君と、結婚しよう…そう思っていた
『へ?お前らまだ、付き合ってねぇの?』
19歳になったイーゴリのヴェーラを想う気持ちは募るばかりの日々…
あるとき、人生経験が少しばかり上の三人の騎士にイーゴリはそうからかわれた。
きっかけは、ヴェーラが学校の帰りに第七騎士団に用事で訪ねて来た時の様子だった。
家族同然でつい最近まで同居していたイーゴリとヴェーラの雰囲気に、直ぐに三人は反応したのである。
以前は兄妹のようだった2人の距離。
しかし、イーゴリが成人したあの日から…
二人の空間は確かにすこし、変わった。
異性としての期待や、隠しきれない甘い雰囲気が流れているのである。
『つ…付き合ってません』
ヴェーラは頬を赤くし、イーゴリをちらりと上目遣いで見てからすぐに否定した。
ヒューヒュー!と冷やかしの声にイーゴリも反論した。
『やめろ…!そんなんじゃねぇよ!』
『わかりやすいなぁ?』
『そんなんじゃねぇよ!だってさ』
『何がそんなんじゃねぇんだ?遠慮せずに、そこの裏でブチュっとかませよ』
三騎士にからかわれた午後。
自宅で皿洗い中のイーゴリ。
(あの三人…!!!俺のこと暇つぶしの玩具にしてねぇか!?)
※確かにおもちゃです。
その日の夕食もヴェーラの家で食べたイーゴリ。 真っ赤な顔で、皿洗いを終えて皿をふきんで拭いていた。
「終わったぞ」
「ありがとう、イーゴリ。グラタン皿、上の戸棚に入れてくれる?」
「おう」
当たり前のように戸棚を開けて、閉まっていると…
ツンツン
「!?」
腰のあたりを指で突かれ、イーゴリはビクッと体を跳ねさせてイタズラをしたヴェーラを見た。
「ふふふ。仕返しできた」
「な…なにしてんだ!?」
「だって、昔よくツンツンされたから」
まだ子供の頃の話だ。
当時は11歳のヴェーラに、イーゴリはよくイタズラで家事をして無防備な背中をつついてからかっていた。
顔を赤らめて逃げたり、くずったそうに甘い声を上げるヴェーラを見ると面白かったのをおぼえている。
だが、今はそんなことはしない。
いや、できない。
(…っ、思い出したらヤバいな。あんな声出されたら…)
赤くなり黙るイーゴリに対して、いたずらを4年越しに返せたヴェーラは満足げだ。
「腰とか背中弱いんだ?イーゴリ」
「やめろって…」
ニマニマしてさらに追い打ちをかけられ、たまらず避けた。
しかし、触られて嫌な気はしない。
わざと触らせていると、ヴェーラの細い指がさらにツンツンと背中をつつき、脇腹を「えい!」とくすぐってきた。
「……!」
ほぼ抱きついてくるような距離感に、イーゴリは赤面したままビクリと身体が跳ねた。
(……っ!我慢にも限界ってもんが…っ)
「ほほう…?どうやら、仕返しは倍でされたいらしいな…!?」
「え…?え…?」
「来い!!めちゃくちゃ笑わせてやる!!」
「やーーーーー!?」
わざと追いかけ、イーゴリはにげるヴェーラの腰や脇腹あたりを指でくすぐりだした。
居間に逃げ、ソファーのクッションで防御するヴェーラだったが、容赦のない攻撃にそのままやられた。
楽しそうに笑顔でじゃれつかれた。
「ひゃう…!も、だめぇ…!」
最後に腰あたりを指で触られ、ヴェーラはちょっとだけ甘い声を出してソファーにそのまま倒れ込んだ。
息も絶え絶えになっていると「参ったか!!」と、イーゴリがそのまま上に乗って押さえ込んでくる。
「あ…」
不意に押し倒されていることが恥ずかしくなり、上から手を握ってきたイーゴリと目が合った。
イーゴリの顔は真っ赤で、肩で息をしながらちょっと体重をかけて押さえてくる。
「…っ可愛すぎ」
降りてきた声は低く、何かを必死に堪えている。
「…可愛い…?本当…?」
嬉しくなりつい聞き返すと、イーゴリは見つめながら「…うん」と素直に言う。
「もう意地悪しないの…?」
「…!!」
ヴェーラがまた不意打ちにツンっとイーゴリの鎖骨辺りを指で突いた。
心臓が飛び出そうなほど脈打ち、ビクッと反応した。 少し色っぽいイーゴリに、ヴェーラは伝染した様に真っ赤に顔を染めた。
「やめろ…っ我慢できなくなる」
「え…あ…!?」
言われながら、首すじあたりに口を当ててきたイーゴリが低い声でうめいた。
ぞくぞくするほどのくすぐったさにやられ、イーゴリが耳元で「ここ?」とわざと言った。
恥ずかしいが嫌ではなく、うるさいくらいの心臓の音と脈打つ身体のせいで動けなくなった。
「イーゴリ…や…」
「…ヴェーラ」
言葉にしなくても、分かった。
二人は、これからも離れず側にいて…共に人生を生きていく運命の相手だと、重ねた掌の熱さに疑いがない。
(ヴェーラが…18になったら…)
イーゴリは、彼女を腕にすっぽりと抱きしめながら、はっきりと思った。
生涯のパートナーとして、彼女と結婚しよう。
家族を失った自分に、居場所を与えてくれたのは父親のボリスで…
女神の護符に誓ったように、この国を護る騎士となった。
ヴェーラを愛して、生涯を共にしたい。
ポリスに伝えて許可を得ようと、迷いなく決めた。
祝福されると…
そう思っていた。
馬鹿素直な、希望ばかりに満ちた自分。
そんなものは、簡単に壊れるのだ。
だから、あの女神の伝説のように血がながれたのだから。




