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第50話

 私達はホールを出、殿下が向かったのとは反対側にある出入口から外へ出た。武器を失ったユミルは、馬での逃亡を諦めた。音ですぐに気付かれて、私を連れての逃亡ではすぐに追いつかれると踏んだのだ。次に殿下に遭遇すれば負ける可能性が高いと踏んだユミルは、どうやらここで夜が明けるのを待つ作戦に切り替えた。私はユミルに案内されるまま、学園の敷地の端にある、別の地下道へと入ったのである。何でも王都には様々な場所から地下道へ入れるが、その内部は迷路の様に入り組んでいて、知らぬ者が足を踏み込むと逆に出口を見失うと言う。ユミル達「影一族」は有事の際に王族を脱出させるという使命のもと、地下道の配置は完璧に頭に入っているらしい。


「ユリウス殿下がこの地下道を把握していない事を願います。クローディア様にはご不便をお掛けしますが」


 しかしユリウス殿下も夜が明ける前に何とか私を連れ戻したいと考えているだろうという事で、ユミルは殿下に見つかった際の脱出経路を説明した。そうなった時はユミルが足止めしている間に一人で脱出しろと言うのだけれど・・そんな状況は正直想像したくもない。

 何にせよ、束の間の休息だ。脱力して地面に腰を降ろすと、猛烈な疲れが身体を襲った。走り過ぎて足の裏は傷だらけだし、それに喉がカラカラに渇いている事に気がついたけど、残念ながらここに水道は無い。


「・・あれは何だったんでしょうね・・」


 ふと、ユミルがじっと地面を見つめながら呟いた。先程目の当たりにした、ユリウス殿下の異形とも思える姿。あの禍々しい黒い触手の様な靄・・どこかで見た気がするのだけど・・。

 こんな気持ちの悪い感覚を、最近よく感じている気がした。届きそうで届かない、霧がかった記憶の壁・・。その深い霧を破ったのは、ユミルのこんな一言だった。


「まるで・・魔神が降臨したかの様でしたね。未だに信じ難いですが」


 ────魔神?


 肌がざわざわと波立つ様な感覚だった。これを逃してはいけないのだという直感。


「ユミル・・この国で魔神といえば・・何と言う名の神だったかしら・・」


 私の言葉にユミルは不思議そうな表情を見せた。それはこの国では知らぬ者の方が少ないのだから。


「魔神といえば────ヘルブラインですかね?」


 その名を聞いた瞬間。


 かかっていた霧が一気に晴れ渡る様に、私の中で全ての記憶が鮮明に蘇った。


 女神シルフィ様のお導きで人生をやり直す事になったこと。


 授かったチートでユリウス殿下の意外な心に触れた。そして少しずつ、今生では殿下との距離を縮めて来れたこと。


 そしてシルフィ様がヘルブラインに捕らわれたこと。夢と現実の狭間で垣間見た、ユリウス殿下とヘルブラインの会話────。


「そうだわ・・ヘルブラインよ!」


 大声で叫んでその場に立ち上がった私。ユミルが驚くのも無理はない。


「クローディア様??」


「大変だわ・・! あの夢の内容では・・このままユリウス殿下が虐殺を実行するような事態になれば、この世に魔神が復活する事になる!」


「クローディア・・様・・?」


 ユミルが困惑の眼差しを送ってくるのを完全にそっちのけにして、私は勢いよく頭を抱えた。こんな大事を忘れてしまっていた自己嫌悪と、どう対処すべきかという動転で頭の中はぐちゃぐちゃだ。


 ────あの状態のユリウス殿下を止めるには一体どうしたらいいの? 助けて、シルフィ様────!


「・・・・シルフィ様・・?」


 私は頭にやった手から、ゆっくりと力を抜いた。あるものが頭に浮かんだからだ。それは以前、郊外学習で回った先のアポロトス神殿で見学させてもらった、魔を鎮めたというシルフィ様の神器────。


「アリオーン聖鐘!!」


 私は隣で呆然としているユミルの肩を掴んだ。


「ユミル! ・・今すぐアポロトス神殿に行くわよ!」


 ユミルは訳が分からないといった風に困惑を更に深めて、じっと私を見つめ返した。


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