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第148話 動き出す森の巨人

「はーやれやれ、勝って終わりってわけにいかないから戦いは面倒だねえ」


 蔦でぐるぐる巻きにして捕まえた『敵』を引きずって、巫女服の学園長、倶利 せきなは一足先に馬車のもとへと戻った時のことだった。


「……? ねえ妹ちゃん、ここってこんなに雑草が生えてたっけ?」

「え? いえ……生えてなかったと思いますけど」


 たどり着いた馬車の前、土がむき出しになった道であったはずのそこは、何故か雑草が茂る場所になっていた。

 そして知らないゴーレムが立っており、何故かそれは動かない。


「あー、もしかしてこっちでも戦いがあったのかな。グリムー、元気してるかい?」

「おお、お主らも無事じゃったか! まあお主らが負けるとも……おお、それが敵か? 捕まえてくれたのか!」


 馬車の陰からぴょんとグリムが飛び出して、ぐるぐる巻きにされた『敵』を見て言った。


「そうだよ。気絶させて縛っておいたからしばらくは動けないからその辺に置いておこうか。正直に全部話させるならウチの子で適任がいるんだけどねえ。まだ戻ってないのかな」

「ん……そのようじゃな。セイギも負けるようなやつではないと思うのだが……」


 とその時、一筋の闇が一瞬だけ空を走った。


「おっと、噂をすればってやつかな。巨人の方に行ったらしい……あそうだ、流石にこのあたりなら木崎ちゃんたちと通信できるんじゃないか? っていうかきっとあの巨人はそう言うことだろ!」

