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王様にお世話されます 後編

視点が変わります。ミラ→ヴィクター→レオ


「こら、ミラ。カーテンをよじ登るんじゃない」

 王様はため息交じりに私を捕獲した。

「困った子だな」

 小脇を抱えられて、王様の赤い目と向き合う。

 私だってね、こんな躾のなってない子猫みたいな真似したくなかったんですよ? 私はあくまでも獣人、猫ではないのです。そこら辺の分別はつきますから!

 こんなことをする羽目になったのは、王様のせいですよ! なぜ構ってくれないのですか。放置して仕事してるんじゃないですよ。

「んにゃーーーっ」

 王様のおでこを連打する。

『断固抗議するーーっ』

「おいおい、何がそんなに気に入らないんだ」

 焦った王様に床に下されたので、椅子を経由して机に飛び乗り、机の上に散乱している書きかけの書類の上に座り込みを決め込む。

「そんなところに座られたら仕事ができないんだが」

 困り顔の王様にちょっぴり心が痛むけれど、引くわけにはいかない。だって今日の王様の仕事は私と遊ぶことなのだから。

『絶対にどいてあげない。遊んでくれるまで!』

 こちらを窺う王様に念を送ってみる。

「ミラ、どうしてほしいんだ? 猫には詳しくないから……あ、こういう時はサイアスの助言を実行すれば……」

 待って待って待って! 副隊長に何吹き込まれたのかわかったもんじゃないよ!

 逃げ出す前に王様に捕まった。

「確か、猫はこうすると喜ぶと」

 王様は遠慮なしに尻尾を掴んだ。

「みゃーーーっ!」

 ぎゃーーーっ! 副隊長め、許さない!

『離してぇ! 何も楽しくないうれしくないっ』

 猫パンチを炸裂して王様の腕から飛び降りる。

「す、すまない。何か間違えただろうか」

 うぅ。王様は悪くないんだよ、悪いのは全部副隊長!

 とりあえず怒っていないことを示すために王様の足元にすり寄ってみる。

「尻尾を触られるのが嫌だったのか?」

「んなーぅ」

 おぉ! 通じたよ。意思の疎通って大事だね。

「そうか、悪かったな。サイアスの言葉を鵜呑みにした私がどうかしていた」

 わかってもらえて何より!

 安心していると、王様は少し考え込んで机の上の羽ペンを手にした。

『まさか、この期に及んで仕事を続行する気?!』

 阻止せねばっ。

 王様に飛び掛かるため姿勢を低く構えると、王様は突然しゃがみこんだ。そしておもむろに羽ペンをゆらゆらと揺らしだすではないか!

「にゃん!」

 私の意思に反して手が出てしまう。あぁ、これあれだよ。猫じゃらし的な効果だよ、抗えないよっ。

『楽しいーーっ』

 反射神経のいいらしい王様は、猫じゃらしの上級者だ。じゃらされまくっている。

 すっかり王様の羽ペンじゃらしの虜になってしまい、私は時間が経つのも忘れて転げ回るのだった。



 

 ミラの様子がおかしい。大人しくしていたので安心して仕事を片付けていると、急にカーテンに登りだすなどいたずらをし始めた。

 窘めてみるもデコを叩かれるし、しまいには机に上って書類の上に鎮座してしまった。ミラは何か訴えるようにこちらを見ているが、どうしていいのか皆目見当がつかない。

 その時ふと、サイアスの助言を思い出した。

『猫の扱い方? そうだなぁ、ほかの猫がどうだかは知らないけど、ミラは尻尾を触られるのが好きみたいだよ』

 その言葉を信じ、尻尾に触れてみたところ、ミラは絶叫して逃げ出してしまった。

 状況が掴めず戸惑っていると、ミラは足元にすり寄ってきた。とりあえず嫌われてはいないらしい。

 そして気付いた。サイアスに騙されたことに。今思えば、どうしてあの男の言葉を信じてしまったのか悔やまれてならない。

 サイアスがあてにならないと分かった今、己の知識だけで対応せねばならない。しかし、猫に関すること情報などほとんど持ち合わせていない。

 猫、猫といえば……猫じゃらしか。羽ペンでも代用可だろうか。ええい、物は試しだ!

 ミラの目の前で羽ペンを揺らしてみると、予想以上に食いついてくれた。正解が見つかって本当に助かった。


 本当に助かったのはいいのだけれど、ミラはいつまでこうしているのだろうか。かれこれ1時間ほど羽ペンを追いかけている。夢中になって遊ぶ姿はまさに幼子、確かにサイアスの言う通り癒される気がする。

「んなーぅ」

 ミラはふと遊ぶのをやめ、俺の指を甘噛みしてきた。

「どうした、腹でも減ったか」

 すると返事をするようにミラの腹の虫が鳴いた。

「わかりやすくて結構。ちょっと待ってろ」

 猫の餌、まだ子猫だしミルクでいいだろうか。サイアスのやつ、でまかせばかりで肝心なことは何も言っていないじゃないか。

 取り敢えず使用人の意見も参考に、ミルクを持ってきてもらった。

「これで良かったか?」

 ミラはすんと鼻を鳴らすとミルクに舌をつける。

「みゃっ」

 しまった、熱過ぎたか。

「大丈夫か、ミラ。舌を見せてみろ、火傷してないか」

 ミラを抱き上げ口を開けさせて、治癒魔法を施す。ミルクにも魔法をかけ温度を下げる。

「悪かった。今冷ましたからもう飲めるはずだ」

 床に下すやいなや、ミルクにがっつくミラ。

「そんなに慌てるな。ゆっくり飲みなさい」

 夢中でミルクを飲むミラには、俺の言葉も聞こえていない様子だ。

 こういうところが間抜けと言われる所以なのだろう。まぁ愛らしいとは思う。

「みゃー」

 食事を終えたミラは満足げに尻尾を揺らしている。しかし口周りはミルクまみれである。

「おいで。綺麗にしよう」

 膝に抱き上げ、ハンカチで口元を拭ってやる。ミラは目を細めてされるがままだ。

「よし、綺麗になった」

 何の気なしに撫でていると、ミラは俺の膝の上で舟をこぎだした。

「あんだけ遊んで飯食ったらそりゃあ眠くなるよな」

 そしてものの数秒で完全に眠りに落ちた。

「なんか、父親になった気分だったぞ。婚期逃しまくって嫁すらいないのに」

 例え嫁を娶ったところですぐに逃げられるだろうが。

 それはまぁ置いといて、今日は有意義な1日だった。


 


「失礼します。ミラを迎えに来ました」

 執務室には吸血鬼と恐れられる国王と、その膝で眠る一匹の猫。

「あぁ」

 いまだ爆睡中のミラを受け取ったレオは、思わず口にしそうになった言葉を飲み込んで執務室を後にした。


――――娘を溺愛してるパパにしか見えねぇ


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