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第二十三話:迷宮内の迷い人

 魔王城を目の前にして、まだ通る場所があるのか……


「メロン……何かさっきから気配がしない?」


 マコにしがみつかれ、俺は歩きにくかったのだが――気配?

 気配は特にしない。っていうか真っ暗でよく見えないから、感じると思えばそうなのかもしれないが――

 明かりがついた。


「炎を出しておきますね。大丈夫ですよ、燃え移ったりはしませんから」

「ああ、ありがとうモモナ」


 炎で道順を照らすと――確かにこれは一度でも迷えば出られないであろう、

かなり複雑な迷宮が広がっていた。

 元勇者がいなかったら、ほぼ確実に俺はここで迷子になっているだろう。

 その辺は頼りになるんだよな。


「シクシクシク……」


 誰かの泣き声がする。

 ――作ったような、学芸会とかで泣く演技でもしているようなクオリティなんだが。


「そこにいるのは誰?」


 モモナが泣き声の方へ炎をかざすと――

 美しい和風の着物に身を包んだキツネが、座りながらさめざめと泣いている。

 ――しかもこのキツネ……


九尾(きゅうび)(きつね)か」


 元勇者がモモナに抱えながら分析した。

 ――確かに尻尾が数本生えているし、顔も何だか人間に近いような……


「かかりました」


 キツネが少し笑ったかのように見えた。

 ――と思った瞬間、突然キツネの姿が消え、


「にゃぁ!」


 メロの(おび)えたような声。

 あんにゃろ、メロに何しやがった!


「にゃぁ?」

「にゃぁ?」


 振り返ると――予想だにしない光景が目の前に広がった。




「にゃぁ」

「にゃぁ」


 メロが二人でお互いの身体(からだ)をペタペタと触っている。

 何? 何が起きたんだ?


「どっちかに化けたんだな」


 化けるって……さっきのキツネがか!?

 確かにキツネは人間に化けるとか言う昔話はよく聞くけど――

 キツネが猫に化けるってのは初めて聞いた――ってか見た。


「にゃぁ」

「にゃぁ」


 クソ! どっちがメロだ? 言葉遣いとかが無いからどっちがどっちだか見分けがつかない……


「にゃぁ」

「にゃ~ぁ?」

「ニャアニャア鳴くのは?」


 ……元勇者の冗談に付き合っている暇は無い。

 こんなところでモタモタしてて、伏兵とかがいたら面倒だ。

 ここは早く決着をつけたいところなんだが……


「にゃぁ」

「にゃぁぁ?」


 さっきから何かしら違和感を感じる。


「にゃぁ」

「にゃぁぁ」


 微妙な違い。

 そうだ……メロは確か「にゃぁ」か「にゃぁ?」それか「にゃぁ!」

 しか言わない――ってか言えないんじゃないか?

 イチかバチかかけてみよう。


「お前がキツネだぁぁ!」


 流石に創聖剣で斬ってから「違いました~」なんて事になったら大変なので、

 俺は思いっきり右足を振り上げてからメロ(偽物?)を蹴り飛ばした。


「グビャラボロブ!」


 気色の悪い叫び声をあげながら吹き飛んでいった。

 ビンゴ! 大当たりだ。


「ぐへぁ! よくもやりやがりましたな、旦那さん!」


 よく分からない言葉遣いをするが、とりあえずこいつを始末してやる!


悪霊退散海苔茶漬美味(ウマイゼ・コレコソイッキュウヒン)!」


 せっかくなので、さっきムーンに宿らせてもらった能力を使うことにする。

 俺に向かって飛びかかってきたキツネは、俺の手に触れた途端みるみるうちに小さくなって――


「ぁぅゃぃ……!」


 何を言っているのか聞こえないくらい小さくなった。

 ――やれやれだぜ。


「にゃぁ?」


 メロはその小さくなったキツネをノミか何かと勘違いしたのか……

 ペロリと舐め取って食べてしまった。

 メロは満足そうな表情で俺に甘えてくる。――お前を間違えるわけ無いだろ?


