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第二話 霧の朝の授業

SCENE 1 寄宿舎の朝


朝六時ちょうど。

玻璃宮学院の朝は、鐘の音で始まる。


ベルではない。

喚くような目覚ましでもない。

塔のどこか高いところで、細い金属をそっと打ったような、澄んだ一音だ。


その音が霧をすべって、寄宿舎の窓を叩く。


透は目を開けた。


白い天井。濃い木の梁。高い窓の向こうは、まだ乳白色の霧に塞がれている。昨夜は暗くて広く感じた部屋も、朝の光の中ではきちんと形を持っていた。机が二つ、ベッドが二つ、クローゼットが二つ。壁に取りつけられた棚にはまだほとんど物がなくて、昨日ここへ来たばかりだということを、静かな空気がそのまま物語っている。


机の上に置いた黒いケースが目に入る。


万年筆。


昨日、入学の儀で琥珀色に染まった、自分の万年筆だ。


透が半身を起こしたところで、隣のベッドががさりと鳴った。


「……今の一発目で起きるの、えらいな」


毛布の向こうから声がした。


日向湊だった。


髪は好き放題に跳ねているのに、耳だけはもう起きている顔をしている。片目を閉じたままこちらへ顔を向け、湊はくしゃっと笑った。


「俺、二回目の鐘まで寝ようと思ったのに、向かいのベッドがさっき一回、ぎって鳴ったから起きた」


透は眉をひそめる。


「そんなの分かるのか」


「分かるよ。金属バネの鳴り方、昨日の夜の寝返りと違ったし」


「気持ち悪いな」


「失礼だな。高性能って言えよ」


透は少しだけ笑った。


昨日までなら、朝いちばんに誰かとこんなやり取りをする自分を想像できなかった。

家にいたころの朝は、もっと静かで、もっと息苦しかった。誰かの機嫌を崩さないように、音を立てずに息をする時間だった。


ここでは、鐘が鳴る。

誰かが先に喋る。

それだけで、部屋の空気が少し生きている。


湊はベッドから起き上がり、カーテンを少しだけ開けた。


窓の向こうには白い庭が広がっている。芝生も回廊も、大理石の欄干も、霧の向こうに輪郭だけを残している。


「うわ、今日も出てるな」


「霧?」


「うん。玻璃宮って感じする」


「昨日来たばっかりなのに、もう言うんだな」


「一日で染まるには十分だろ。あの城見たあとじゃ」


城。


透は心の中でその言葉を反芻した。

昨日、霧の向こうに現れた学院の全景を思い出す。白い石の壁。帯のように走るガラス。積み上がった沈黙みたいな建物。夢のようで、現実の重さもある。


そのとき、二度目の鐘が鳴った。


今度は少し低く、長い。


湊が顔をしかめる。


「これ、本気のやつだ。遅れると寮監が来る」


「怒るのか」


「怒鳴られはしないらしい」


「じゃあ平気じゃないか」


「違う。静かにがっかりされる。あれが一番きついって、昨日上級生が言ってた」


透はすぐ立ち上がった。


「急ごう」


「だよな。初日から“見た目はまともなのに生活能力終わってる一年”に分類されたくない」


二人は急いで制服へ腕を通した。


認識阻害繊維の入った学ランは、朝の光ではただの黒い制服にしか見えない。だが袖を通すと、布地が少しだけ温度を覚えるように身体へ馴染んだ。胸ポケットに万年筆を差し込むと、その一本だけが制服の重心をぴたりと決める。


透はその感覚を、まだ上手く言葉にできない。

ただ、持っていないと落ち着かない。

それだけは、もう分かっていた。


SCENE 2 食堂の朝


一年生の男子寮は二十人ほどが暮らしていると、昨夜寮監の芦原先生が説明していた。

寄宿舎は男女で棟が分かれているが、授業は混合。朝食も学年ごとではなく、全学年が同じ食堂を使う。


食堂へ入った瞬間、透は少しだけ立ち止まった。


焼いたパンの匂い。

湯気の立つスープ。

銀のカトラリーが触れ合う小さな音。

高い天井から落ちてくるやわらかな光。


だがいちばん目に入るのは、そこにいる生徒たちの“普通じゃなさ”ではなく、“普通さ”だった。


皆、制服を着て、眠そうな顔で朝食を取り、友達同士で喋っている。

どこにでもある寄宿学校の朝に見える。


ただ、よく見ると少しずつ違う。


窓際の席を避けて座る女子。

イヤーマフを首にかけたままパンを食べる男子。

スープの匂いを確かめてから席を選ぶ一年生。

反対に、まるで何の不便もないみたいに平然と新聞を読んでいる上級生もいる。


全員が全員、困っているわけじゃない。


その事実に、透は少し救われた。


「こっち」


湊がトレイを持って、壁際の席へ向かう。

背中が壁につき、食堂全体の音が拾いやすそうな位置だ。


「そこ、好きなのか」


透が向かいへ座ると、湊はスプーンを指先でくるくる回した。


「好き。背後から足音来ないし」


「ずっと全部聞こえるのか」


「全部ってほどでもない。……いや、静かな日はかなり聞こえるかも」


湊はスープをひと口すすり、少し考えるように続ける。


「最初は、遠くの声がうるさいだけだったんだ。隣の家の会話とか、廊下の先の足音とか。最近は、聞こえる量が増えたっていうより、“どっちから来た音か”が少し分かるようになってきた感じ」


