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☆元の世界

「おっ、来た来た。星倉! こっちこっち」

 上の方から楽しげな声が聞こえる。


 見上げると、一ノ瀬が貯水タンクの上に腰かけていた。



「屋上は俺のモン……じゃなかったのかよ?」

 俺を見つけて無邪気に笑う一ノ瀬に対し、皮肉を交えて先日のコイツのセリフをそっくりそのまま返す。



「あー、あれかぁ。あん時は君が枠内なのか枠外なのかが分かんなくって。悪いことしたね」

 きまりが悪そうに、視線をそらし頬をぽりぽりとかいている。


「ふーん。よくわかんねぇけど、ちなみに俺はどっちだったんだ?」


「もちろん星倉は枠外」

 真顔できっぱりとそう返す一ノ瀬。


「枠外か……お前から言われるとなんか腹立つな」


「ちょ、荒ぶらないでよ。まったくこれだから暴力紳士は困るんだよね。あっ……ごめん、うそうそ!」

 タキシードの件を思い出したのか、一ノ瀬は突然ヘンテコなあだ名をつけてきて。

 無言のまま、ぎろりと睨むと一ノ瀬は慌てて謝りだした。



 俺は、暴力紳士と呼ばれるために来たわけじゃない。

 呼びつけてくる理由、それを知りに来たんだ。



「約束通り来てやったぞ。俺に話したい話って一体何なんだ?」



 俺の問いに対して一ノ瀬はにこりと微笑み、貯水タンクのふちをパンパンと叩いていく。


「ま、とりあえずこっち来なよ。そこじゃ、邪魔が入るから」





「おー、こりゃ眺めいいな」

 俺も貯水タンクの上に登り、周りを見回した。


「ふふん。ここ、私のお気に入りなんだ。この学校で唯一誰にも邪魔されないのがここだからね」


「邪魔?」


「君も見たでしょ? 碧山(あおやま)赤羽(あかば)に私が迫られてるの。ここはたぶん異世界。だって私、本当は暁高校の二年生じゃなくて、東雲(とううん)高校の一年生なんだもの」


――東雲高校の一年生だと! 俺と同じじゃねぇか!


 そこから一ノ瀬がため息をつきながら長々と語ったのは、信じられないような真実……



☆゜*・。.。・*゜*・。.。・*゜*・。.。・*゜*・。.。・*☆


――一ノ瀬悠 三ヶ月前 東雲高校にて――



「ねぇ雪雛っ。なんで髪切っちゃったの?」


「……そんなに似合わない?」


「ううん、すっごく似合う!」


 私の目の前にいるのは、透き通る白い肌と真っ白な髪をしている、まるで雪のように儚げな姿をしている美少女。


 全員が部活への入部が強制されているこの東雲高校で、今年から正式な部活として認められた帰宅部に所属している。

 帰宅部って部活なのかが少し疑問。

 



 そんな雪雛はずっとロングだったのに突然、髪を切った。

 理由を尋ねてみたら『テストの点が悪かったから。これじゃキモオタな弟の可愛い彼女に顔向け出来ない』というよくわからない返答が返ってきて。


 テストの点と、弟の彼女にどういう関係があるのかさっぱりつかめない。

 テストの点を彼女に見せるわけでもないのに。



 まぁ、雪雛はなんだかんだでブラコンだし(彼女は絶対認めないけど)、姉として立派でありたかったのかもしれない。


 それに、テストの点はふるわなくても、ショートにしてさらに可愛くなったから、きっと結果オーライってやつだ。



「いいな、ショート! 私も短くしてみたいな」


 自分のストレートロングな黒髪をくるくるとねじり、自分のショートの姿を想像してみた。


 きっと乾かすのも楽だし、雪雛みたいに可愛くなれるかもしれない。

 ショートへのイメチェンは、いいことづくめ。



 だけど雪雛は、自分の口元に手をあてて真剣に考え込んでいて。

 ゆっくりと小さな口を開き、遠慮がちにこう言った。


「……たぶん、(はるか)がショートにしたら、また『(ゆう)くん』とか『ジェンヌ』って言われちゃうかも。中学の時みたいに」


「中学の時? も、もしかして……レオナルド事件のこと?」


「……うん。悠は短いのより長い方が似合うと思う」



 レオナルド事件とは、中学の文化祭の前日、レオナルド役の男の子が骨折したせいで、急遽セリフを覚えていた私が代理で出ることになった事件のこと。



 劇中の役、レオナルドは人を裏切り、殺戮を楽しむ異常な男。さらに金の亡者であり、女遊びが過ぎる、責任感もない。

 つまりは悪役。


 その悪役レオナルドを、王子が剣で爽快に倒し、格好いい王子と美しい姫とが結ばれるという、どこにでもありそうな劇を私たちはする予定だった。



 ただ、どこにもないのはその配役で。


 王子役は学年で一二を争うくらいのイケメンで、性格はともかく顔が良いからと満場一致で決まった。

 役の内容としてもとにかく格好良くて、まさに憧れのヒーロー。


 姫役の方はもちろん雪雛。こちらも満場一致で決まった。

 雪雛以上に姫という言葉が似合う子なんて見たことがない。

 もともと声は大きい方ではないし、劇中のセリフは少なかったけれど、その可愛さと可憐な声は十分な存在感を放っていて。


 お客さんは、この可愛らしい姫とイケメン王子のラブロマンスに夢中になるだろう、とクラスのほぼ全員が思っていた。



 だけど。

 この劇は誰も予想だにしない終わり方をすることとなったのだ。

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