「お、そう言えばそうじゃった! えっと宗右衛門殿の通信石は……」

「あ、私です私が持ってます! しまった、すっかり気づかなかった! もしもーし!」


 そうジョンソンが叫ぶと、チカチカと黄色い通信石が点滅して、


「なんだこんな時に……ジョンソン! あっはは、よりによって今か! 全く、丁度良かった! 今すぐ手伝ってほし……」


 待ちに望んだ声が、聞こえた。


「宗右衛門! 聞こえますか! あの巨人が見えてますか!?」

「だか……れは……見えてる! と言うか今戦ってる! さっき得体のしれない連中がそっちに行ったが大丈夫か!?」

「それはもう倒しました!」

「そうか、こっちは……ちょっと今手が離せない! 来てくれ! じゃあな!」


 それきりぷつりと通信は途切れて、通信石は光を失う。

 しかし代わりにそこにいた面々の瞳に輝きが戻って、


「わたし、行ってきます! 良いですよね先生!」

「ああいいよ、ただし死なないようにね」

「分かってます!」


 まだ与力を残していた香撫が、兄の飛んだ方へ全速力で続いた。


「……さてと。ここから先は……ちょっとした大人の時間ってやつかな」

「う、ううん……ここは?」


 そして、女が一人目を覚ました。


 ――わずかに時間は戻って、精霊王が激高した直後。


 白く発光する球体となった精霊王は、下僕のようにおとなしく控える巨人の方へ飛び、代わりに巨人の中からは三つの緑の球体が飛び出した。


「?」

「何?」

「人……? あの鳥籠の中にいたの?」

「どこから来てどこへ行くつもりか知らないが、流石にこれは放置できんな……くそ、ホウヨウ、見えるか?」

「少し待って……見えた。近くに降り立ったみたい。……近くに何かいる」

「私達以外に、白の森の敵が……この森に来てるってこと?」

「いても不思議ではないが……背後を取られないなら僥倖か。アレをとにかくどうにかしよう。白の森とやらの出口も近そうだしな」


 刀を構え、笑い、宗右衛門は言った。

 が、それに対して冷ややかな視線を向けて、ホウヨウが呟く。


「……宗右衛門。一応言っておくけど、出口はまだ遠い」

「え?」


 驚いた宗右衛門に対して、天音が補足するように口を開いた。


「えっと……確かにもうほとんどあの大きな木は生えてないけど、別にアレが生えてるところが白の森ってわけじゃなくて……この森自体が、生えてる木に関係なく白の森なの」

「……そうか。すまん、ぬか喜びしていた」

「間抜け」

「き、気持ちはわかるから……! そ、それにほら、巨人が動いてる!」

「あ」


 精霊王を取り込んだ巨人は、動いてはいるもののその動きはかなり遅く、はた目にはゆっくりと右腕を上げただけだ。

 しかしよく見ると、黄緑色の光が巨人の足元から仄かに立ち上り、明滅しながら腕の先端へと集まっていく。


「……何かを集めてる」

「良い予感はしないな……」

「……逃げ場なんてない。立ち向かうしかないけど……二人とも、大丈夫?」

「今更」

「これ以上の追手などそうはいない。鬼や化生もここまでのものはなかろうよ。そう思えば……剣士として、心が躍るだけだな」


 そこへ風が吹いて、森の木々をざわざわと揺らした。

 とっくに近くにいた鳥や獣は逃げ去って、辺りに生物の気配はない。


「……スペース。きっとあと少しだから。もう少しだけ、力を貸して」

「返答します。……マスター、あなたと私は一心同体です。だから……」


 巨人が指を伸ばして、黄緑色の光が放たれる。


「……これからも、この先も! 勝って、生きましょう!」


 その声と同時に、三人が動いた。

 狙いを定めたわけではなく、周囲に降り注ぐ黄緑の光。

 それらは木々や地面に着弾すると、そこから木偶を産み出し始めた。


「こういう代物か……ホウヨウ! 一度俺を地面に下ろせ! 下は俺一人で片づける!」

「わかった」


 次の瞬間、ふっ、と宗右衛門を浮かせていた力が消え、走る速度で地面に転がり落ち、そのまま速度を落とすことなく地面を転がり、起き上がりざまに走り出す。


「マッテェ」

「トマッテェエエ」


 その先には、木偶が2体。


「トマ」

「マッ」

「悪いな、貴様らの話を聞いている暇がない」


 走りながらそれらを両断して、次の木偶へと向かっていった。


「マママママママ」