透はパンを持つ手を止めた。


「それ、すごくないか」


湊は肩をすくめる。


「いや、先生には『まだ聞こえすぎてるだけ』って言われた。

うまく使えるようになったら、音で距離とか位置とか、もっと違うことも分かるようになるかもしれないらしいけど、それはまだ先」


“まだ先”。


その言い方に、透は少しだけ納得した。

湊の力はすでに十分変だし、十分すごい。だがそれでも、ここではそれが“入り口”でしかないのだろう。


「相良のは?」


「何が」


「目。三百メートル先、見えるんだろ」


透は一瞬、答えに迷った。


この力を「すごい」と言われると、少しだけ困る。

嫌ではない。けれど、素直に頷けない。


三百メートル先が見えること自体は、たしかに普通じゃない。

でも透にとってその力は、誇るためのものじゃなかった。

家を出るために使った。

試験で不正をするためにも使った。

そして、あの日は誰かを助けるために使った。


便利さと、後ろめたさと、痛みが、全部同じところにくっついている。


だから透は少し考えてから言った。


「……便利な時はある」


「おお、控えめ」


「でも、褒められるとちょっと困る」


湊が首をかしげる。


「何で」


透はスープの湯気を見た。


「ちゃんとした使い方、まだ分かってないから」


湊はその答えを数秒だけ黙って受け止めて、それから小さく頷いた。


「そっか」


その“そっか”は、深入りしないかわりに流しもしない、ちょうどいい温度だった。


そのとき、食堂の奥の扉が開く。


入ってきたのは、背の高い女教師だった。


黒に近い濃紺のスーツ。首筋の見える短い髪。歩幅は小さくないのに、靴音が妙に少ない。顔立ちは冷たいというより、無駄がない。余計なものを全部削いで、まっすぐだけ残したような人だった。


ざわめきが少しだけ収まる。


女教師は食堂の中央までは来ず、入口付近で立ち止まって言った。


「一年生。七時四十分、本校舎一階大講義室前に整列。遅刻は能力以前の問題だと思いなさい」


声は低く、よく通る。


食堂の空気がぴしりと締まった。


湊が小さく言う。


「うわ、たぶんあの人だ」


「誰」


「鳴瀬先生。知覚制御基礎」


透がもう一度女教師を見た。


鳴瀬先生は誰の返事も待たずに踵を返した。

ああいう人が教室へ入ってきたら、空気が一段変わるだろうな、と透は思う。


「怖そうだな」


透が言うと、湊はにやっとした。


「でも、たぶん当たりだぞ。ああいう先生のほうが信用できる」


「何で」


「優しい顔して、変なところで放置する先生のほうが怖いだろ」


それは少し分かる気がした。


食堂の窓の外では、霧がゆっくりほどけ始めていた。


SCENE 3 最初の規則


大講義室の前には、一年生が二十人ほど整列していた。


男女混合の一クラス。

背の高い者も低い者もいる。

最初から学院に馴染んでいそうな顔もあれば、透と同じようにまだ少し足元が浮いている顔もある。


窓際には、黒縁眼鏡をかけた女子が一人、すでにノートを開いていた。

髪はきっちり低い位置で結ばれ、制服の襟も一分の隙もない。紙面の余白にまで定規を使っているあたり、ただ真面目なだけではない。努力と管理が好きな人間の気配がある。


湊が透の袖を軽く引いた。


「あの子、昨日からずっとノート取ってる」


「すごいな」


「怖いくらいにな」


そのとき、大講義室の扉が開いた。


出てきたのは白衣の男だった。


三十代後半くらい。細身だが、ひょろい感じはしない。白衣の下には濃紺のカーディガンと、少しだけ皺の寄ったシャツ。髪は柔らかそうに見えるのに、目だけが妙によく起きている。優しそうな顔立ちだが、眠そうな優しさではなく、夜通し誰かを診ていて朝になってもちゃんと仕事を続ける人の目だった。


