本領発揮と、嫉妬による事件と
翌朝起きて、朝ご飯を食べて、チェスカと一緒に登校して、職員室に駆け込んで書類を提出して。
必要事項はきちんと埋まっているから、恐らく二日後には書類は受理されるだろう、と先生から言われ、レイラは嬉しくてチェスカと笑いあった。
「良かったぁ……」
「お泊まり会はすぐ終わっちゃうのね……悲しいわ」
「でも、私は卒業してもチェスカと遊ぶ気満々なんだけど」
「……っ、レイラぁ~」
えーん大好き!と叫んで抱きついてくるチェスカに、歩きづらいよ、と少しだけ文句を言いながらも、レイラの目はどこまでも優しい。
正直なところ、邪魔をする人がいないだけで、こんなにも気が楽なんだ、と何度思っても思い足りないくらいだ。
「いつものことながら、二人とも仲良しさんだね」
「ふっふーん、リッドがこーんなことしたら、クラスの皆にめっちゃ怒られるのは間違いないもんねー」
「いやそれはそうなんだけど」
「リッド、おはよう。実はね、昨日家を出て……」
「はい!?」
「詳しくはランチの時にでも話してあげるわね。はい、教室行くわよ~」
レイラに抱きついたまま、器用にバランスを取りつつ歩くチェスカ。それを微笑ましそうに見ているリッド。レイラは『重たいよ』と笑いながらチェスカを引き剥がすこともなく、そのまま歩いている。
これが、いつもの光景。
そして、クラスに入れば『仲良しトリオの登場だー』と笑いながら言われる。
その通りよ! と胸を張るチェスカもいつも通りだし、レイラだって楽しそうに笑っている。
唯一、このクラスではレイラは『レイラ』としていられる、とても大切な場所。
「……そっか、レイラはあの家をようやく出たのか」
ぽつりと呟くリッドの目に、ほんの少しだけ含まれている熱に、誰も気付かないままその日の授業が開始されたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
実習着に着替え、皆が演習場に集まっている。
レイラも動きやすいようにと髪をひとつに束ね、実習着をきちんと着用してからチェスカと並んで立っていた。
「珍しい、今日って合同なの?」
「……え?」
「ほら、あそこ。他のクラスじゃない」
レイラが視線を動かしてみれば、レイラたちのクラスだけではなく、リベリアのいるクラスの人たちも集合していた。
演習場はかなり広く、魔力コントロールの練習を行うにはちょうどいい場所だから、時折授業が被ってしまうこともある。
その時は、前もってお知らせされるものではあるが、今日に限ってはそうではなかったらしい。
「……ってレイラ、あそこ見て!」
「あら……リベリア?」
「今日、体調良いのかしらね。あの似非病弱女ってば……この授業できるの?」
「……」
そういえば、リベリアはこの授業は苦手だった、と話していたような気がするが……と思っていたレイラだが、緩く首を横に振った。
「参加せずにいつもみたいに、休んでるんじゃない?」
「ああ、そっか」
「授業自体は休んだけど、参加はした、っていう実績作りじゃないかしら」
「休んでるんだから、どうせ同じなのに……」
「リベリアだもの」
どうせ、実技自体を休んで授業だけは見学をする、そうすることで諸々を回避して、授業には出た、という実績を作りたいのだろう。レイラはそう判断した。
何を考えているのか、だなんて詳しく考えなくても分かる。だって、彼女はずっとそうしてきたのだから。
随分と冷たい、と思われるかもしれないが、自分がうっかりしていてテストで良い点数を取れなかったからと、こちらによく分からない罪を着せようとする馬鹿になど、構っていたくはなかったのだ。
「チェスカ、私たちはあっちに整列しましょう」
「そうね~」
言いながら二人は先生に言われているように整列をする。
リベリアのクラスも整列をして、担当の先生から今日の授業の注意事項が皆に伝達されていく。
「ごめんなさいね、急遽、今日は合同授業とします」
本来ならば、翌週の授業内容の伝達の際に、合同かそうでないか、を伝えてくれるのが常ではある。
だが、今回はうっかり忘れてしまっていたらしい。生徒たちからは『先生しっかりー』とか、『先生でもそんなことあるの?』と笑い声が聞こえてくる。特に険悪な雰囲気はなかった。
そんな中、こほん、と教師は咳払いをしてから言葉を続けていく。
「……こほん。良いですか、今日の授業では一人ずつ魔力のコントロールについて実技試験を行います。前回の授業でお伝えしていたとおりですね。さて……ああ、ちょうどいい。レイラ・ヴェルティ。見本としてこちらに」
「はい」
頑張ってね! とクラスの仲間に激励されつつ、レイラは先生に言われるがまま前に出た。
実技試験とか聞いてないー、と叫ぶ生徒たちのブーイングを教師は聞かなかったことにして、笑いながらレイラを招いた。
