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第51話

「本当に歩いて向かうんですか?」


「勿論よ」


「アポロトス神殿まで早足でも二時間はかかるんですよ? 夜が明けてから新しい馬を調達しては?」


 ユミルがこの様な苦言を呈するのは、自身の疲労などではなく私の足を心配しての事だ。ずっと裸足で歩いていたから傷だらけの。私は歩みを止める事なくユミルへ答えを返す。


「いいのよ。人目について大事になるのは陛下の本意では無いのでしょう?」


「・・最優先は貴方の命です。王の命でもあります」


「私の本意でも無いのよ」


 迷わず言うと、ユミルは神妙な顔で眉を顰めた。少し呆れた様な口調で。


「クローディア様・・。貴方はこんな扱いを受けても、まだユリウス殿下を庇おうと言うのですか」


 仕方がないのだ。シルフィ様曰く、ユリウス殿下がこの世の厄災となるかどうかは、私にかかっているのだから。


 でも今は────それだけじゃない。


 殿下が下さったタンポポの花。それにお金の匂いのするアポロトス神殿の恋御守り。チートのお陰だとは言え、私達が心を通わせた瞬間は確かにあったのだ。それにあの粗末な離宮で垣間見えた、あまりに不憫な境遇を知った。そしてそれがどれだけ、あの方の心に陰を落としているのかも。


 一緒に見てきた。前の人生と今は違う。

 私はあの方を、今度こそ救いたい・・!



 アポロトス神殿に最も近い出口に向けて、暗い地中の地下道をひたすら進む。陽の光が届かないのは当然の事ながら、ここでは景色すらも変わらない。延々と続く暗い不気味な迷路は、進んだ距離も時間の感覚も麻痺させて、永久に出られない地獄の道のように思えてくる。ユミルの先導が無かったら、私はきっと発狂していただろう。

 足の裏の皮は既に所々破れて、足を踏み出す度に鋭い痛みを走らせる。身体はくたくたに疲れていて、一度座ってしまったらもう立ち上がれない気がしていた。目の前に縄梯子が現れた時、ほっとして一瞬、意識が遠のいた程だ。


 出口を出るとそこは、アポロトス神殿すぐ近くの林の中にある、岩肌に空いた洞窟だった。丘の上に立つアポロトス神殿の荘厳な姿と、それに続く長い階段の姿がすぐ側に見える。天を覆う闇は、その裾を既に藍色に染め始めており、もう間も無く夜が明ける事を知らせていた。


「登れますかクローディア様。無理なら僕の背に・・」


「大丈夫よユミル。力尽きるのは聖鐘を手に入れてからにするわ・・」


 何が起こるか分からない今、ユミルにはなるべく体力を温存しておいて貰いたい。あとこの階段さえ登れば、神器を手に入れる事ができるのだ。私は最後の力を振り絞って、階段に足をかけた。



 私は知らなかったのだ。

 その聖なる鐘の音を恐れていたヘルブラインが、あの壁に浮き出た無数の目で、この神殿を監視していたことなど────。




"見つけた・・クローディア・・"

 


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