「おはようございます。一年生」


白衣の男は穏やかに笑った。


「医務室担当、知覚衛生学担当の雨宮先生です。顔くらいは最初に覚えてもらいます。できれば、君たちが医務室に運び込まれる前に」


一瞬だけ空気が和む。


雨宮先生はその流れを逃さず続けた。


「今日はまず、学院で生活するうえでの規則を二つだけ話します。二つだけです。けれど、二つとも破ると面倒です」


クリップボードを閉じる。


「一つ。学院の外で、許可なく能力を使うことは重罪です。見られたかどうかの問題ではありません。使ったかどうかの問題です」


透の背筋が、わずかに固くなる。


「理由は単純。普通の社会は、君たちの感覚の強度を想定していないからです。ちょっと便利に使う、が、ちょっとでは済まない場合がある。本人も、周囲も、まとめて壊しかねない。だから止める」


雨宮先生はそこで一拍置き、今度は少し柔らかく言った。


「二つ。不調を隠さないこと。

出血、耳鳴り、吐き気、匂い酔い、視界の歪み、感覚の過飽和。何でもいい。いつもと違ったら医務室へ来る。“これくらい平気です”が一番危ない」


言いながら、雨宮先生は胸元のポケットから一本の万年筆を取り出した。


銀縁の古いペンだ。


「で、この二つに深く関わるのが、君たちの万年筆です」


何人もの視線が、いっせいに自分の胸ポケットへ落ちる。


透も無意識に、ポケットの上から自分のペンを確かめていた。


「昨日、“鍵”と聞いた人も多いと思います。間違いではない。けれど、今日はもっと分かりやすく言います」


雨宮先生は万年筆を指先でくるりと回した。


「これは、逃がし口です。」


透は少し眉を上げた。


「鍋に蓋をしたまま火にかけ続けたらどうなるか、分かるでしょう」


数人が小さく頷く。


「蒸気の逃げ場がなくなって、いずれ吹きます。君たちの知覚も同じです。見えすぎる、聞こえすぎる、嗅ぎすぎる。そうやって感覚が過剰に働いたとき、何も通さず身体だけで受け止めると、熱と負荷がそのまま頭や神経にたまる」


雨宮先生は万年筆のキャップを外した。


「ペンを持つ。開く。書く。それだけで、暴れた感覚が少しだけ“形”になります。言い換えれば、身体の中だけで暴れていたものを、インクと線に逃がせる」


湊が小さく「なるほど」と呟く。


雨宮先生は、今度はもっと簡単に言った。


「万年筆は、感覚の手すりです。これがあると、行きすぎた時に戻りやすい。これがないと、滑った時にそのまま落ちやすい」


透の胸に、その言葉はすとんと落ちた。


手すり。


杭でも鍵でもいい。

だが“手すり”はよく分かる。

触れていれば、落ちそうな時に戻れる。


「全員が全員、同じだけ危ういわけではありません」


雨宮先生は周囲を見回した。


「最初からかなり自然に折り合えている生徒もいます。逆に、ここへ来るまで一度も上手く付き合えなかった生徒もいます。君たちが今どちら側にいるかは、これから分かります。焦る必要はありません」


その言葉に、透は知らず息を吐いていた。


ここには“できるやつ”も、“まだできないやつ”もいる。

その前提で授業が組まれている。

それだけで、少し肩の力が抜ける。


「では、一限。鳴瀬先生に嫌われないうちに教室へ行きましょう」


雨宮先生は穏やかに笑った。


「私の授業より、あの先生の授業のほうが初日には向いています。現実が早いので」


ざわめきの中に、ほんの少しだけ笑いが混じった。


SCENE 4 知覚制御基礎


知覚制御基礎の教室には、黒板がなかった。


白い壁。

天井から吊るされた銀の振り子。

床に引かれた細い円。

教室というより、実験室と道場を足して二で割ったような空間だ。


鳴瀬先生は教壇ではなく、円の中心に立っていた。


近くで見ると、食堂で感じたより少し若い。三十代前半くらいだろうか。眉がきりっとしていて、目元に一切の眠気がない。声は低いが、吐き出す言葉には無駄な重さがなく、よく研がれた刃物みたいにすっと飛んでくる。


