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第37話

 なんという無様な事でしょう。看板を破壊して派手にすっ転んだばかりか鼻からは鼻血が・・。大衆の面前で、しかも殿下の目の前で・・。死にたい。願いが一つ叶うなら今すぐこの場から消えてしまいたい。情け無くて涙が出てきた。


「クローディアっ。お前大丈夫か!?」


 愕然としすぎて動けずにいた私のところへオーウェンが駆け寄ってきて、上体を起こし、顔の血と涙を拭い、鼻にハンカチを詰め込んでくれた。


 ────が。


 突然ガシッと、私に触れていたオーウェンの手は、別の手に捕らえられた。そしてそのまま、ギリギリと力が・・


「痛い! 痛いですって殿下!」


 堪らずオーウェンが声をあげた。すると唐突に彼の哀れな右手は解放された。そしてユリウス殿下は、それを呆然と見ていた私の横へ膝を折ると、まるで攫う様にその身体を抱え上げた。驚いて見あげたその視線の先には、前を向く黒色の瞳と、あの艶めいた黒髪が映った。


「医務室へ行く」


「あ・・お、俺も着いて行きます!」

 

 二日連続の殿下のお姫様抱っこ。

 意外と逞しい腕の感触。伝わってくる体温。見上げればそこには眼前に殿下の美貌が・・


 だけど全然喜べない! この鼻にハンカチ押し込んだ、最悪の状況では・・! でもこんな血塗れだし医務室行かなくていいとも言えない!

 

 涙目で震えながら私は搬送された。医務室勤務の医師が不在にしていたので、殿下はベッドの上に私を下ろし、私に面と向かった。


「どこか痛むところは?」


 主に心が。


「大丈夫です。強く打ったのは顔だけなので、少し休めば平気と思います」


 ので真正面から見つめるのやめて下さい。鼻にハンカチ詰まってるんですよ。着いてきたオーウェンが水で濡らしたタオルをもう一枚差し出してくれた。


「腫れると悪いから冷やしとけよ。しっかしお前、そそっかしいなぁ〜。こんなんで王太子妃とか大丈夫なのかねえ? ねぇユリウス殿下」


 傷に塩を塗らないで、今は痛すぎるわオーウェン! しかしユリウス殿下はオーウェンのこのツッコミを無視して、益々予測不能な行動に出るのである。


 ユリウス殿下の白い指先が私の首の方へと伸びてきたのを見て、私は息を呑んだ。そして殿下のその手は、制服のジャケットのボタンを外し始めて・・


「で、殿下・・何を」


「血がついてるから洗った方がいいだろ」


 え・・。


 完全に硬直してしまった私。それに構わず、プチ、プチっと開放感は下の方へと降りて来る。

 た、確かに、脱いで洗った方がいいかもしれません。ジャケットの下にはシャツ着ていますし、脱いだって問題ないし。


 でも殿下がやるんですか? ボタン外して、脱がすんですか・・? それって・・。


(なんかえっちです、殿下!!)


 まずい。脈拍数が上がって鼻血の勢いが増した気がする。何かの拷問ですかコレ。緊張と羞恥でぷるぷると身体を震わせながら耐えていると、ジャケットは無事に私の腕を通過して取り去られた。真っ赤な顔で、はーっと止めていた息を吐くと、そこでオーウェンが一言。


「なんか俺・・邪魔ですか?」


 だから煽るなて!!


「そんな訳ないでしょ!」


 ちょっと本気で怒鳴ると、オーウェンはビクっと肩を震わせた。ほんとイラっとするわコイツ。

 そしてユリウス殿下は、今度は何故か自分のジャケットを脱いだ。そしてそれを私の方に差し出して・・


「冷えるからこれを着てろ」


 え・・・・


 私は差し出されたジャケットを見た。


 ユリウス殿下の。脱ぎたての。体温でほやほやの。


(これを・・着るの・・?)



 ────無理だわ。


 思った瞬間、私は結構強めな口調で、こう口走っていた。


「オーウェンに借りるからいいです!」


 ユリウス殿下のあまり温度のない黒い瞳が、私のもとから逸らされたのを見た。


「そうか」


 殿下は立ち上がると、私のジャケットを持って医務室を出て行った。おそらくそれを洗うために。その後ろ姿が寂しげに見えたのは、気のせいでは無かったのかもしれない。


「おい、クローディア。あんな言い方しなくてもいいだろ。せっかくお前の身体を気遣ってくれたのに」


「え?」


 私はオーウェンのその苦言で、始めて気がついたのだ。私のその言動が相手にとってはどう映っていたのかを。以前はユリウス殿下から疎まれていると思い込んでいた私。しかし知らずのうちに今度は私の方が、そう思われるような行動を取っていた。「心の声を読むチート」があれば、殿下の内心に気づく事ができた筈なのに、その時の私はその能力を失っていたばかりか、シルフィ様に関する記憶の一切を失ってしまっていたわけで────・・


「感じ悪いぞお前。後でちゃんと謝っておけよ」


「・・・・わ、わかったわ・・・・」



 そんなつもりじゃ無かったのに。

 だけど恥ずかしくて。舞い上がって普通がどんなものだったかも分からなくなって。


(前はこんなのじゃなかったのに・・)


 そうだわ。

 殿下の事が気になって気になって仕方がない。


 私、前よりずっと、ユリウス殿下の事が────・・





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