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永遠の冬  作者: 朱鷺田祐介
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【2】白の戦姫

運命の劇場へようこそ

北原のグリスン谷に住む少年ウィリスは、冬の神「冬翼とうよく様」と出会い、新たな道を歩みだす。


拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。


 その人は石の中で待っていた。


 近づいてはならないと言われた、深い森の奥。

 そして、僕らは出会った。


 7歳の夏。

 ウィリスは、森の奥で誰かの声を聞いた。

「……誰か? いる……」

 少年は、ガースとメイアに向かって投げようとしていた落ち葉の塊を取り落とし、振り返った。森の木々しか見えない。ここは谷から少し上がった森の奥だ。近くにいるのは幼なじみのガースとメイアだけだった。大人の姿はなかった。

 薪拾いをする村の大人にくっついて森にきたのは、薪と茸を拾って帰るためだったが、子供らにとって、茸探しはかくれんぼや悪ふざけの合図も同然だ。

 そうして、大人から離れ、落ち葉の塊をばらまいて遊んでいたのだ。

「……誰か? いる……」

 少年はもう一度、森の奥に向かって問いかけた。

 声は帰ってこなかった。

 木々の間の闇が少し濃くなったような気がした。

 頭上でさわさわと木の葉が音を立てた。少し風が出てきたかもしれない。


 気づくと、板のように屹立した石の前に立っていた。

 もとは恐らく真っ白であったのだろう石が、森の真ん中に立っている。表面は磨かれた玉のように滑らかだった。

 まるで谷川で取れる小石のようだな、とウィリスは思った。

 初めてみるものだったが、この石のことは知っていた。村では「白の石碑」と呼ばれている。はるか昔、妖精騎士様が、悪い魔族の王を倒した記念に立てたという。今でも毎年、春になると妖精騎士がここにやってくると言われている。だから、近づいてはいけない場所だった。

 しかし、ウィリスは少しも怖いとは感じなかった。

 きれいだな。

 素直にそう思った。


「ふふ」


 鈴を転がすようなかすかな声が響いた。

「うれしいわ」

 目を上げると、白の石碑の上にひとりの女性がいた。真っ白な鎧具足をつけ、毛皮の帽子を被った勇ましい姿ではあったが、ウィリスには彼女がとても美しい若い女性であることが分かった。

「あ、こんにちは」

 ウィリスはぺこりと頭を下げた。

 どこかの貴族の姫かと思ったからだ。

「見えるのね」

 女性はウィリスを見つめた。

 彼女の青い瞳がすーっと深くなった。

「ここは禁忌の場所。もう帰り」

 ウィリスは彼女の言葉に従うしかなかった。

 村へ戻る方向へ走りながら、再び、石碑を振り返った。

 もはや彼女はいなかった。


 ウィリスは彼女の話を誰にもしなかった。なぜか、話してはいけないような気がした。



拙作ダーク・ファンタジーTRPG「深淵」の世界観を元に描き出した幻想物語。


朱鷺田祐介の公式サイト「黒い森の祠」別館「スザク・アーカイブ」で連載され、64話で完結したものを転載いたします。




http://suzakugames.cocolog-nifty.com/suzakuarchive/



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