第9話
ユリウス殿下に促されるまま、隣に腰を下ろす。
が。それは道端の荒れた草の中。。
なんでこんな草むらに紛れるんですか? 場所移動した方がいいような・・
しかし殿下の心の中は今、それどころじゃないようです。
【クローディアが隣に座ってる・・。どうしていきなりこんな事に? 不測の事態過ぎてどう対処したらいいか全然わからん。妄想の中の俺はこんな時彼女と何を話していた? というか皆は一体他人と何話してるんだよ。しかし気持ち悪いと思われてる時点で何言っても負けここは好感度が上がりもしないが下がる事もないダンマリを決め込む作戦かそもそも手を差し伸べろとか自分から言っといて無理って逃げた癖に今度は隣よろしいですかってなんなんだ謎すぎるこの娘意味わからんし優しい癒し系と思ってたけど実は小悪魔なの】
殿下・・落ち着いてください。それについては本当に申し訳なく・・というかその状態で何故そんなに無表情なんですか? 顔面と脳みそを繋ぐ回路切れてるのでしょうか?
私も社交性には自信がありませんが、ここは私が話題を振ってリードしなくては!
「昨日は申し訳ありませんでした。突然取り乱して逃げ出したりして」
「いや・・別に気にしてない」
めちゃくちゃ気にしてたでしょ! 本当に天邪鬼なんですね。
「実はあの時、殿下の足元にゴキ○リがいるのを見つけてしまいまして」
「え・・?」
「私、虫が大の苦手でして。殿下の御前であるのも忘れて、逃げ出してしまったのですわ。本当に淑女として恥ずべき行為だったと反省しております」
【なに────?
それじゃあ「やっぱり無理」って言ったのは、俺じゃなくてゴキの話だったっていう事か?】
そうそう。そういう事だと思ってください。
【待てよ。これは王太子である俺へ配慮した言い方であって、「ゴキと同じ色してるお前も大の苦手だよ?」と暗に伝えられているのでは】
殿下? 考えすぎですよ??
「お、同じ黒でも、殿下のその髪と瞳は今日もお美しいですわね! まるで端正に磨いた黒曜石の様な輝きですわ。女性達がこぞって賞賛する気持ちが分かります」
貴方は綺麗です。モテているんです。どうぞ闇からお戻りください。
「クローディア・・」
【・・どうして俺の考えている事がわかるんだ?】
彼のその心の声に、内心ビクリと心臓が飛び跳ねた。まずいわ。調子に乗り過ぎた。心を読んでいるのがバレ・・
【君は不思議な人だ。そうやってまた、俺の心を救ってしまうんだな。君がいなければ俺はとうの昔に、命を絶っていたかもしれない】
────え?
殿下。それはどういう・・?
その時、昼休憩の終わりを告げる鐘の音が学園の空へと響き渡り、私達は揃って学舎の方へ目を向けた。
「・・戻るか」
「そ、そうですね・・」
今のは一体どういう意味・・。私には何の覚えも無いのに、そもそも殿下はどうして私を好いてくれているんですか?
知りたい。そう、思ってしまった。
「あの・・ユリウス殿下」
立ち上がりかけた殿下が私の声に気づいて振り返る。
「も、もしよろしければですが・・明日もここで、昼食をご一緒に如何でしょう・・?」
ユリウス殿下の黒い瞳が、僅かに見開かれるのを見た。そして殿下は立ち上がり、座っていた私へ向けて、手を差し伸べた。
「勿論だ」
吹き抜ける風が殿下の濡れた様な黒色の髪を揺らすと、なんだかとても艶かしく光を反射する。その優美な姿に私は一瞬、見惚れてしまった。やはり殿下は・・お美しいですよ。
【なんという幸せだ。まさか君から食事に誘われる日が来るなんて。こんなに良い事続きだなんて、本当に夢なんじゃないかな。今度こそ紳士的に彼女をエスコートしなければ・・】
ま、またそんな程度の事で夢だとか大袈裟な。でも殿下のそういうところ、ちょっとカワい・・
【────あ。彼女の手が、昨日の夜あんな事をした俺の右手に・・】
────〜っっ!?!?
「殿下に手を差し伸べろだなんて生意気でしたわね! 私とても反省致しましたわ! 自分で立てますのでどうぞお構いなく! それでは失礼致します!!」
私は瞬時に立ち上がり、ダッシュで彼のもとから逃げ出した。そして二度と殿下にエスコートは要求しまいと、心に誓ったのでございます。
やはり殿下は可愛くなんかない────変態ですっ!