タイトル未定2026/05/11 02:56
幻聴だろうか、にしても不謹慎な内容の歌声が何処からともなく聞こえてきた、辺りを見渡すとネットの焼け落ちた支柱の間から3人が校内へ入ってきた避難民だろうか、であればここは危険だいつ又ここで火災旋風が発生するかもしれない私は少女を抱えて3人に向かった。
「危ないっ!」
突然その中の1人が私に向かって叫んだ、同時にHMDSに異常高温アラートが後方での発生を教えた“2300℃”あり得ない温度表示にセンサー異常を疑った瞬間だった数十m先にいたはずの人物が目の前に現れ言った。
「伏せてお姉さん」
気の所為だろう、きっと気の所為に違いない男はウインクをしていた、あまりの情報量の多さに反応できないでいると男は私を引いた、無理だアーマー装着で200Kg近くはあるのだぞ、そう思った瞬間、視界にはその男の背中がみるみる離れてゆく映像が飛び込んできた咄嗟に少女を守る為身体を捻り背中から粘つく校庭に落ちた、上半身を起こし飛んできた方向を見ると男は何処に持っていたのか刀を右手に携えていた火事場で殺陣の稽古もあるまい、それよりもあれはなんだろうか男の前には陽炎かガスか空間が澱み漂っていた。
「大丈夫ですか」
私は背後から声を掛けられた、それはこちらの台詞であったが一応礼を述べた、残る2人は熊と見紛うばかりの巨躯の男ともう1人は消防士だろうか銀色の防火服を着ていた、だが現在の消防士はアラミド繊維製で男が着るのは旧式、刀に熊に消防士コスプレ、なんなんだこの3人は休日の秋葉なら納得もできるがここは火事場だぞと私は消防服の男を掴み問いただそうとすると巨躯の男が言った。
「おい薫、こいつ前にピーピー泣いてたヤツちゃうかぁ?そういやお前もピーピー泣いてたな」
「かっ薫?」
私は聞き覚えのある響きに消防服のヘルメットを剥ぎ取るとバイタル表示が異常な上昇を示した。
「あっ、あぁぁ兄貴っ」
右手に持つヘルメットがビチャと音を立てて校庭に落ちた、この男は紛れもなく実兄、兄の薫であった続く言葉が詰まり何も出てこないでいると兄は首を傾げ言った。
「えっえっえっ、誰?誰?」
私はヘルメットを取ると兄に顔を見せた。
「晶、何してんだこんな所で危ないだろ」
もう少し死ぬ程驚けよであったがいつまで経っても兄にとって私は小さく弱虫な妹なのだ、多分次に言うことも決まっている。
「ほらヘルメット被れよ、顔が汚れるぞ」
そうなのだ兄は利他的、妹の私には特にであるハタチは遠に過ぎていると言うのに早く自分もその時代遅れの防火ヘルメットを被りなさいよと言いたくなる、すると兄は無言で私の背後に立ち何かから私を庇う様な態勢を取り刀を持つ男に言った。
「裕二さん、殺しちゃダメですからね」
「薫さぁーん、僕そんなに器用じゃないですって」
「ガンさんよりマシでしょ!」
こいつらはさっきから何を言ってるのだ何を殺すと言うのだ、この場には私と3人以外、この少女、そこまで考えて我が目を疑った、陽炎に見えていた部分が青白く、コンロのガス炎と見紛う火の玉が現れた。
「こいつビビってんで青なりよった、はっははは」
男が刀を斬り上げそして斬り下ろした、炎に対して刀を振っても意味がない、しかしサクサクと青い炎はキャンパスから切り取られ下に落ちると黒い煤になり舞い上がった、理解の範疇が軽く私を飛び越えていった。
「気ぃつけや又、逃げんで」
巨躯の男がそう言うと私を守る兄の腕に力が更に込められた、するとみるみる炎が小さく薄くそして透き通ってゆく。
「逃がさへんでぇー」
ドンっと音を立てて巨躯の男が駆け出す、ゴムチップが何のクッションも成さず下地のアスファルトが割れた、巨躯の男はおもむろに消えゆく炎を鷲掴みにしたのだ、ピーピーと何処からか小鳥の囀りが聞こえてきた。




