過去の思い出が恐怖に変わる
今作は友人から聞いた話。
思い出の写真が実は......
久しぶりに夢を見た。
社会人として毎日仕事に追われる日常。
その日も帰宅したのは、夜遅い時間だったんだ。
「はぁ。毎日忙しいわ」
就職してからは友人達と会う時間も減った。
当時は就職先を見つけるのも一苦労で、何とか今の会社へ入社する事が出来た。
本当は好きな写真関係の会社で働きたかったんだけどな。
親にこれ以上頼るわけにもいかず、とにかく就職先を探したんだ。
運良く入社出来たんだけど、所謂ブラックで残業も多いんだ。
友人達も似たり寄ったりで、今では月に一度会うかどうかになっていった。
そんな環境で仕事しているから、家に帰ったら風呂に入って寝るだけ。
だからこの日も身体は疲れきっていた。
ドサッ。
動く気になれない俺は、スーツのままベッドへ身を投げ出す。
今にも寝そうな俺の目に入るのは、枕元に飾った写真。
学生時代に所属していた登山部の写真だ。
山頂で得意げに写る自身の周りには、笑顔
の仲間達。
「懐かしいな。この頃は毎日が楽しかった」
写真を手に取り思い出に浸る。
♪♪♪
その時、携帯が鳴った。
相手の名前を見ると、懐かしい名前だ。
「もしもし。安達? 懐かしいな。元気にやってるのか?」
俺は写真を見て学生時代を思い出していた事もあり、テンションが上がっていた。
ところが相手の安達は元気が無い。
電話を掛けてきた割に、ちっとも嬉しそうじゃないのだ。
そんな相手の態度に上がったテンションも下がっていく。
「なぁ。何かあったか? 俺は安達の電話嬉しい気持ちだったんだけど?」
「すまない......」
俺の問いに対し安達はそう言った後、電話を切った。
すぐに掛け直そうかと考えたが、この時は眠気が限界だったんだ。
そこで意識が途切れた。
◇◇◇
雲一つ無い青空。少し肌寒い。
此処は?
周囲を見ると見覚えのある景色だ。
「此処って......」
その場所はあの写真に写っていた場所だった。
きっとこれは夢だ。あのまま眠ってしまったんだろう。
そんな風に考えた俺は、夢なら仲間たちもいるんじゃ無いか? と周囲に目を移す。
そして十メートル程離れた位置に、人影を発見した。
「居た! あれは安達だ!」
学生時代から仲の良い友人の姿は、見間違え様がない。
俺は大声で安達を呼びながら、山道を走った。
夢だとは思っていたが、走ると息が上がる。
そんなところまでリアルで無くて良いのに。
ハァハァと勢いよく安達の居る位置へ走る俺。
間も無く追い付くと思い、視線を外し息を整えてた。
あれ?!
目の前に居たはずの安達が居ない。
何度も周囲を確認するが、見つける事が出来なかった。
「何だよアイツ。置いて行きやがったな!」
俺はそんな悪態を吐きつつ、頂上へ向け歩き出した。
途中川で水分補給をしながら。
俺が夢だと思った理由のひとつに、何も持っていない事もあったんだ。
登山慣れした俺が装備も付けず山登りする訳がない。
夢なら会えると期待した他の仲間の姿も見つけられないまま、気付けば間も無く頂上だ。
標高の低いこの山は、初心者向けなのだ。
大体頂上まで四、五時間って言えば想像出来るだろうか?
そんな山だから登山慣れした俺には散歩に近いんだ。
「ふぅ。身体鈍ったか」
思いの外、疲れを感じながら到着した山頂。
そこに安達は居た。
文句のひとつでも言おうと、足立の元へ向かう。
その時......安達がこちらを振り返った。
「お前......」
安達の顔は生気がなく、表情も虚だった。
「すまない」
安達は俺にそう言うと、そのまま山頂から身を投げた。
驚いた俺は走る。
一体何が⁈
◇◇◇
「安達‼︎」
気がつくと俺は部屋のベッドだった。
スーツの色が変わるぐらい汗をかいていて、気持ち悪い。
すぐに起き上がり、スーツを脱ぎ冷蔵庫から水を取り出す。
「何ていう夢を見るんだよ」
冷たい水を飲みながら、覚醒した頭で夢を思い出していた。
嫌な予感がした俺は、安達に連絡を取ろうと携帯を探したんだ。
ベッドの下に落ちた携帯を見つけて手に取ると、着信が5件。
相手は登山部の仲間たちだった。
時刻は午前四時。
普段ならこんな時間に電話など無い。
俺は構わず相手に電話をした。
すると相手はすぐに出た。
「もしもし? 佐伯すまん。寝てたわ」
俺はとりあえず詫びたんだが、佐伯の次の言葉に絶句した。
「夜分にすまないな。安達が亡くなったんだ」
佐伯も詳しい事情は分からないらしい。
亡くなったのは一昨日で、日付の変わった今日がお通夜。
それから他の仲間にも連絡したが、皆同じ用件だった。
俺はこの日、会社を休んだ。出社したら帰れない可能性が高い。
この時、俺は仕事に嫌気が差していたのかもしれない。
佐伯達と待ち合わせの時間まで、家でゆっくりするつもりだった。
とても眠る気分になれないので、シャワーを浴びた後、久しぶりにアルバム取り出す。
仲間と楽しそうに映る写真。
安達も勿論映っている。
安達とは趣味である写真も同じで、部でも特に仲が良かった。
そんな安達と過ごした日々を思い返していたら、大声で泣いた。
ついさっきまで亡くなった事実が受け入れられなかったんだ。
何があったんだ? 悩み事があったのか?
仕事が忙しく連絡をしなかった事を後悔した。
きっと俺に思い出させる為に夢に出てきたんだろうな。
涙で霞む目で写真を見ながら、過去を思い出していた。
この時の俺は、アルバムの写真の変化に気づいていなかったんだ......。
◇◇◇
安達のお通夜は、身内だけで行われた。
本当は俺たちにも内緒にしたかったらしい。
と言うのも、遺体の損傷が激しく見せられないからだった。
安達の死因は自殺。勤めていた会社の屋上から飛び降りたそうだ。
遺書などは無く、ご遺族の方達もそれを悔やんでいた。
俺達には感謝の言葉を掛けてくださったが、居た堪れなくなりお通夜を後にした。
そして久しぶりに会った仲間達と、少し話をする為にファミレスに入った。
そこで不思議な話を聞く事になる。
◇◇◇
先ず話し出したのは、佐伯だった。
「なぁ。お前ら最近昔の写真見たか?」
何処か神妙な表情で言う佐伯。
俺は笑顔で答える。
「あぁ。登山部の写真見たよ。安達や皆との懐かしい思い出が甦ったわ」
そう答えた俺を不思議そうにみる仲間達。
ん? おかしな事言っただろうか?
俺以外の仲間の様子が何か変だった。
「なら気付いたんじゃ無いか? あの写真のおかしさに」
佐伯がそう言うと他の仲間達も頷く。
だが俺は何の事だかわからない。
俺の不思議そうな様子に、佐伯が言った。
「あの山の写真。ちゃんと見たか? アレは絶対にヤバい」
あの山の写真? 一体何の事だ?
俺には何の事かわからなかった。
だがそれから聞かされた事が、この後の恐怖体験に繋がって行くんだ......。