――だが、リベリアにとってはこれが面白くもなんともないことだ。何なら不機嫌になってきている。
今回に限り、何の気まぐれを起こしたのかは不明であるものの、リベリア自身の体調が良かったこともあって授業に参加しようと決めたのだ。
勿論、実技試験がどうとか、は今回聞かされたばかりだし、実技が不得意なので、リベリアはとてつもなく顔色を悪くしている。
うまいこと誤魔化しつつ授業に参加して、辛くなったらいつものように見学してやろうと思っていたのに! と憤慨している。
「(ああもう……普段からレイラがちゃんと魔力コントロールの練習に付き合って、細かく教えてくれていたら今みたいに焦ることなんてないのに!)」
内心呟きながら、リベリアはぎり、と爪を噛んだ。
どこまでいっても他責志向……もとい『何もかもレイラが悪い』のだから、自分は何も悪くないと思っているのだから、何とも質が悪い。
「ねぇ……あの子ってリベリアさんの双子の……」
「そうよ、今回とっても試験の成績が良かったのよね!」
「あの子って、この授業得意なのかしら?」
「先生にご指名されるくらいなんだし、得意なんじゃない?」
ざわざわとしている他のクラスの面々は、レイラの魔力コントロールや魔法の手腕を、実際に目にしたことはない。
こうして他のクラスも含めた色々な人たちの前で魔法を披露することはなかったが、ちょうどいい機会だ、とレイラは少しだけ微笑んだ。
「レイラ・ヴェルティ。火属性、水属性の順番で何か魔法を使ってみてください。最後にはその二つの魔法をぶつけて、魔法を消滅させなさい。周囲に危険が及ばないようにすることをお忘れなく、そうですね……火属性と水属性だから、爆発……とまではいかず、綺麗に蒸発させて魔法を消滅させるところまで、ですよ?」
「あ、はい。分かりました」
笑って頷いているが、生徒たちはざわめいている。
二属性同時に魔法を使い、普通に消すだけでなく二つをぶつけて相殺して綺麗に消してくれ、という教師の要望にも怯んでなどいないレイラを見て、『どうなるんだろう』と好機の目を向け始めた。
「(フン、どうせレイラの魔法なんて大したことないに決まってるわ)」
レイラが自分と同じように魔法が苦手なんだ、と決め付けているリベリアは、欠伸をしながらどうなることやら、とつまらなさそうに視線をやる。
一方、レイラはそんなリベリアのことを気にかけることもなく、意識を集中させていく。
先生の言う通り、レイラはまず火属性の魔法を構築していった。
この場が熱くなりすぎないよう、皆に迷惑がかからないように。
炎が上に登っていくように調整をし、右手に出現させた。そして左手には水属性の魔法を出現させていく。
こぽこぽ、という音を立てながら水の球がくるくると回りながら、少しずつ大きくなっていく。
「(ああ、楽しい。この、魔法を構築していく、っていう作業……本当に面白い!)」
大きくなった水の球をくるくると回転させていたかと思えば、ホースから出ていくような細い水流にしていった。
先生に言われた通りの魔法を、左右の手の上にそれぞれ構築した、かと思えば指示されている通りに二つの魔法を展開していく。
そして、魔力を丁寧に流し、二つの魔法をくるくると、紐をねじるかのように回転させつつ絡み合わせていったかと思えば、きつく巻き付くような形にして、あっという間にじゅわ、と大きな音をたてて水蒸気になって、レイラの構築した魔法が消えていった。
「わぁ……!」
「すごい!」
「何だか、映像魔法を見ているようだったわね!」
「リベリア、貴女の姉妹すごいじゃないの!! ……リベリア?」
「そう、ね」
あの人が、こんなにも魔法を使うことが上手だなんて、知らなかった。
あっという間に丁寧に魔法を構築して、発動させ、そうして周りに被害がいかないように配慮をしつつ、綺麗に魔法を終了できてしまうのだろうか。
「……レイラのくせに……!」
悔しい、と思ったところでリベリアはここまでの魔法の操作はできない。
せいぜい、ちょっと火を出現させたり、水たまりを作れる程度の水を出したりする程度でしかなく、あんなにも丁寧で綺麗な魔力操作ができないのだ。
「……ねぇ……レイラさんって……今まで、リベリアさんの手伝いばっかりしてたから、実力が出せなかったんじゃないかしらね?」
「ああ、だって……テストの結果の前でレイラさんに突っかかってた、とかも聞いたわよ」
「うわぁ……最低」
クスクスと笑いながら、リベリアの高すぎるプライドを刺激するかのような生徒たちの発言が聞こえた、かと思った瞬間。
「ふざけないで!!」
いつもならば、こほこほと咳をしているリベリアが、実技で輝かんばかりに活躍をして喝さいを浴びているレイラに苛ついていたこともあり、その女子生徒に襲い掛かったのだ。
それはまるで、何か獣のようだった、と生徒たちが証言するほどに衝撃だった、らしい――。




