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第125話 敵国の敵国は味方の国?

「何のつもりと言われてもな、わらわ達は虜囚の交換に向かい、ついでに次期王権を誰が手にするか決めるだけじゃよ」


 カップを机に置いて、グリムさんが言った。

 それに対して白虎女は腕を組んで、挑発するように言う。


「ふうん、それで、そこのが第3王女の『チア』? 部隊を全滅させられたんだっけ? その割に元気そうだね」

「そう見えるのならお前の目が節穴だな」

「ご高説どーも。それで残りが護衛ってこと? 人間ばっかりなのは商会にでも手配してもらったのかな?」

「答える義理はない」

「ごもっとも。言っておくけど、貴女達がここから無事に出られると思わないでね。あと一声でここにアタシの仲間がなだれ込んで、貴女達を拘束できる。生意気な態度はとらない方が身のためだよ」


 ぱちん、と女――バルバラが指を鳴らすと、どかどかと鎧姿の連中が入ってきて、食堂にいた客を追い払ってしまった。

 そしてテーブルも隅に片付けて、僕らは包囲されたことになる。


「なんかこいつら調子に乗ってますね。殺しますか?」

「ちょっと黙れお前」


 最近のマカって何となく好戦的だな。

 とか思いながら、入ってきた奴の数を数えると……20。バルバラと足して21。

 どうしたもんかなあ。


 建物の外では雷が鳴り、雨もかなり激しい。

 どっちにしろこの馬宿からは出られなさそうだけど、こいつらどうするつもりなんだろう。


「大人しくついてきてもらえると助かるんだけど。お互いにケガはしたくないでしょ?」

「この雨の中連れ回されるのか?」


 僕がそう口を挟んだのが意外だったのか、それとも考えてなかったのか、驚いたあとに視線をそらして考える素振りをして、


「……馬車の荷台に載せてあげるから。そこは心配しなくて良いよ」


 素直にそう答えた。

 こいつ割と単純そうだなあ。


「そりゃどうも……それで、連れて行かれたとして、その後はどうなるんだ?」

「さあ。そーゆーのは上の連中が決めることだしねー。知らない」

「じゃあ殺されるかもしれないんだろ、だったらついていくわけあるか」

「え……そっ、それはわかんないけど多分大丈夫だから!」


 多分て。


「とにかくアンタ達はアタシ達についてきて!」

「断る。大体、そもそもお前らはなんなんだよ。こんなタイミングで誘拐とか、今どきの強盗団はやることが派手だなおい!」

「むかっ」


 僕の挑発に、白虎女が明らかに機嫌を損ねる。


「アタシ達が……強盗団……?んなわけないでしょこの格好見てわかんないの!?」

「シャツと短パンじゃん」

「後ろ!あっち!私達はトラングル王国の正規軍!わかる?正・規・軍なの!」


 その言葉に後ろがざわつく。


「正規軍がこんなところに何の用だよ」

「決まってるじゃん!白の森と黒の森が仲違いしてるなんて言ってるけど、アタシ達の国はその間にあるんだよ? ノコノコやってくる黒の森を素通りさせるわけないじゃない! クレイセン王国から迂回してくるかとも思ったけど、そっちの報告はなかったから案の定ね!」


 ふふん、と豊かな胸を反らして、得意げな様子の白虎女。

 しかし何かにふと気づいて、


「……あっヤバっ。これ言っちゃダメな奴だったかもしんない。まーでも捕まえちゃえば良いか。みんな……」


 そこまで呟いた瞬間、木のお盆が飛来した。


「ふんぎゃっ!」

「おめー何やってんだこのバカがぁ〜!」


 そして見事にバルバラの頭にクリーンヒットして、木のお盆もブーメランみたいに『そいつ』の手に戻る。


「先輩!?」


 兵士の包囲を割って入ってきたのは、さっきの羊女だった。

 ここの馬宿の従業員のはずのそいつは、ずかずかとバルバラに詰め寄って、羊女が白虎女を下から睨みつけている。


「せっっっかく私がお膳立てしたのにぜ~んぶ台無しじゃねーかあほー!」

「えっなんすかリコッペ先輩!あたし言われた通りにしてるっすよ!」

「どこが言われた通りじゃ言うてみい!」


 小柄な羊女が白虎女の頭に飛びついて、両側から拳をぐりぐりしている。


「えだって怪しいやつがいて、怪しかったんでしょ〜? それでどう見てもエルフで、鳥のやり取りまでしてたら黒の森の関係者確定じゃないですか、だからここで捕まえるだけでしょ?」

「最後のは誰が言ったんだ誰がぁ〜!」

「え?」

「『商会』が仕切ってる馬宿で騒ぎ起こして良い訳ねーだろあほー! この宿さえ出たら一本道なんだから好きなだけ包囲できたのに、何っでよりによってここで話しかけてんだぁ〜!」

「……」


 あっやっちゃった、と言わんばかりに白虎女は目を見開き、八重歯を覗かせながら目をそらし、ダラダラと冷や汗を流す。


「……てへっ」

「てへっ、じゃねーだろアホー! とにかくテーブル戻して追い出した人たちに頭下げろ! お前らもほいほい従ってないでちったあ考えて動けぼけー! ほら行動!」


 ぱん!