「席は使いません。立って」


一年生たちが円の外側に並ぶ。


鳴瀬先生は振り子を軽く揺らし、それから言った。


「まず質問。“制御”って何だと思う?」


教室が少しだけ静まる。


湊が小さく「いきなり来たな」と囁く。

透も同じことを思っていた。


すると、さっき講義室前でノートを開いていた眼鏡の女子が、ためらいなく手を挙げた。


真壁雫まかべ・しずくです」


名前まで先に名乗るところが抜け目ない。


鳴瀬先生が顎を引く。


「どうぞ」


真壁雫はノートを閉じもせず、すらすら答えた。


「知覚制御とは、感覚入力の総量と解像度を、個体の認知処理能力および身体的限界に応じて最適化し、実用可能な範囲に維持する技術だと考えます」


教室が一瞬しんとした。


湊が透の耳元で囁く。


「百二十点の答え来たな」


透も思わず口元が緩んだ。


鳴瀬先生は真壁雫を数秒見てから、短く言った。


「長いですが。よろしい。」


教室の何人かが小さく笑う。


真壁雫は一瞬だけ悔しそうに眉を寄せたが、すぐに表情を戻した。


鳴瀬先生は振り子を揺らしながら、もっと簡単に言い直した。


「制御は、出力を盛ることじゃない。ブレーキを踏む場所を覚えることです」


その一言で、空気が変わった。


「能力があるやつほど、強く使うことを考える。でも最初に覚えるのはそこじゃない。どこで止めれば、自分も壊れず、周りも巻き込まずに済むか。そこを身体に覚えさせる」


鳴瀬先生は、円の外へ一歩出て視線を流した。


「まず一人、前に出て」


数人の肩がこわばる。


「相良」


透の喉がわずかに動く。


湊が小声で「頑張れ」と言った。


透は円の中心へ出る。


鳴瀬先生は振り子を見たまま、教室の隅の細い机を示した。そこには白紙が何枚か重ねて置かれている。


「ペンをそこへ置いて、キャップを外せ」


透は従った。


黒い万年筆を白紙の上に置く。

キャップを外す。

ニブが露出しただけで、自分の呼吸の位置が少し変わる。


鳴瀬先生は透の右目を見た。


「おまえは視覚型。で、見えると取りたくなるタイプだ」


図星だった。


「今からやるのは能力の使用じゃない。使いたくなったところで止まる練習だ」


透は思わず聞き返す。


「そんなの、分かるんですか」


「分からないならここにいない。分かるようにするための授業だ」


言い方が鋭いのに、少しだけ笑いが混じっていて、教室にまた小さな空気が生まれる。


鳴瀬先生は振り子を指した。


「銀の球を見るな。その表面に映ってる窓の白だけを追え。細部を取りに行くな。輪郭だけ残せ。“見える”手前で止まれ」


透は呼吸を整えた。


振り子が揺れる。

銀の球の表面に、窓の白い長方形が歪んで映る。

その像だけを追う。


つい、焦点を絞りたくなる。

線を立てたくなる。

細部を抜き出したくなる。

そこに手をかけた瞬間が、自分にとっての“合焦”だ。


だが今日は、そこまで行かない。


行きたい。

でも止める。


右目の奥に、熱の手前の熱が生まれた。

昨日のような焼ける痛みではない。

踏み込む寸前で止めているぶん、鈍く、薄い。


そのとき。


白紙の上に置いた万年筆のインク窓が、かすかに琥珀を深めた。


透が目を瞬く。


鳴瀬先生は頷いた。


「それだ。今、おまえが身体で受けるはずだった負荷の一部を、ペンが持っていった」


教室のあちこちで息を呑む音がする。


鳴瀬先生は振り子を止めた。


「相良。今どうだった」


透は少し考えてから答えた。


「いつもなら、もっと先まで取りに行きたくなる。でも今日のは、そこへ行く前の場所が、少しだけ分かった感じです」


「いい」


鳴瀬先生は短く言う。


「それが今日の正解だ」


透が列へ戻ると、真壁雫がノートへものすごい速度で何かを書き始めた。


鳴瀬先生は全員に向き直る。


「やり方は見せた。次は各自。一人ずつ前へ出る必要はない。自分のペンを机へ置いて、壁、光、音、匂い、触覚――自分の型に合う対象を一つ選べ。五分。できたと思っても欲張るな。失敗しても誤魔化すな」


教室が一気に動き出す。


そこで初めて、透は同級生たちの差を目の当たりにした。


真壁雫は、窓際のカーテンの揺れを見つめながら、最初からかなり安定していた。眼鏡の奥の視線は細かく動くが、呼吸が乱れない。ペン先に現れた色は、透明に近い薄い群青。制御された人間の色に見えた。


一方で、教室の後ろにいた男子は耳を押さえてしゃがみ込みかけ、別の女子は強い洗剤の匂いに顔をしかめて窓際へ避けた。


最初から自然に折り合えている者もいる。

まだ全然できない者もいる。


その差は、優劣というより“癖の出方の違い”に近かった。


湊は壁際で目を閉じていた。


大きくは息をしていない。

ただ、耳が少しだけ緊張している。


透が近づくと、湊が片目だけ開けた。


「……静かにしろ。今、隣の換気口と、窓の外の木の葉っぱ、どっちが先に鳴ってるか聞こうとしてる」


「聞こえるのか」


「半分くらい」


「十分すごいだろ」


「だから、今は黙れって」


それでも口元は笑っていた。


五分後、鳴瀬先生は全員を止めた。


「できたやつも、できなかったやつも、今日はここまで。覚えておけ。制御は格好よくない。でも、これがない能力はただの事故だ」


その言葉は、透の胸に強く残った。


SCENE 5 知覚衛生学


二限の知覚衛生学は、医務棟の隣の小教室で行われた。


教室には柑橘とアルコールの匂いが薄く混じっていて、机の上には脳の模型、金属盆、古い万年筆、ガラス瓶が並んでいる。理科室にも見えるし、診察室の待合にも見える、不思議な部屋だった。


