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treasure seeker  作者: 草葉 影野
現在編.01 出逢い 忍者の里にて~去月編
9/89

1-7 面会

夢か、現実かよく分からない体験(その1)をした話。

「良かった……キミが無事で―――」


 声?

 何処か懐かしい、優しい声。


 目を開けると、俺の顔を誰かがのぞき込んでいる。


 そこは、月夜の草原だった。

 草原を風が渡るサワサワという音が耳に心地いい。


「君は、誰なんだ……?」


 ぼんやりとした月明かりの下、髪の長い綺麗な人が優しい笑顔で俺を見つめている。


 胸が痛い。

 その頬に触れようとして手を伸ばした。



    *  *  *



「……あれ?」


 そこは、カクヤ君に連れられて来た俺の部屋だった。

 思わず飛び起きる。

 TVが耳障りな音を立てて、砂嵐を映し出していた。慌てて握ったままだったリモコンで電源を切る。ぷつんと言う音と共に部屋の中がしんと静まる。


「夢、だったのか?」


 バケモノに破壊された筈の壁もドアも傷一つ付いていない。

 俺が居眠ってしまう前と何一つ、変わっていない。


「夢、だったんだ……」


 それにしても、何と臨場感たっぷりな夢だったろう?

 怪物の体液が床を焼く匂い。カクヤくん達の会話の内容。ドアや壁もろとも吹っ飛ばされた衝撃。

 そして、薄れ行く視界に入ったコロナのようなオーラを纏ったその人―――――。


 ズキン。


「……痛っ?!」


 胸が痛い。それは、体の痛みではなかった。

 ……セツナイ。

 何故か、懐かしい。

 おかしい。ここに来てから、おかしな事ばかりだ。


 俺は、()()()()()()()()()()()()だ。


 それなのに何故、こんなにも既視感を感じるのだろう。

 何故、こんなにも切なく感じるのだろう?


 それから、朝までずっと寝付けなかった。寝返りを繰り返しながら、答の出ない問いを繰り返すばかり。

 お陰で、翌朝カクヤ君が顔を出した時も頭は冴えたままだった。


「おはようございます、ライトさん」


 その笑顔は昨日と少しも変わらない。


「……ああ、おはよう、カクヤ君」

「朝ご飯食べに行きませんか?」


 わざわざ誘いに来てくれたようだ。


「いいね。って言うか、案内して貰わないと未だに食堂の場所が分からないしな」


 途中、渡り廊下のような所を通った。



 ……草原だ。



 昨日の夢がフラッシュバックする。月光の下、微笑んでいる綺麗な人。


「ライトさん?」


 足を止めた俺に、カクヤ君が振り返る。小走りに戻ってきて、不思議そうに声を掛ける。


「……どうかしたんですか?」


 ―――やっぱり、あれが夢だなんて思えない。


「……あのさ、昨日の夜、バケモノが出なかったか?」


 草原を見つめたまま、聞いてみる。


「え?」

「で、俺の部屋の前で、カクヤ君と……誰かが話していて、それから―――」


 と、横にいる少年を見下ろすと、りりしい眉を寄せてカクヤ君が俺を見上げていた。


「もぉ、夢でも見たんじゃないですか? 昨日はボク、ずっと部屋にいましたよ」


 夢なのか……やはり?


「あれ? あそこ……」


 俺は、指をさしていた。遠くに見える、放射状に伸びた建物の一画が崩れている、その場所に。


「あれ~? 何があったんだろ。特に連絡も無かったけど」

「見に行かないか」

「え? あの、ごめんなさい。食べてからにしませんか? ボク、もうお腹ペコペコで」


 申し訳なさそうにカクヤ君が俯いている。


「ボク、朝からこんなにお腹空くのって、珍しいんですけど」


 流石にその言葉を無視してまで見に行ける訳もなく。俺達は当初の予定通り、先に朝食を済ませることにした。

 空腹をしっかり満たした後、カクヤ君に案内して貰って例の場所へと向かった。


「おかしいなぁ。あそこは普段あんまり使ってない場所なのになぁ」


 着いてみると、随分手前から立入禁止になっていた。『KEEP OUT』と書かれた黄色いテープが何本もベタベタと張られて、この先一帯を封鎖している。

 遠くに見える現場では、数人が作業しているようだった。


「ここから先は行けませんね」

「そうだな……」


 よく似た造りだな、と言うのが俺の感想だった。まぁ、同じ建物内でいちいち設計を変えるのもおかしいのだが。


「あ、アソラ兄だ! ―――ちょっと待ってて下さいね」


 見知った顔でも見つけたのだろう、やおらカクヤ君がテープをくぐってぱたぱたと走っていった。

 50mくらい先に居た赤毛の人物と何か話している。

 何だろう? その人がこちらを見ている様な気がした。

 それにしても、体格の良い人だなぁ。俺もかなり良い方だと思うけど、そんなに変わらないし。

 ぼんやりそんな事を考えているとカクヤ君が小走りに戻ってきた。


「お待たせしました~。何でもガス管の老朽化で小規模な爆発があったんですって」


 ガス爆発? でも、それにしては……。

 カクヤ君も首をひねっている。


「そんな、爆発するくらいの規模なら音くらい聞こえてもおかしくないのになぁ……?」

「確かに。かなり壊れてるよな、アレ」

「でも、アソラ兄がボクに嘘付く訳もないしなぁ」

「あそらにい……? さっきの人?」


 その名前、何だか聞いた事があるような気が? 何処で聞いたんだっけ―――?