 と手を叩くやいなや、周りの兵士たちがバタバタとテーブルや椅子を片付け始める。


「ちょっとぉー、なんの騒ぎぃー? こんな大雨のときに……」


 とそこへ、馬面の獣身族が現れ、そこへリコッペが駆け出した。


「大丈夫です女将さん! ケンカになりそうでしたがどうにかしました!」

「そーおー? ならいいけど、ここは誰もが足を休める休憩場……出会いと別れはあるけれど、暴れちゃあダメだからね?そんな悪いコは……」


 ビキビキビキ、と音を立てて、上半身の筋肉を見せつける。

 着ていたシャツとエプロンは弾けるように千切れ、溢れんばかりの筋肉がビクビクと躍動していた。


「オ・シ・オ・キだからね?」


 そして最後にそう言って奥へ戻っていったが めちゃくちゃ怖かった。絶対に言うことは聞くべきだな。うん。


「それで……とりあえず話し合いで良いですかね」


 僕がそう言うと、がっくりと肩を落とした羊女が頷いた。


「どうぞ好きにして……飲み物いる?」

「みんなどうする?僕牛乳」

「わらわは水を頼む。姉さまもな」

「僕はお茶がいいなあ」

「私もそれで」

「私お兄ちゃんと同じのー」

「はい了解。ちょっと待っててね」

「センパイ私は水でー」

「うるせえ自分で取りに来い」


 というわけで、僕らのテーブルにバルバラが加わって、再度話が始まることとなった。


「マカは?」

「私は良いです」


 と言って、ぽん、と消えてしまったマカが気にはなったが、各々改めて席につくと、気にしてられる余裕もなかった。


「はいどーぞ」

「代金はチップから頼むぞ」

「はいはい、あーもう、それじゃあね」

「えっ先輩行っちゃうんですかー?どうせならいてくださいよー」

「誰のせいで潜入がバレたと思ってんだバカチンがー!」

「えーどうせ今日までじゃないっすかー、明日からぐむむむむ!」

「もういい分かった私が仕切る!」


 白虎女の口を塞いで、羊女がもはや泣き顔で叫んだ。

 そして白虎女の口に×を書くように指を当てたけど、どうやら黙ってろというジェスチャーらしい。


「ぜぇ、ぜぇ、後でコイツの教育担当を殺してやる……」

「んー」


 コントでもやってんのかこいつら……


「で、お主らはトラングル王国軍か?」


 グリムさんがそう言うと、


「んー」


 と白虎女が頷いた。


「正確には偵察部隊。スパイとも言うかな?だから悪いけど私はリコッペ、このアホはバルバラ、残りは名もなきどこかの兵士。よろしくね」

「ん」


 そこへ口を挟んだのはチアさんだった。


「要は暗部か。コソコソとご苦労なことだな」

「仕事だからね。白の森にもあるでしょう?これくらいは」

「……」


 おそらく図星なのだろう、チアさんが目をそらす。


「で、君たちは何の用なんだい。僕らをひっ捕らえて国に連れ帰って戦争でもするかい?」

「それでも良かったんだけどね。状況はもうそこじゃないの」

「んー」


 パチン、とリコッペが指を鳴らすと、兵士の一人が地図を持ってきて広げた。

 見て、と指を指した先には、広大な森から伸びる細い道が通る平野を挟んで、小さな丸い国がある。


「今の『戦線』はここ」


 ぱしん!と音を立てて棒が置かれる。

 そこは森から離れて、丸い国のかなり近くの、細い川。

 つまるところ戦争はもう始まっていて、ここを渡河されたら1つの国が戦火に晒される。


「白の森の新兵器、『赤い牙のキョル』。知らないとは言わせない。あなた達を『護衛』する引き換えに、今すぐ情報を寄越して」


 真剣な眼差しが、僕らを射抜く。

 自然とその向く先は――


「ふん、そういうことか」


 チアさんだった。

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