雨宮先生は教壇に立つ前に白衣の袖をきちんとまくった。


それだけで、この先生が“説明”ではなく“手当”の側の人間なのだと分かる。


「さて」


雨宮先生は机の上の金属盆を軽く叩いた。


「さっきの鳴瀬先生の授業で、万年筆が働くところを見た人もいるでしょう。なので、今度はもっと俗っぽく説明します」


教室に少し笑いが起きる。


「難しい言葉を抜きます。万年筆は、暴れた感覚を外へ逃がす道具です。以上。……で終わると怒られるので、もう少し話します」


湊が嬉しそうに小さく吹き出した。


雨宮先生は金属盆の上に、やかんを置く真似をした。


「人間の感覚を火にかけた鍋だと思ってください。普通の人は弱火です。でも知覚者は、最初から火力が強いことがある。見えすぎる、聞こえすぎる、嗅ぎすぎる。そのまま蓋をして抱え込むと、どうなるか」


「吹きます」


真壁雫が即答する。


雨宮先生は満足そうに頷いた。


「その通り。万年筆は、その蒸気を逃がすための弁です。持つ。開く。書く。それだけで、身体の中で暴れていた感覚が、少しだけ線とインクに落ちる」


雨宮先生は自分のペンを掲げた。


「インクが色を変えるのは、君たちの知覚の熱を受け取るから。軸の重さや書き味が変わるのは、負荷のかかり方が毎回同じじゃないからです。つまり、ペンは筆記具である前に、感覚の避難口なんです」


透は胸ポケットを押さえた。


避難口。


手すり。

逃がし口。

杭。


先生ごとに言い方は違う。

でも、指している意味は同じだ。


「質問」


真壁雫がまた手を挙げた。


「ペンがあることで能力が安定するなら、逆にペンに依存する危険はないのでしょうか」


教室の何人かが感心したように彼女を見る。


雨宮先生は少し笑った。


「ある。いい質問です、真壁さん」


真壁雫の口元が、ほんの少しだけ得意そうになる。


「だから学院では、“ペンを持つこと”だけじゃなく、“ペンを通して自分の限界を知ること”を教えます。

杖を持つのが悪いんじゃない。杖なしで歩ける距離と、杖が必要な距離を知らないことが危ない」


そこで湊が手を挙げた。


「じゃあ逆に、最初からかなり普通に付き合えてる人は、ペンなくても大丈夫なんですか」


「駄目です」


雨宮先生は即答した。


教室が少し沸く。


「大丈夫そうに見える人ほど、たまに自分を過信する。それが一番厄介です。諸君、ここ重要。“俺は平気”と“本当に平気”は違います。」


「先生、刺さる人多そうです」


湊が言うと、雨宮先生は真顔で返した。


「君も含めてね」


また笑いが起きた。


その笑いのなかで、透は少しずつ、この学校の授業の温度が分かってきた。

ここは“すごい力”を見せて拍手する場所じゃない。

どうしたら壊れずに済むかを、妙に現実的な言葉で教える場所だ。


そしてその現実味が、透にはむしろありがたかった。


SCENE 6 昼休みと、小さな違和感


昼の玻璃宮学院は、朝より少しだけ華やいで見えた。


霧が引き、中庭の石畳へ冬の光がまっすぐ落ちている。中央の水盤は空の白をそのまま映し、回廊の柱は細長い影を床へ作っていた。白い大理石も、朝の冷たさではなく、昼の明るさを帯びている。


湊は食堂で奪い取ってきたような勢いのあるサンドイッチを片手に、回廊の手すりへもたれた。


「授業、思ったより面白いな」


「思ったよりって何だよ」


「もっと座学で眠くなるかと思ってた。でも鳴瀬先生、普通に圧あるし」


「雨宮先生の説明も分かりやすかった」


「鍋のやつな。あれは助かった。俺、ちょっと泣きそうになったもん。“あ、そういうことか”って」


透は笑った。


湊がこちらを見る。


「で、どうだった。今日の相良」


「何が」


「朝より顔がマシ」


「それはおまえがうるさいからだろ」


「ひどいな。俺のおかげで緊張ほぐれてるんだろ」


「ちょっとだけな」


湊は満足そうに頷く。


そのとき、中庭の反対側の回廊を一人の教師が横切った。


灰色の三つ揃い。細い体。白髪。古いファイルを何冊も抱えているのに、歩くたび紙一枚もずれない。顔立ちは穏やかに見えるのに、近づくとたぶん怖い種類の整い方をしている。


