神との対話 参
「はじめまして転生者殿」
クスリと笑みをこぼしながら、仰々しく頭を下げる神、ヘスティア。
身につけた法衣の裾をつまんで貴族のような会釈もしてみせるが、見た目が10代の少女にしか見えないので、その仕草がちぐはぐでなんとも落ち着かない。
しかも、当の本人に自覚が無いようで、恥ずかしげもなくするものだから、こう、何というかむず痒くなってくる。
「フッ…ボクの神々しさと美貌に声も出ないようだね…今からでも謝ればさっきまでの無礼を許してあげなくも…って痛い!」
思わずグーで殴ってしまった。
「痛いよ!いきなり、グーで殴る⁉︎図星だったんじゃ…って痛い痛い無言で殴らないで!ゴメンなさい!ちょっと調子乗りました!ゴメンなさい!」
あまりに的外れなことを言われると、思考が止まるんだと学べたな。
しかし…
「これはどういうことだ?」
「何がだい?」
素っ頓狂にヘスティアが答える。
疑問があるのは俺様の姿。
念話が面倒だと言った俺様にヘスティアが与えたもの、新しい肉体だったが
「お気に召さなかったかい?キミの深層意識で一番ハッキリとした姿を選んだんだけど」
さらっととんでもないことを言う。
人の深層意識、記憶の奥の奥にあるイメージを探り、抜き取り、具現化する。
腐っても神の端くれといったところか、流石の離れ業であるな。
しかし、この姿は…
「中々に可愛らしい感じに仕上がってると思うけど」
「やかましい」
ヘスティアの用意した姿、幼少期の俺様の姿。まだ魔王を名乗る前の姿である。
往年の俺様とは違い、背は低く、体格も華奢。肌も青白く弱々しく見える。
年は12、3歳ぐらいの時か?
そうであればかなり中性的顔立ちであったなぁ、ヘスティアのいうことも理解できる。
生前と名残のあるのは、深緑の髪ぐらいか
しかし、深層意識の一番ハッキリしている箇所か…忘れたと思っていた。
魔王として縦横無尽に駆け巡った時ではなく、この時の記憶の方が強く残るとは…何という皮肉だろうな。
「それで。貴様の言う代理戦とやら。概要を言え」
「と、唐突だね…まぁいいや。話聞いてくれるんなら……んんっっ。それじゃあ聞いてもらえるかな、神々の遊戯について」
別にヘスティアの話や、名も知らん神々の諍いに興味があったわけではない。
せっかく新しい身体を貰ったのだ、最後の晩餐でもと思っただけ。ただの暇つぶしだ…
「ボクらの世界には数多くの神々が存在しているんだ。それこそピンからキリまでね」
つまり、いわゆる多神教の世界か、八百万の神々とかいったかな。
「でも、どんな集まりにも頭は必要だろ。だから、凡そ100年に一度、選ばれた10神が競って次代の主神を決める総当たり戦をおこなうのさ」
キラキラした目で話すヘスティア。
しかしまぁ、よくある話だ。
「だが、神々が表立って戦争なんかしたら統治すべき世界に影響が起こる。それで、人間を自身の代理として争わせ、自分が主神になった暁には代理の人間には望む褒美を与える、こんな所かな?」
スゴイとヘスティアが叫んだ。
本当によくある話だ、チープな英雄冒険譚によく使われる。
だからこそ、人間には効果があるのだろうな。
「で?」
「で?って?」
「他にも条件があるのだろう?神々の遊戯やら、選ばれる人間は何人だ?転生者ばかりが選ばれるのか?能力の値は生前のままか?転生は赤子からのスタートか?言葉は?文化は?宗教?開発程度は?流通は?魔術の有無は?それから…」
俺様の質問に目を白黒させてマトモに答えないヘスティア。まったく、この程度は基本だろう。裸一貫異世界に飛ばされて、参加するしないにしても説明か情報がないとな。
「えぇっと…参加するのは1神につき3人の代理を立てられるんだ」
おずおずとした様子で答えるヘスティア。つまり、最大30人の転生者がいるということか…
「代理人は転生者だけで、ボク達の加護を受けられるんだ。基礎能力は転生前の10分の1で、転生の年齢は自由に選べるけれど、大体は若い年代を選ぶ人が多いね。言葉は単一の共通言語があるけど、地方によって異なることもあるから一概に言えないし、文化・宗教・開発程度も地方によってマチマチだよ。流通は竜種による運搬技術だったかな?それらを筆頭に物流以外も発達しているけど、機械文化の普及は一部のみだよ。えっと…こんな感じだよ」
フッと空間に映像が映し出される。
転生後の風景や首都とされる街並みやそこで生活する人々であろうか。
海辺の町であろうか、大きな港に大小様々な船が停泊し、街中は石畳が敷き詰められ、木造・石造りの家屋、活気ある商店が立ち並び、街中には人間・ドワーフやエルフといった亜人種の姿も見える。行きかう人々の中に商人や職人風の者もいれば、物々しい鎧を着飾った騎士風の者、革を繋いだ軽鎧姿の斥候といった冒険者風の者たちの姿もあちこにあった。
なるほど。俺様の前いた世界とあまり変わらんか。
「あとは?魔法だっけ」
そう。前世で魔道を極めし者と揶揄された手前、やはりこの部分はとても気になるところである。
「魔法は一般的に使用されているよ。生活道具としても、冒険者たちの攻撃手段としても。国を挙げて高度な魔法技術を研究する所もあるよ」
ほほう!これは中々興味深いな。転生とやらには興味はないが、異世界の魔法文化については一考したいものだな。
しかし、コイツ…いきなり聞いた質問に答えるとは…こんな成りでも一応は神ということか。
「ね…ねぇ…どうかな?」
おずおずと尋ねるヘスティア。
「なにが?」
「なにが?じゃなくて!転生してくれるよね!興味あったから聞いたんだしょ!?」
だしょって…かなり興奮しているようだ。顔も真っ赤に蒸しあがっている。
「いや?」
「なんでよぉぉぉぉ!今の絶対にイケる流れだったのにぃ」
期待させて悪いが、こちらと新人冒険者でも英雄希望の思春期青年でもないし、転生させると突然言われ手放しで喜ぶ馬鹿でもない。
「お前の目的は?」
「へ?」
俺様の問いにヘスティアは呆けている。
何を聞かれているか分からない様子だ…質問を変えてみるか。
「この戦いに勝てば代理人は望みが叶う。では…神は何が得られる?」




