表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

はじめて見せた弱さ

 俺の腕の中には難を逃れた一ノ瀬。

 後ろで響く金属音と地鳴りを聞いて、現状を理解したのだろう。

 俺のシャツの胸元をつかみながら、ガタガタと震えていて。


 なんでこんなところに鉄骨が……?


 そう思って辺りを見回す。

 上には大きなクレーン。

 横には、防音壁。


 ここは……建設現場、か。



 ん? 建設現場だと!?

 学校での一ノ瀬の言葉が、頭の中を駆け巡っていく。 


『私に思い出をくれませんか?』

『今日、一緒に帰ろう。そしたらわかるよ』

『建設現場は危険だよねぇ』

『あそこは今一番危険なんだ。まだ死にたくないから近づきたくない』


 一ノ瀬の言葉と、今のこの状況。そして、校門前での黒沼ハヤトのイベント。

 俺は信じられないような一つの仮説にたどり着いた。



「おい、一ノ瀬。お前、この世界から命を狙われてるのか?」


 何も言わずに、こくり、と彼女は頷く。


 やはりそうだ。

 そうでなきゃ、あんなに連続して危険が襲ってくるはずがない。



「もしかして、イベントを拒絶したり、相手の好感度を下げたりすると、こうやって危険な目に遭うことがあるのか?」

 そんな馬鹿な話はあるわけがない。

 そう思いながらも、彼女に尋ねていく。


 青い顔をしたまま、彼女はまた頷いた。


「何で!? 何でお前が命狙われなきゃいけねぇんだよ。乙女ゲームの世界じゃなかったのか!?」


 ここは恋愛ゲームの世界。

 ファンタジーゲームでもホラーゲームでもない。

 命を狙われる理由がさっぱりだ。



 俺の問いに対し、しゃくりあげながら途切れ途切れな言葉で、一ノ瀬は話していった。

 言葉を続けていくごとに、彼女の恐怖が増しているのか、だんだんと体の震えが強くなっていく。


「あの……あのね、乙女ゲームのバッドエンドって、主人公がね……ひっく、死んじゃうのもあるんだよ……。事故だったり、(ころ)っ、されちゃったり。いまだって、適当に走ってたはずなのに……気づいたら建設現場に来てた。私、きっとこの世界で……死んじゃ……っ」


 死の恐怖に怯えて錯乱する一ノ瀬。

 そんな彼女は途端に言葉を止める。


 俺が、子猫のように震える一ノ瀬を、力いっぱい抱きしめたから。



 彼女のその不安と恐怖がおさまるように。

 お前は一人じゃないんだってことを伝えられるように。



 一ノ瀬。お前、この世界に来てからたった一人で恐怖と闘ってたのか?

 こんな状況に身を置いていたのに、あんなふうに笑って過ごしていたのか?

   

 


「大丈夫。もう大丈夫だから心配すんな」

 さらさらとした彼女の黒髪に自分の頬を寄せ、なだめるようにそう言った。


 俺の言葉を聞いて、腕の中でわんわんと声をあげて泣く一ノ瀬。

 強い彼女がはじめて見せた弱さ。

 孤独と死の恐怖に怯える目の前の女の子。


 一ノ瀬をぐっと抱きしめた俺は、彼女と付き合う覚悟を決めた。

 死んでしまうかもしれない一ノ瀬の思い出作り、なんて馬鹿げたことのためでは、もちろんない。



 俺は……


 決してこんなわけのわからない世界になんか屈したりしない。

 こいつを絶対に傷つけさせたり、死なせたりなんかしない。


 一ノ瀬、お前は俺が守ってみせるから。



 二人で一緒に東雲高校に、いつもの日常に帰るんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