「ええ、アソラ・カラスマさん。

 ボクの兄さんの親友兼好敵手(ライバル)なんです。―――『自称』ですけど」


 あはは、とカクヤ君が笑う。


「自称って所が良いな。だけど、あの人体格良いね。俺と同じくらいかな?

 ひょっとして、忍者ってみんなああなのかい?」

「まさかぁ~。あそこまでマッチョなのはアソラ兄くらいですよ。

 兄さんなんか、もう、めっちゃめちゃ細いしー……」


 と、笑顔で話していたカクヤ君は、はっと何かに気付いたようだ。

 妙に強張った表情で俺に時間を聞いてくる。


「いいいいい、今何時ですか?」

「え? 俺の時計は9時18分だけど……合ってるのかな?」

「うわああああああ!! ち、遅刻だぁぁぁぁぁ!!!!」


 カクヤ君は俺の腕をガシと掴むと、そのまま全力で走り出した。


「へ? 遅刻? ……何が?」

「今朝、9時から、お館様が直接、ライトさんと、会われるから、庵の方へ、お連れ、するようにっ、て言付かって、たのに!!!」


 大慌てで走って行ったものの、その()()()と呼ばれる場所に着いた時には、もう既に9時50分になろうかとしていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……うわあああぁ! ど、どうしよう……っ!」


 目的の建物までもう少し、という所でカクヤ君は頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。


「あそこなんだね? じゃあ、俺行って来るよ」

「え、あ、ラ……ライトさん?!」


 涙目になりながら顔を上げたカクヤ君は、一瞬で凍りついた様に固まってしまった。

 その視線の先に、品の良さそうな60代くらいの女性が立っている。


「ク、クロサワ様?!」


 女性は、俺達の姿を認めると歩み寄ってきた。


「―――遅かったですね、カクヤ。ご苦労様でした。貴方は此処までで良いわ」


 威厳のある女性だと思った。恐らく、上層部に属する人物なのだろう。


「お待ち申し上げておりました、ディライブ・エルズワース様。

 ……私は忍者組織の取り纏め役、執行部五大老筆頭を務るクロサワと申します。

 遠い所を良くお越し下さいました」


 げげっ。

 確か、五大老筆頭って言ったら長であるお館様に次ぐ要職じゃないか!

 そんな人物が俺なんぞの出迎えに出て来るなんて。


 俺の動揺はそのまま顔に出ていたらしい。

 彼女は口元を隠しながら上品に笑うと、こう言った。


「そう、緊張なさらないで。その為に庵の方にお越し頂いたのですから。

 どうぞ、こちらですわ」


 促されて、一歩踏み出したんだけど―――忘れてた。カチンコチンに固まって、俺にしがみついているカクヤ君。ポンポンと安心させるように肩を叩いて、声を掛ける。


「カクヤ君、行って来るよ」

「は、はいっ」


 やっと我に返ったように返事があり、腕を放してくれる。


「じゃ、また後で」


 小さく手を振りながら、先を行くクロサワさんに付いていく。



 そこは、ある意味別世界だった。

 鬱蒼とした竹林に囲まれ、外界と隔絶されたかのように静寂が場を包んでいる。

 時折、何の音だろうか? カコーンという澄んだ音が響いていた。


「御免なさいね。そこで靴を脱いでいただけるかしら?」


 見れば、一段高くなった場所には、昔リョウヤの部屋で見たことのある『タタミ』が敷かれていて、流石に土足では上がれない。


「これ、『タタミ』って言うんですよね? 見たこと有ります」

「あら、良くご存じですのね。―――さ、こちらです。

 お館様、エルズワース様をお連れいたしました」

「うむ、ご苦労じゃったな、クロサワ。

 すまぬな、お客人。外のお方にはちと大変じゃろうが、上がって下され」


 老人の声が聞こえる。自然と身が固くなる。

 クロサワさんが間仕切りを開いてくれた、その奥の部屋に小柄な人物が座っていた。

 見た目の印象は、いかにも好々爺(こうこうや)然としている。話しぶりも少しも威圧感がなく、むしろ親しげでさえある。

 しかし、その真っ白で豊かな眉に隠れるように細い目は、厳しい光を湛えている。

 ―――それに、隙がない。


「ふぉふぉふぉ。こんな老いぼれにそこまで警戒して貰えるとは、まだまだ(ワシ)も捨てたモノではないのう。お客人、立ち話もなんじゃ。さ、座って楽にしなされ」

「……では、失礼します」


 俺は勧められたまま、老人の正面に正座する。


「お忙しいのに申し訳ありません。それに随分時間を過ぎてしまったようで、すみませんでした」


 もうかれこれ、最初の時間からは1時間近く過ぎている筈である。俺が素直に謝ると、老人は豪快に笑いとばした。


「構わん、構わん。こう見えて、儂は意外とヒマなのじゃよ。

 最近など、仕事らしい仕事はみな大老連中に取られてしもぅてのぅ。

 じゃから、寂しい(じじい)の話し相手になってはくれまいかと、お客人を呼び出したのじゃ」


 老人は、眉同様真っ白な髭を撫でながら俺にニカッと笑って見せた。

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