ご主人様と奴隷 2
「ハァ…ハァ……ここ、か」
胸の締め付けだけを頼りにやってきたが、中々遠かったな。
息も絶え絶えでたどり着いたのは町から少し離れた場所にある、大きな館。
高い外壁に囲われた広大な敷地。
頑丈な鉄柵の門扉が、外からの侵入を拒むように立ちはだかっている
物見櫓まであるな。
要塞かなんかかココは?
門扉に手を触れると、独りでに音もなく鉄柵門が開いた。
誘われているのか?
だが、あまり深く考えてもしょうがない。
誘っているのであれば、乗ってやろうではないか。
テンと共に門をくぐる。
敷地は、広い庭。
よく手入れされた花壇や立ち木。
至る所に砂場や、馬や牛を模した遊具などが散見された。
なんだココは?
公園?遊技場?
―――???
突如、視界が塞がれた。
さらに、身体の自由がなくなった。
「確保ー!侵入者だよー」
甲高い少女の声が頭に響いたかと思うと今度は身体が宙に浮く感覚に襲われた。
身体を持ち上げられている?
かなりの速度で運ばれているのがわかった。
「――よとととと!とうちゃーく!ドーン!!」
いきなり投げ出され、硬い地面で顔を打ったのがわかった。
うめき声を上げる暇もなく、顔を覆っていた物が剥がされ、視界が晴れる。
「侵入者くーん?覚悟はいーいかなー?」
先ほどと同じ甲高い声の主、金髪のベリショートの小柄の女。
かなり若く見えるが歳の頃は17、8ぐらいか?
顔立ちは幼いが、露出した腕や脚には、体格からは想像できないほど引き締まった筋肉がついている。
その証拠に、ガッチリと後ろ手を取られ、全く動かせる気がしない。
「マリー、この子は?」
「んっとねぇ、なんか庭邸にいたからふんじばった」
はあっとため息をつくのはまた別の女。
桃色の長髪の美女だ。
マリーと呼ばれた金髪の女と同じぐらいの年頃か?
白を基調とした法衣姿は、一見すると聖職者のようだった。だが、豊かな桃色の髪と柔和な表情からは、堅苦しさよりも包み込むような温かさを感じる。
「庭邸の柵が開いたということは、フロウ様の客人じゃないの…無体はやめた方が賢明よ」
「おお、そっか!ユーテス賢いなー」
マリーが元気よく答えると、拘束が解けた。
流石にあちこちが痛むな…
「ででで?」
「貴方はだあれ?」
床に座り込み、肩を回していると、桃と黄の美女がズズッいっと顔を近づけてくる。
なんというか、美人に詰め寄られると、嫌な気持ちにはならんな。
「おい!お前たち!」
怒号が聞こえた。
聞いた事のある声音だった。
振り返ると、先ほどの御者の女だ。
青みがかった色白の肌、長身痩躯、黒髪長髪。
鋭い美人と形容できる女だった。
たしか、メギドと呼ばれていた女だ。
「何を騒いでいる……お前、さっきの」
「どうも」
手を上げて挨拶してみる。
次の瞬間、俺様の喉元にチクリと痛みが走る。
メギドの手にはいつ抜いたのか、細身の長剣が握られ、刀身はスッと俺様の顎下に添えられていた。
「なぜ、ここにいる」
「いずれかの手の者か――何にせよ…」
剣を握る手に力がこもる。
顎下に触れた刃が皮膚を押し、熱いものが一筋、首筋を伝った。
「死んでもらうしかないな…」
冗談ではない。このまま押されても引かれても、首が胴体と泣き別れだ。
マリーは笑っている。
ユーテスも止めようとはするが、メギドの前には出られないらしい。
地味に絶対絶命だ。
くそ、どうする!?
「だめよ、あなたたち」
空気が変わった。
奥の部屋から聞こえた声を聞いた瞬間、メギドが剣を引き、示し合わせたかのように、3人の美女が同時に膝をつく。
「その子は、私の大事な奴隷なんだから」
姿を見せた、褐色銀髪の美女、フロウは妖艶な笑みを見せながら近づいてきた。
さて、このご主人様は俺様に何を求めるのやら。
お手なみ拝見といこうか。
――まさか三日後、自分が箒を握っているなど、このときの俺様は知る由もなかったのである。