「おっと……」


 木の上に立ち、そこからさらに腕を伸ばして空を飛ぶホウヨウたちを狙う木偶を見つけると、宗右衛門が選んだのは、足場の破壊。

 ――つまり、木を断つ斬撃だった。


「マ!?」


 足場にしていた木ごと倒れ、


「マ゛ッ」


 その先で、貫かれた。

 しかし周りにはまだ歪んだ地面と、木々と、周囲から襲い来る木偶が尽きない。


「全く、合戦めいてきたな……ま、一度も出たことはないんだがな」


 そう言って背後から襲い来る木偶を三体、振り向きざまに断ち切る。

 そして同じころ、ホウヨウと天音が空中で、巨人を倒す戦略を相談していた。


「あの大きさだと、多分魔法が通らない」

「以前、別の場所でだけど……巨人と戦ったことがある」

「……驚愕。その時はどうしたの?」

「その時は……えっと、その国の魔術師が集まって『火の鳥』を作って、ほとんどそれで倒してた」

「……本当の話?」

「ほ、本当なの! で、ああいう巨人には核があるから、それを壊せば……」

「なるほど。でも……だとすると、厄介」

「厄介?」

「今回そのコアはたぶん、さっきの精霊。その証拠に、あの精霊が入ってからようやく動き出した」

「あっ……」


 言われてみればそうだ、と天音は気づいた。


「でも、今の話は面白かった。火の鳥。作ってみても面白いかもしれない」

「え?」

「私も、火の鳥を作って……」

「待って待って、ここは森! 万が一のことがあったらシャレにならない! 火の鳥はダメ、それはやめて!」

「むぅ。じゃあどうするの」


 ホウヨウはむくれて言ったが、天音としては森を焼き払うマネはしたくない。

 慌てて止めた代償として、代案を必死で考え始めた。


「足場……はさっき崩されたし、宗右衛門さんが敵を刈ってる最中だから手が出せない、電撃も……あの大きさじゃ雷でもダメそうだし……」


 今はこうして巨人の周りを旋回して何かないか探しているが、打開策は思いつかない。

 そして巨人の背の一点が赤く光ったかと思うと、


「来る」

「避けて!」


 二人を狙って、炎の弾丸が放たれた。

 今は遠巻きに飛んでいたので楽に回避に成功したが、牽制程度の攻撃だろう。

 こうしている間にも、ゆっくりと巨人は歩を進め、動き出す。


「まずい、だんだん動きが早くなっていく。何か方法……」

「……考え方を変えましょう、何があれば、アレを倒せる?」

「強い炎」

「ダメ、森は焼けない」

「……強い冷気」

「あの木を凍らせられるかって言うと……」

「雷もダメ、足場もダメ……大きな刀? でも、さっきの合体技でも鳥籠を壊しただけで精いっぱい。何か鎌みたいなものであの根の一本でも刈り取らないと……」


 鎌。そう言われて、天音が思い出すのは一つだけだ。

 しかしそんなものが都合よく……と思った、次の瞬間。


「木崎さん!」


 ――待ちに望んだ、声が聞こえた。

「はーやれやれ、勝って終わりってわけにいかないから戦いは面倒だねえ」


 蔦でぐるぐる巻きにして捕まえた『敵』を引きずって、巫女服の学園長、倶利 せきなは一足先に馬車のもとへと戻った時のことだった。


「……? ねえ妹ちゃん、ここってこんなに雑草が生えてたっけ?」

「え? いえ……生えてなかったと思いますけど」


 たどり着いた馬車の前、土がむき出しになった道であったはずのそこは、何故か雑草が茂る場所になっていた。

 そして知らないゴーレムが立っており、何故かそれは動かない。


「あー、もしかしてこっちでも戦いがあったのかな。グリムー、元気してるかい?」

「おお、お主らも無事じゃったか! まあお主らが負けるとも……おお、それが敵か? 捕まえてくれたのか!」


 馬車の陰からぴょんとグリムが飛び出して、ぐるぐる巻きにされた『敵』を見て言った。


「そうだよ。気絶させて縛っておいたからしばらくは動けないからその辺に置いておこうか。正直に全部話させるならウチの子で適任がいるんだけどねえ。まだ戻ってないのかな」

「ん……そのようじゃな。セイギも負けるようなやつではないと思うのだが……」


 とその時、一筋の闇が一瞬だけ空を走った。


「おっと、噂をすればってやつかな。巨人の方に行ったらしい……あそうだ、流石にこのあたりなら木崎ちゃんたちと通信できるんじゃないか? っていうかきっとあの巨人はそう言うことだろ!」

