい。もちろん私はこっちの世界の事しか知らないから、分からないがな。」
「そっかー」
「そういえば、サービス2日目の朝には面白いことが起こると前にお父様が溢していた。」
「ほほーん?明日が楽しみだね。何にせよ疲れたし、そろそろ落ちようっと。おやすみエル」
「あぁ、《《また、明日》》」
ぼくはこの時、勘違いをしていた。
サービス2日目の朝の意味を。