「あれ誰だ」


透が聞くと、近くを通りかかった上級生が答えた。


御厨国継みくり・くにつぐ先生。学院史」


「歴史の先生?」


「そう。でも、あの先生の授業は歴史っていうより“学院の空気の読み方”に近い」


上級生はそれだけ言って去っていった。


湊がサンドイッチを飲み込む。


「空気の読み方って、何だよ」


透は御厨先生の背中を目で追った。

先生は西側の回廊へ消えていく。

そちらだけ、昼なのに影が深い気がした。


「午後、あの先生の授業だよな」


湊が言う。


「ちょっと楽しみかも」


「おまえ、わりと何でも楽しむな」


「そりゃそうだろ。どうせ三年いるんだから」


その言い方に、透は少しだけ黙った。


三年。


その響きは長い。

けれど家にいた時間の長さを思えば、ここで過ごす三年はもしかしたら“やっと自分のものになる時間”かもしれなかった。


そのとき、中庭の端で真壁雫が誰かと言い合っているのが見えた。


相手は二年生らしい男子で、どうやら授業で使うノートの形式について何か教えているらしい。

真壁雫は一歩も引かない顔で、きっちり言い返している。


湊が感心したように言う。


「あの子、強いな」


「頭がいいだけじゃないみたいだ」


「俺、ああいうの嫌いじゃない」


透も同意した。


今日一日でまだ名前を覚えた人間は多くない。

でも、ここにはちゃんと“人”がいる。

ただ設定のために並んでいる知覚者じゃない。

それが少しずつ見えてくる。


SCENE 7 学院史


学院史の授業は、普通の教室ではなかった。


本校舎の西側、廊下が少し細くなった先にある展示回廊。

壁には古い集合写真、創立当時の設計図、万年筆の試作品、学院の制服の変遷。ガラスケースに入れられた品々には、どれも静かな重みがあった。


御厨先生はその回廊の入口に立っていた。


近くで見ると、予想よりずっと整った顔をしている。

ただし優しさで整っているのではない。

時間を長く見続けた人間の、少し乾いた整い方だ。

灰色の三つ揃いは皺ひとつなく、白い指先だけがやけに長い。


「今日は座りません」


御厨先生は淡々と言った。


「学院の歴史は、机の上で覚えるものではないからです」


声は低く、抑揚は少ない。

なのに聞き逃せない。

一語ごとの輪郭が妙にはっきりしていた。


「玻璃宮学院は、一九二八年に現在の形を取りました。ただし、その前身にあたる観測舎まで含めるなら、始まりはもっと古い」


御厨先生は歩き出す。


一年生たちも続く。


「感応省より先に、この学院はありました。国家が知覚者を“管理対象”として数え始める前、医師、建築家、そして筆記具職人が、行き場をなくした子どもたちを匿う場所として始めた」


