最終話:明日に向かって
ドリームチャンピオンシリーズの興奮と熱狂の渦が静まり、東京に穏やかな日常が戻りつつあった数日後。
東京・神田にある銭形家の実家には、世界一の栄冠を勝ち取った主人公・銭形豹馬と、従妹の猿飛英恵の凱旋を祝うべく、温かい笑顔と賑やかな声があふれていた。
「よくやったな、豹馬! はなちゃんも、本当によく頑張った!」
実家のリビングで、兄・龍馬が満面の笑みを浮かべながら2人の肩を豪快に叩く。母・恵子や祖父母たちも、嬉し涙を浮かべながら孫たちの快挙を心から讃えていた。
さらに、その場には駆けつけていた猿飛夫妻――父・佐吉郎と母・恭子の姿もあり、「自慢の娘と甥っ子だわ!」と両家一丸となって喜びを分かち合っている。
そこに、さらに大きなサプライズが訪れた。
玄関の引き戸が開き、静かに姿を現したのは、豹馬と英恵が所属する埼玉ジャガースの監督・西方文哉だった。
「監督……っ! なぜここに!?」
驚きで目を見張る豹馬に、西方監督はいつもの渋い笑みを浮かべてゆっくりと歩み寄る。
「世界一の立役者に、直接お疲れ様を言いたくなってな。それに……君たちの本当の戦いは、ここからだ」
西方監督のその言葉に、豹馬と英恵の表情がピリッと引き締まる。
「世界一になったからといって、ペナントレースで手加減してもらえるわけじゃないぞ。ジャガースの主軸として、そしてエースとして、ファンが求めているのはさらなる高みだ。頼むぞ、豹馬、英恵」
「はいっ!」
「お任せください、監督!」
2人の力強い返事に、西方監督は深く頷き、温かいまなざしを向けた。かつて二軍監督時代に豹馬の才能を見出し、サイドスローへの転向を勧めた恩師からの言葉は、何よりも心強いエールとなって2人の胸に深く刻まれた。
◇ ◇ ◇
数日後。
日本プロ野球のペナントレース開幕を間近に控え、各地のグラウンドには再び選手たちの気合いの入った掛け声が響き渡っていた。
大阪の地では、世界一を勝ち取った達摩厳・豪の浪花兄弟が、さらなる高みを目指して凄まじいスイングを繰り返している。
「世界一の栄冠は掴んだが、これで満足するわけにはいかんからな!」
「兄貴、今年は俺がペナントでも全部持ってくからな!」
互いに闘志をむき出しにしながら、バットを振り込む巨漢たちの瞳には、すでに新たなシーズンの頂点が捉えられていた。
仙台では、伊達鷲一郎が冷たい風を切り裂きながら、誰よりもストイックにバットコントロールと走塁の確認を続けていた。
(銭形……次は、敵としてお前の前に立ちはだかる。そのときは、必ずお前を打ち崩してみせるさ)
そして、福岡の地――ディスクバンクホークスの練習拠点では、世界一を目前で逃したアポロとダイアナの兄妹が、悔しさを押し殺すように激しい特訓に励んでいた。
「くそっ……あと一歩のところで世界一を逃してしまったな、ダイアナ! あの銭形豹馬め……!」
アポロ・ムーンストーンが悔しさを噛み締めながら、特大のアーチをライトスタンドへ叩き込む。その隣で、ダイアナ・ムーンストーンは鋭く青い瞳を光らせ、力強くうなずいた。
「ええ、本当に悔しいわ……。でも、これで終わりじゃないわよ、アポロ。ペナントレースで必ずあの借りを返すわ。次に対戦するときは、あの魔球で完全にねじ伏せてみせるんだから!」
世界一の夢破れた悔しさを糧に、双子の兄妹は日本球界での雪辱を固く誓い合うのだった。
東京・神田の空の下。
すべての経験を胸に刻み、新たな誇りを背負った豹馬と英恵は、チームメイトたちが待つグラウンドへと走り出す。
振り返ることはない。
令和の荒武者たちは、それぞれの夢と栄光を胸に、果てしなく続く明日に向かって――今、力強く駆け抜けていく!
(完)




