第53話
外へ出ると、膝を折ったユミルと、それに詰め寄るユリウス殿下の姿が目に飛び込んできた。
ユミルが「ユリウス殿下を殺す許可を得ていない」というのは本当の事なのだろう。真剣で斬り合った場合、ユミルには防御か、重要な臓器の少ない手足を狙うしか手はない。そしてそれを相手に読まれていた場合、ユミルにとって相当な足枷となる。
ユミルは片膝をついて、脇腹をおさえていた。よくは分からないが、押さえた手には血が滲んでいるように見える。
「ユリウス殿下、やめてぇぇ!!」
私は絶叫して、二人の間に割って飛び込んだ。ユミルを殺させはしない。そう言わんばかりに両手を広げ、ユリウス殿下の前に立ちはだかると、彼はやはりその黒色の瞳を暗い憎悪で歪めただけだった。
「そいつを庇うために命を投げ出すか。余程その男が大事と見える」
「そうじゃありません! 聞いてユリウスっ・・」
「クローディア様っ・・逃げて」
ユミルが後ろでそう言ったのが聞こえた。殿下の本気の殺気を感じ取ったのだろう。そして殿下は、その剣先を私に向かって突きつけた。
「お前には心底失望した」
暗く冷え切った視線と共に投げつけられた、侮蔑の言葉。
────貴方に人を殺させたくなんかない。
ねぇ陛下。きっと貴方も私と同じ気持ちなんでしょう?
あの夢のときと同じだ。こんなにも近くにいるのに、私の言葉は一つも彼に届かない。
だってこの人、自分のことばかりだもの。
私、ドレスぼろぼろなんですけど。足血だらけなんですけど? なのに人のこと疑ったり責めたりするばっかりで、私の事を本当に好きだというのなら普通心配するのが先なんじゃないんですかね?
「誰の為にボロボロになってまでこんな所に来てると思ってるんですか・・」
そして私は────キレた。
「なんでそういうの全然分かってくれないんですか? 陛下がユミルを寄越したのだって貴方に問題を起こさせたくなかった親心からでしょう!? ユリウス殿下のクソ馬鹿わからず屋!!」
──── 一方その頃、司祭様は・・
何やら大変な事が起きている気がする。彼は訳の分からぬ恐怖に襲われながらも、言われた通りに秘蔵の祭壇の扉に震える手で鍵を差し込んだ。回すとカチッという音がして、大きな錠が口を開ける。彼は扉を開き、そして中へと足を踏み入れようと一歩踏み出した、そのときであった。足元に何か柔らかい感触を感じて、彼は下を向いた。
そして目が合った。地面に開いた、異形のものとしか言いようの無い、一つの目と。
彼は驚いて、顔を上げて周囲を見回した。するとそこに、神殿の柱に浮かび上がった、複数の目を見つけて────・・
「ギャァァァァァァーー!!」
あまりの事に彼は叫び声を上げ・・泡を吹いてその場に卒倒した。