透は足を止めそうになる。


匿う場所。


御厨先生は振り返らない。


「最初から学校だったわけではありません。むしろ逆です。帰れなくなった者が、帰るための方法を習う場所だった」


その言葉は、透の胸のどこかへ深く落ちた。


帰るための方法。


家へ戻ることではない。

壊れずに世界へ戻る方法のことだと、今なら分かる。


御厨先生は展示ケースの前で立ち止まった。


そこには、古い万年筆が何本も並んでいる。どれも現代のものより太く、武骨で、装飾も少ない。


「初期の万年筆は、今ほど洗練されていません。知覚の補助具というより、矯正具に近かった。重く、扱いづらく、持ち主を選ぶ」


真壁雫が手を挙げる。


「先生。万年筆の機構が現在型へ改良されたのは、感応省成立の前ですか、後ですか」


御厨先生は一拍置いて答えた。


「前です。学院は省庁の道具として万年筆を発展させたのではない。生徒を壊さないために発展させた」


真壁雫は満足そうにノートを取る。


御厨先生はまた歩き出した。


そして、西側の回廊の突き当たりで、足を止めた。


そこだけ空気が違った。


先へ続く廊下は鎖で封じられ、向こうの窓には板が打たれている。壁の古時計は止まり、光も少しだけ遅れて届くように見えた。


「ここが旧西棟です」


一年生たちの空気が変わる。


湊が小さく息を呑んだのが、透にも分かった。


御厨先生は鎖の向こうを見たまま言う。


「玻璃宮学院の歴史には、二度の大きな転換があります。一つは感応省の成立。もう一つは、西棟閉鎖」


誰かが恐る恐る聞いた。


「何があったんですか」


御厨先生はその生徒を見ない。


「学院史では“観測災害”と記されています」


それだけで、十分に不穏だった。


「災害って……事故ですか」


今度は湊が口を挟む。


御厨先生は、ようやく少しだけ振り返った。


「事故と呼ぶには、人の意思が強すぎた。事件と呼ぶには、学院そのものが巻き込まれすぎた。だから“災害”という名前に落ち着いています」


回廊の空気が冷える。


「上級学年になれば学びます。

一年のうちは、近づかないことだけ覚えなさい」


それだけ言って、御厨先生は踵を返した。


説明を渋ったのではない。

今はここまで、と最初から線を引いている話し方だった。


授業の最後、御厨先生は一枚の古い集合写真の前で立ち止まった。


戦前の制服を着た生徒たち。

中央に立つ教師。

その手元だけ、なぜか白く飛んでいる。


「歴史は、過去の話ではありません」


御厨先生の指先がガラスを軽く叩く。


「学院では、昔の出来事が、ときどき今の生徒の前へ戻ってくる。

だから覚える。

忘れると、同じ場所で同じことが起こるからです」


チャイムはない。

だが授業の終わりは、その言葉で十分だった。


SCENE 8 夕方の寄宿舎


夕方になると、霧はまた学院を抱き始めた。


授業を終えて寄宿舎へ戻る道すがら、白い息がぽつぽつ浮く。中庭の水盤は薄く曇り、回廊のガラスに灯りが映り始める。玻璃宮学院は昼も美しいが、夕方になると途端に“秘密を持っている建物”の顔になる。