「にゃぁ!」


 思わずメロを抱きしめたが――抱きしめたのが悪かった。


「んぎゃぁぁぁ!」


 ボロボロこぼれ落ちる「アカ」

 俺は身体中の皮が剥がれる痛みを感じ、しばらく大声で叫び続ける事になってしまった。





 モモナに治してもらい、なんとか痛みは無くなったが――こんなに愛くるし

い娘を抱っこできないっていうのは、いささか心にくるものがある。


「はぁ……どうしよう」

「どうしようはお前だぞ」


 元勇者に言われ、辺りを見渡すと明かりはおろか、三姉妹を含む勇者パーティの人間が誰一人として姿が見えなかった。


「もしかして……俺迷子?」

「俺と一緒にいるんだから、迷子は向こうだろ」


 そうだ! マコたち……どうしよう!


「心配するな、向こうにはモモナがいる。それに俺はモモナに充電された時に一応GPSみたいな物をつけておいてもらった。

 だからモモナは俺の居場所が分かるから問題無い」


 それは良かったが……こう暗くては何もできやしない。

 ここで鋭利な剣なんかを持った騎士や、暗殺者なんかがいたら俺は抵抗することもできず殺されてしまう。



 元勇者と二人きりで迷宮内を歩いていると、何やら少し明るい部分がボヤ~っと見えた。


「おいルームランナー、迷宮回廊内にも明かりはがあるのか?」


 元勇者(ルームランナー)は首を振り、


「んな物あるわけ無いだろ、あったとしたら敵か何かが持ってる松明(たいまつ)くらいだろうぜ」

「じゃあ……あれは」


 ボヤ~っと光る何かは少しずつ俺たちに近づいてきた。


「敵か!?」

「ちくしょう! モモナもいないっていうのに……」


 俺は壁に隠れ、不意打ちを決行することにした。

 ――ちょい卑怯(ひきょう)だが、ここで一発創聖剣で切り裂いて、こいつの持っている

松明を盗った方が先へと進みやすいだろう。


人魂(ひとだま)じゃ無ければな」


 元勇者の冗談は聞き流し――俺は向かってきたそいつに斬りかざした。


売家(うりや)ぁ!」

「きゃぁ!?」


 俺の攻撃をスルリと避け、そいつはドシンと尻餅(しりもち)を着いた。


「痛っ……! まさか、あなたが敵なの!?」


 オレンジ色に近い茶髪をポニテにした、少し気の強そうな女の子。

 服装は水色のパーカー生地の服に、ジーパン生地の短いズボンを穿いている。

 ――ついでに言うと縦筋なおへそが顔を覗かせていて、キュートアンドセク

シーだった。

 手にはランプと日本刀のような剣を持っている。


「俺は勇者メロン! お前の名は何だ!」

「んぇぇ? 勇者? メロン……?」


 女の子の頭の上にハテナマークが大量に現れた。

 ――何か話が通じないな……


「わっ……! 私は勇者ルリ! 月詠(ツクヨミ)(カタナ)の使い手よ!」

「勇者だと!?」


 元勇者が飛び出し、ルリとかいう女の子をじっくり(なが)めていた。


「可愛いなお前」

「ふへ? あ……ありがとうございます」


 俺は元勇者を殴った。

 何初対面で口説きまがいの事をしてやがるんだ。この女好きめ。


「あの、あなたは本当に勇者なのですか?」

「ああ、俺は勇者として――今はいないが三人の妹を連れてここまでやってき

た」


 ルリは俺を上から下までじっくり眺め、右手に持っていた剣を背中に差した。


「私も勇者なんです。前世でちょっとした事でいじめられて……学校の屋上から飛び降りたら、死後の世界の番人とか言う人に『異世界で勇者をやらないか?』と勧められまして」


 へぇ~。女の子でもそういうのに(あこが)れるんだ。


「逆ハー作って執事さんだらけのパーティを作ろうと思って来たのに……させられたのは女の子の子守(こもり)でしょう? 私落胆しちゃって……」


 オタクなのかな、この()


「でも良かった。私もうここで何日も迷っていたんです」

「は?」


 ルリは照れくさそうに、身体の前で人差し指同士をグリグリさせ、


「えっと。私凄い方向音痴で……鬼さんと戦った後、ウロウロしてたらここに入り込みまして――それからずっとこの中をさまよっていたんです」

「鬼の次に迷宮とか、お前どんだけショートカットしてるんだよ」


 元勇者が起き上がりルリをもう一度じっくりと見た。


「可愛らしいおへそですね」


 俺はルームランナーにかかと落としを食らわせた。

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