「お、そう言えばそうじゃった! えっと宗右衛門殿の通信石は……」

「あ、私です私が持ってます! しまった、すっかり気づかなかった! もしもーし!」


 そうジョンソンが叫ぶと、チカチカと黄色い通信石が点滅して、


「なんだこんな時に……ジョンソン! あっはは、よりによって今か! 全く、丁度良かった! 今すぐ手伝ってほし……」


 待ちに望んだ声が、聞こえた。


「宗右衛門! 聞こえますか! あの巨人が見えてますか!?」

「だか……れは……見えてる! と言うか今戦ってる! さっき得体のしれない連中がそっちに行ったが大丈夫か!?」

「それはもう倒しました!」

「そうか、こっちは……ちょっと今手が離せない! 来てくれ! じゃあな!」


 それきりぷつりと通信は途切れて、通信石は光を失う。

 しかし代わりにそこにいた面々の瞳に輝きが戻って、


「わたし、行ってきます! 良いですよね先生!」

「ああいいよ、ただし死なないようにね」

「分かってます!」


 まだ与力を残していた香撫が、兄の飛んだ方へ全速力で続いた。


「……さてと。ここから先は……ちょっとした大人の時間ってやつかな」

「う、ううん……ここは?」


 そして、女が一人目を覚ました。


 ――わずかに時間は戻って、精霊王が激高した直後。


 白く発光する球体となった精霊王は、下僕のようにおとなしく控える巨人の方へ飛び、代わりに巨人の中からは三つの緑の球体が飛び出した。


「?」

「何?」

「人……? あの鳥籠の中にいたの?」

「どこから来てどこへ行くつもりか知らないが、流石にこれは放置できんな……くそ、ホウヨウ、見えるか?」

「少し待って……見えた。近くに降り立ったみたい。……近くに何かいる」

「私達以外に、白の森の敵が……この森に来てるってこと?」

「いても不思議ではないが……背後を取られないなら僥倖か。アレをとにかくどうにかしよう。白の森とやらの出口も近そうだしな」


 刀を構え、笑い、宗右衛門は言った。

 が、それに対して冷ややかな視線を向けて、ホウヨウが呟く。


「……宗右衛門。一応言っておくけど、出口はまだ遠い」

「え?」


 驚いた宗右衛門に対して、天音が補足するように口を開いた。


「えっと……確かにもうほとんどあの大きな木は生えてないけど、別にアレが生えてるところが白の森ってわけじゃなくて……この森自体が、生えてる木に関係なく白の森なの」

「……そうか。すまん、ぬか喜びしていた」

「間抜け」

「き、気持ちはわかるから……! そ、それにほら、巨人が動いてる!」

「あ」


 精霊王を取り込んだ巨人は、動いてはいるもののその動きはかなり遅く、はた目にはゆっくりと右腕を上げただけだ。

 しかしよく見ると、黄緑色の光が巨人の足元から仄かに立ち上り、明滅しながら腕の先端へと集まっていく。


「……何かを集めてる」

「良い予感はしないな……」

「……逃げ場なんてない。立ち向かうしかないけど……二人とも、大丈夫?」

「今更」

「これ以上の追手などそうはいない。鬼や化生もここまでのものはなかろうよ。そう思えば……剣士として、心が躍るだけだな」


 そこへ風が吹いて、森の木々をざわざわと揺らした。

 とっくに近くにいた鳥や獣は逃げ去って、辺りに生物の気配はない。


「……スペース。きっとあと少しだから。もう少しだけ、力を貸して」

「返答します。……マスター、あなたと私は一心同体です。だから……」


 巨人が指を伸ばして、黄緑色の光が放たれる。


「……これからも、この先も! 勝って、生きましょう!」


 その声と同時に、三人が動いた。

 狙いを定めたわけではなく、周囲に降り注ぐ黄緑の光。

 それらは木々や地面に着弾すると、そこから木偶を産み出し始めた。


「こういう代物か……ホウヨウ! 一度俺を地面に下ろせ! 下は俺一人で片づける!」

「わかった」


 次の瞬間、ふっ、と宗右衛門を浮かせていた力が消え、走る速度で地面に転がり落ち、そのまま速度を落とすことなく地面を転がり、起き上がりざまに走り出す。


「マッテェ」

「トマッテェエエ」


 その先には、木偶が2体。


「トマ」

「マッ」

「悪いな、貴様らの話を聞いている暇がない」


 走りながらそれらを両断して、次の木偶へと向かっていった。


「マママママママ」

「おっと……」


 木の上に立ち、そこからさらに腕を伸ばして空を飛ぶホウヨウたちを狙う木偶を見つけると、宗右衛門が選んだのは、足場の破壊。

 ――つまり、木を断つ斬撃だった。


「マ!?」


 足場にしていた木ごと倒れ、


「マ゛ッ」


 その先で、貫かれた。

 しかし周りにはまだ歪んだ地面と、木々と、周囲から襲い来る木偶が尽きない。


「全く、合戦めいてきたな……ま、一度も出たことはないんだがな」


 そう言って背後から襲い来る木偶を三体、振り向きざまに断ち切る。

 そして同じころ、ホウヨウと天音が空中で、巨人を倒す戦略を相談していた。


「あの大きさだと、多分魔法が通らない」

「以前、別の場所でだけど……巨人と戦ったことがある」

「……驚愕。その時はどうしたの?」

「その時は……えっと、その国の魔術師が集まって『火の鳥』を作って、ほとんどそれで倒してた」

「……本当の話?」

「ほ、本当なの! で、ああいう巨人には核があるから、それを壊せば……」

「なるほど。でも……だとすると、厄介」

「厄介?」

「今回そのコアはたぶん、さっきの精霊。その証拠に、あの精霊が入ってからようやく動き出した」

「あっ……」


 言われてみればそうだ、と天音は気づいた。


「でも、今の話は面白かった。火の鳥。作ってみても面白いかもしれない」

「え?」

「私も、火の鳥を作って……」

「待って待って、ここは森! 万が一のことがあったらシャレにならない! 火の鳥はダメ、それはやめて!」

「むぅ。じゃあどうするの」


 ホウヨウはむくれて言ったが、天音としては森を焼き払うマネはしたくない。

 慌てて止めた代償として、代案を必死で考え始めた。


「足場……はさっき崩されたし、宗右衛門さんが敵を刈ってる最中だから手が出せない、電撃も……あの大きさじゃ雷でもダメそうだし……」


 今はこうして巨人の周りを旋回して何かないか探しているが、打開策は思いつかない。

 そして巨人の背の一点が赤く光ったかと思うと、


「来る」

「避けて!」


 二人を狙って、炎の弾丸が放たれた。

 今は遠巻きに飛んでいたので楽に回避に成功したが、牽制程度の攻撃だろう。

 こうしている間にも、ゆっくりと巨人は歩を進め、動き出す。


「まずい、だんだん動きが早くなっていく。何か方法……」

「……考え方を変えましょう、何があれば、アレを倒せる?」

「強い炎」

「ダメ、森は焼けない」

「……強い冷気」

「あの木を凍らせられるかって言うと……」

「雷もダメ、足場もダメ……大きな刀? でも、さっきの合体技でも鳥籠を壊しただけで精いっぱい。何か鎌みたいなものであの根の一本でも刈り取らないと……」


 鎌。そう言われて、天音が思い出すのは一つだけだ。

 しかしそんなものが都合よく……と思った、次の瞬間。


「木崎さん!」


 ――待ちに望んだ、声が聞こえた。

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