夕食のあと、一年生は談話室へ集められた。


寮監の芦原先生は五十代くらいの男で、眼鏡の奥の目は穏やかだが、靴の泥のつき方まで見逃さなそうな人だった。言葉は少ない。少ないが、その少なさが逆に効く。


「消灯は十時半。十時以降の棟移動は禁止。旧西棟へ近づかない。以上」


誰かが恐る恐る聞く。


「旧西棟って、本当にやばいんですか」


芦原先生は表情を変えずに答えた。


「近づかなくて済むものに、わざわざ近づく必要はありません」


「それ、答えになってないですよね」


湊が小声で透に囁く。


「十分答えだろ」


透も小さく返した。


談話室を出るとき、透は廊下の掲示板へ目をやった。時間割、当番表、寮則。それらの端に、教職員一覧の紙が貼られているのが見える。


名前の数は意外と多い。

だが、そこにはまだ“誰がどこまで学院の人間なのか分からない”曖昧さもあった。


部屋へ戻ると、外はもう群青色だった。


湊はベッドへ倒れ込み、腕で目を隠した。


「はー……濃い。二日目でこれ、三年持つかな」


「おまえは持つだろ」


「相良の中の俺、評価高いな」


透は机へ座り、胸ポケットから万年筆を出した。


黒い軸を指のあいだで転がす。

今日だけで何度も説明を聞いた。

手すり。逃がし口。蒸気の弁。杭。


昨日までは、この力を使うたび、自分の身体だけで引き受けていた。

痛みも熱も、全部そのまま頭の奥へ溜めていた。


けれど今、掌にあるこの一本は、それを少しだけ外へ渡す方法があると教えている。


「なあ」


ベッドのほうから湊の声がした。


「相良、昨日までほんとにペンなしでやってたのか」


「やってた」


「無茶だろ」


透は少し考えた。


「無茶っていうか……他に方法知らなかった」


「家でも誰にも言ってなかったのか」


「言えるわけないだろ」


部屋が少し静かになる。


湊は腕をどけ、天井を見ながら言った。


「そっか」


それ以上は踏み込まない。


けれど透には、それで十分だった。


そのとき。


カン、と。


どこかで小さな金属音が鳴った。


透も湊も同時に顔を上げる。


音は遠い。

寄宿舎の廊下ではない。

もっと乾いていて、もっと古い場所から来たような響きだった。


湊の表情が変わる。

耳が、見えない方角を探るみたいにわずかに傾く。


「……西だ」


「旧棟か」


「たぶん」


二人とも、そのまま息を潜めた。


次の音は来ない。


窓の外で風が木を鳴らす。

霧がガラスを薄く曇らせる。


やがて湊が小さく息を吐いた。


「今の、追いかけたらだめなやつだ」


「分かるのか」


「分かる。

行ったら面倒になる音と、行っても平気な音くらいは」


「雑な分類だな」


「でも当たる」


透は少しだけ笑った。


それでも胸の奥には、御厨先生の言葉が残っていた。

昔の出来事は、戻ってくる。


ガラスの向こう、霧の先へ視線をやっても、西側の棟は見えない。

見えないのに、そこに何かある気がする。


SCENE 9 校外・朝倉紬


同じ夕方、都内の青嶺陵高等学校では、事務室の前に朝倉紬が立っていた。


保護されてから数日。

まだ夜になると、急に車のドアの音がよみがえる。

けれど体は戻った。授業も受けている。母親はもう「考えなくていい」と言う。


それでも紬は、どうしても引っかかっていた。


合格発表の日。

掲示板の前で見かけた、受験票を拾ってくれたあの少年。

相良透。

彼は確かに合格していた。

その直後、学校の職員に呼ばれ、校舎の奥へ連れていかれた。

そして、そのあとぱたりと姿を見なくなった。


今日はそのことを聞きに来たのだ。


事務室の窓口の女性は、丁寧な笑顔で対応した。


「申し訳ありません。個人情報ですので」


「でも、同じ受験生で……お礼を言いたいだけなんです」


「お気持ちは分かります。ただ、進学先についてもこちらからはお答えできません」


進学先。


その言葉に、紬の眉がぴくりと動いた。


「相良くん、合格してましたよね」


「はい」


「なのに、進学先が別なんですか」


窓口の女性は一瞬だけ言葉を止め、それから曖昧に微笑んだ。


「そうした手続きがありました、とだけ」


紬は事務室を出た。


廊下の掲示板には、教職員一覧が貼ってある。

校長、教頭、進路指導、事務、学年主任。顔写真つきの欄もある。


紬はそこへ目を走らせた。


発表の日、相良透を連れていった大人は二人いた。

白髪の男。黒いスーツの女。


だが、どの欄にもその顔はない。


紬は一歩、掲示板へ近づいた。


進路指導の先生でもない。

事務でもない。

外部面接官の一覧にもない。


つまり、あの二人はこの学校の人間ではなかった。


背筋に薄いものが走る。


じゃあ、誰だったのか。


相良透は、どこへ行ったのか。


紬は鞄からノートを出した。


書く。


相良透 合格後すぐ進路変更

発表日に呼び出し

連れていった男女は青嶺陵の教職員ではない


そのとき、背後で靴音が止まった。


紬は反射的に振り向く。


廊下の突き当たりに、中年の男が立っていた。

灰色のコート。手には何も持っていない。

ただ、こちらを見ている。


じっと、ではない。

様子をうかがうように。

こっちがどこまで気づいているのかを測るみたいに。


目つきが妙だった。

怒っているわけでも、笑っているわけでもない。

ただ、獲物がどちらへ逃げるかを見ている人間の目だった。


紬はノートを閉じる。


男はそれを見て、ほんの少し口元を動かした。

微笑みかけたようにも見えたが、目はまったく笑っていない。


次の瞬間、事務室の扉が開き、教師が一人出てきた。


その気配に紬が一瞬視線をそらし、もう一度男のいた場所を見る。


誰もいなかった。


廊下には掲示板と、自分の息だけが残っている。


紬はノートを胸へ抱えた。


相良透を探そう。

そう決めた瞬間から、世界の裏側にもう一枚、知らない膜がある気がしてならない。


SCENE 10 旧西棟の前


夜。


玻璃宮学院の西側は、ほかの棟より先に暗くなる。


霧のせいだけではない。

明かりが、そこだけうまく届かないのだ。


旧西棟の前に、一人の男が立っていた。


学院の営繕係の制服。灰色の作業着。工具箱。年齢は五十代前後。背は高くない。どこにでもいそうな、印象の薄い顔。


だが、その顔は今、ほんの少しだけ空っぽだった。


男は鎖の前で立ち止まり、ポケットから鍵を出す。

差し込み、回す。

金属が噛み合う音は、驚くほど小さい。


扉の向こうは暗い。


男が一歩、足を踏み入れたそのとき。

耳の後ろの皮膚が、わずかに盛り上がった。


黒い筋のようなものが、皮膚の下で動く。

煙にも、根にも見えるそれが、首筋から顎へ、顎からこめかみへ、ゆっくり這い上がる。


男の目が、一瞬だけ濁った。


次に開いたとき、その瞳の奥には、男自身ではない“何か”がいた。


「……まだ足りない」


男の口が動く。


だが声は男のものではない。

乾いて若く、どこにも体温がない。


旧西棟の暗がりの奥、止まった時計が月光を鈍く返す。


「器も、熱も、まだ足りない」


男の指先が壁に触れる。

古い石の向こうに眠っているものの鼓動を、確かめるみたいに。


「だが、集まってきた」


その目が、寄宿舎の方角を見る。


「学院は昔と同じだ。

傷を抱えた子を集め、守り、育てる」


口元だけが、ゆっくり吊り上がる。


「だからこそ、育ったところを喰えばいい」


霧が割れた窓の隙間から細く入り込む。

その白の中で、男の影だけが不自然に黒かった。


遠く、寄宿舎の消灯の鐘が鳴る。


それを聞きながら、“分身”は古い廊下の奥へ、音もなく歩き出した。

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