突入
帰って来たマスターの説明を聞くとどうやら、ルビナス王国にあるクランの一つが悪さを起こしているらしい。確かクラン名は「夕闇」で、MPKしていると、噂のギルドだ。でも、確かあそこのクランは、尻尾を今まで掴ませなかったような・・・。
「どうやら今まで通りと思ってたらしく、衛兵の前で堂々と喋ったみたいだな。」
マスターがそう説明する。なるほど。確かに今までの衛兵はNPCの為決まられた動きしかしなかったが、今は完全に人と同じなのだ。
「それで、そのクランを倒して欲しいと言うことですか?」
「そうだ。で、これが依頼書。あとなるべく急いで欲しいらしい。なんでもこの国と争ってるお隣さんの動きが怪しいんだと。」
とマスターが皆に依頼書を見せる。実はクランではクエストが受けられ、それは市民やなどが出していると言う設定だったのだが、どうやらここでは本当のことのようだ。
「で、どうやって倒すかなんだが・・・、やっぱ正面から行くか。」
「え?ちょっとマスター!?すぐに逃げられるよ!」
マスターの提案に時雨さんが突っ込む。きたさんと、天堂君もさすがに正面は、と言う表情だった。かくという自分も反対である。
「ユウちゃんがいるわけじゃないんだよ。」
時雨さんが言ったユウちゃんとは、「八重奏」のメンバーの結界魔術師である。
「俺が、クランの建物ごとぶっ飛ばすか・・・。」
「いや、それは流石にダメでしょ。周囲に被害が出るし、一応証拠も回収しないといけないと思うよ?」
天堂君の提案に今度は、自分が突っ込む。
「じゃあどうするんだ?」
「これはどうでしょう。まず・・・。」
自分達の前には、クラン「夕闇」の建物がある。
「それじゃ作戦通り行くとしようか。」
きたさんの言葉にみんな頷く。
「この空間を無限へと行く時空の歪みの中の亜空間に運び、回帰する牢獄を作らんと『無限牢獄。』
途端、建物の周りを魔力が覆う。『無限牢獄』は、きたさんの魔術の一つで、指定した空間を亜空間に移動させ、そこから出ようとしても戻ってきてしまう上に外からも干渉できないと言うものである。ただし魔力の消費はバカにならず、今のきたさんの残り魔力はほぼ空のようだ。
「突入!」
マスターの掛け声でクランのメンバーが建物の入り口に殺到する。
「書庫よ、その本を呼ぶ出したまえ『魔導書、魔法典』。」
そう唱えると、自分の手元に魔法陣が現れそこから、本が出てくる。この本には、この世界にある全ての魔法が書かれている。ページをめくり気絶のあるページを見つけると、外にいた逃げようとしている敵クランメンバーに本を向ける。
「その魔法、具現化せよ『気絶』。」
そう呟くと敵クランメンバーは、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
その後も何人か気絶させる。この『気絶』は、文字通り相手を気絶させる魔法で、術者より魔力が高いものや、スキルを持っているものには効かないという仕様である。
「どうします?このまま外に出て逃げようとしてる人達を、片っ端から気絶させていきます?」
きたさんにそう問いかける。
「うーん、そうだな。じゃあ頭を潰しに行こうか。」
そう言うとおもむろにきたさんは、気絶してい黒装束の男に向かうと魔術を使って起こす。
「ねぇ君、君達のボスは何処にいるかな?」
「お、教えるわけないだろ。」
「そうかー。できれば使いたくなかったんだけどなー。」
そう言うと、きたさんは時雨さんの方に目配せする。
「そういえば、君怪我してるんだよね?水属性回復魔法の特性知ってる?」
尋問されている男は、首を横に降る。
「そうかー、やっぱり知らないか。時雨さん説明してあげて。 」
「いいよー。あのね水属性回復魔法は、怪我の周りの細胞を活性化させて治すっていうものなんだけどね、無理やりやるものだからすごい痛みを伴うっていう設定なんだって。でねでねここって設定も全て本物になってるよね?だからさぁー・・・我慢してね?」
ここで自分はきたさん達が何をやろうとしていたのか気付く。どうやら痛みを与えて吐かせるつもりらしい。鬼畜である。
「や、やめろ!俺を痛みつけるつもりか!」
「何言ってるの〜?治療だよー。」
男も気付いたらしい。必死に抵抗仕様としているが体だけ麻痺しているようだ。きたさんの魔術で、おそらく顔だけ、状態を過去に戻したのだろう。
「分かった!話すから!やめてくれ!最上階にある明かりの付いている窓がボスの部屋だ!」
「分かった。情報ありがとう。それじゃレン君、時雨さん、行こうか。」
そうきたさんが言った後に、自分達三人の足元に魔法陣が出ると、男が言っていた部屋に転移した。
その先には、書斎にあるような机と椅子があり座っている黒髪にメガネの男がいた。
「おやおや、客人ですか。ちゃんと扉から入って欲しいものですねぇ。」
「それはすまないね。何せ僕は魔術師だから。」
「時空魔術の北風に回復魔術の時雨と・・・おや?あなたは?」
きたさん、時雨さんを見た後に黒めがねの男は自分を見てそう問う。
実は、自分はあまり「八重奏」に中で目立たない存在である。というより他のみんなが、目立ちすぎなのである。
「まぁいいでしょう。それにしても魔術師と子供だけですか。剣士がいないとは致命的ですねぇ。みなさんやっていいですよ。」
その言葉の後に壁から暗殺者らしき集団がわらわらと出てきたのであった。