第二十二話:ケンポーの構え
「ちょっとメロン! 何反復横とびやってるのよ!」
仕方ないだろ。
触れられた瞬間、俺はその辺の木にでも激突させられて即死するんだぞ。
ここは慎重に、慎重にだな……
「ほらほら~手で触れちゃえば良いんだぜ~
パラドックスは手を突き出したり引っ込めたりと、俺を挑発し始めた。
俺も負けじと剣先をパラドックスの方に向け、
突っついたり引っ込めたり――
「メロン! 何フェンシングしてんのよ!」
ツッコミしてるヒマがあるなら、ちょっとは黙ってろ!
俺は狩るか狩られるかの大勝負をしているんだぞ。お前らの妹がこれ以上増えないようにするために。
「アチョー!」
パラドックスが妙な構えをした。
「ああ! あれは『ケンポー』の構え! なのですっ」
モモナの声が響いた。
あれが? ケンポーの構えだって?
妙にウザイポーズだなぁ……
「アチョォォ!?」
疑問系の混じった妙な掛け声とともに、白目を向いて仰け反ったパラドックスがゴリラのモノマネをしながら飛びかかってくる。
――俺はそれを華麗に避け、創聖剣ウォーター・メロンで地面をぶっ叩いた。
砂煙がたち、小さな砂が白目を向いたパラドックスの目に入り――
「んぎゃぁぁぁ?」
その瞬間。俺の創聖剣ウォーター・メロンはパラドックスを串刺しにして―
―パラドックスはこの世から消え去った。
いやー……実にバカバカしい戦いだった。
「この先は迷宮回廊となっております。みなさん、迷わないように気をつけて
くださいね?」
元勇者の道案内により、俺たちは最短距離で魔王城に近づいているらしい。
「迷ったらどうなるんだ?」
「多分一生出られませんね。俺はもう一人の妹の能力で、未来予知のような物を持っていたから魔王以外のやつともほとんど出会わずにダンジョンを抜けることができたが」
元勇者が強かった理由が分かった。
「未来予知」に「完全記憶」とか……もう一つ戦う能力を持っていれば最強じゃ
ないか。
「残念だが、未来予知の能力は魔王に消された。――簡単に言うと、その能力
を付加してくれたマミという妹は――」
「それ以上言うな」
「マミったのだ」
「言うなって言っただろ! しかも簡略しすぎだ」
元勇者の話からすると、記憶の能力を持った妹は生きているのか……
だが察するに、魔王に抱え込まれて毎晩よからぬ事でもされてるんじゃ……
「おい! あまりボーっとしてると危ないぞ、門番のゴーレムとは絶対に戦わないといけないからな」
ゴーレムだって? 迷宮回廊にそんな物がいるのか。
戦いたくねぇなぁ……かったるいぜ。
「もう目の前にいるぞ」
俺が岩石の大きな壁だと思った物は――丁度今話題に上がっていたゴーレム
そのものだった。
「でかっ!」
迷宮回廊の入口が見えないくらい、そいつはでかかった。
今までのちっぽけな敵とは違い、壮大なスケールとともに出現したそいつはまさに「偉大」という言葉が的確なものだった。
どうやって倒すか――と考えていると、モモナが真っ先に飛び出し、
「こんなやつ! 私の魔術的な何かで……」
モモナはステッキをゴーレムに向けて、
「えーい!」
可愛らしい声とともに――
「ポワッ……」
小さなシャボン玉が一つだけ飛び出し、すぐに割れた。
「肝心な時に役に立たねー!」
「ふええええええ!?」
「グォォォォ」
地面を揺るがすようなゴーレムの声とともに、ゆっくりと俺たちに近づいてくる。
こんなやつどうやって倒すんだよ! 岩は剣では斬れないぞ!
「おい、元勇者! こいつをどうやって……」
「いかん……電池切れだ。魔女っ娘にあとで充電を頼んでく――」
元勇者はパタリと倒れ動かなくなった。何でこんな大事な時に二人も使えなくなるんだよ!
「奴隷! ここは私の能力を与える時だわ」
ムーンが俺に飛びかかり、俺は地面に向かって押し倒された。
「えっと……ムーン? んむぐっ!?」
「んんっ……! んー、んんー! んんん!? んんんーっ!」
ムーンはキスをすると同時に舌を口の奥まで突っ込み、吸い付くような吸引力の変わらないただ一つの――とか言ってる場合じゃ無い!
口中をベトベトにされ、歯も一本一本丁寧に舐め取られる。
頬の内側はもうムーンの風味でいっぱいになり、呼吸もできない状態を数分の間続けられた。
――ゴーレムはゆっくりと俺らに近づいてきてはいるが、動きが遅いからか
まだ到達していない。
いや……それにしてもバカに遅くないか?
「ぷはぁ……ぬめぇ~……」
ぬめっとした舌がねっとりと抜き取られ、べっとりした唾液の糸がムーンと俺とを繋いだ。
ムーンは腕で口を拭い、真っ赤に紅潮したその顔は何かをやり遂げた! と満足げな顔に見えるが、俺は驚きと妙な感覚で少し気分が悪くなってきた。
「奴隷! はぁ……はぁ……私の能力を使って、ここから先は一気に突破しちゃ
いなさい!」
分かった……分かったが、ちょっと休憩させてくれ……
息を整え、ムーン風味の幼女特有の甘い吐息が口から漏れ、やっと落ち着いてきた。
下手すると女性恐怖症――いや幼女恐怖症になりそうな体験だった。
「わぁ……わわわ」
モモナは顔を赤らめ頬を包んでいる。
――いや別にそんなラブロマンス的な良いシーンでは無いのだよ?
「ところでムーン! お前の能力はいったい……?」
「奴隷と呼ばれる事に快感を――」
「それはもう良いから!」
ムーンは小悪魔な目つきで俺をチラリと見ながら、
「悪魔との契約こと悪霊退散海苔茶漬美味」
良く分からないが……
「触れた物のサイズを大きくしたり小さくしたりできる能力よ、ちなみにさっきのゴーレムは私が触って縮めておいたから」
ゴーレムの方を見ると、そこには三姉妹より小さくなったゴーレムがチョコチョコと歩いていた。
――なるほど、ムーン自身は物を小さくすることしかできない。
それで俺はキスの契約により大きくすることも可能になったのか。
「とりあえず進むか」
行く手を阻むゴーレムもいなくなったので、モモナに元勇者の充電を頼み三姉妹とメロを連れて迷宮回廊へと進むことにした。




