《過去編》 7-1 右肩の相棒:回想01
過去編に逃げ……いえ、暫くライトの子供時代―――三英雄のリョウヤ・ヒイラギメインのお話です。
カンッ、カンッ、カンッ。
向こうの方に目標として置いた空き缶が、乾いた音を立てて三つともその場から跳ね上がった。
「へ~え、結構筋が良いかもな」
リョウヤが口笛でも吹きそうな様子で感嘆の言葉を漏らす。
「へっへ~♪ あんまり自信なかったけど、当たったぁ!」
満面の笑みを浮かべて随分と嬉しそうなディー。
「どーしたの~? すんごくご機嫌じゃなーい?」
のんびりとした声が掛かった。彼らの船、ティンカーフィッシュ号の方からシェリルが歩いてくるのが見える。
その手にはカップの乗ったトレイとポットにカップケーキ。お茶の用意だ。
「あれ、もうそんな時間か。一息入れよう、ディー」
「うん!!」
* *
ティンカー・フィッシュ号はとある星の、荒野に停泊していた。
大きな仕事を済ませた後の、穏やかな時間。何故か、リョウヤはその時間を街の喧噪から離れた、こうした荒野や無人島などで静かに過ごす事を好んだ。
普段は、一流ホテルでフルコースが食いたいだの、柔らかいベッドで寝たいだのと文句をたれるスタンが、何故かこういう時には一切文句をこぼさない。
ディーは以前、シェリルにどうして? と聞いてみたけれど、彼女は笑って少年の金色の髪を掻き混ぜ答えてはくれなかった。
何となく、聞いてはいけない事なのかと感じて、それ以来聞けずにいる。
三英雄は、優しい。でも、その優しさには何か、それだけの理由があるような気がして。ディーは早く大きくなりたいと思った。
大きくなって、みんなと一緒に仕事が出来るようになればその理由も分かるんじゃないか、と。
そんな頃、ディーはリョウヤに聞かれた。『ハンドガンの練習をしてみるか?』と。
簡単な格闘技の練習はもう始めていて、なかなかに筋が良いと褒められていた。
一方、スタンに教わり始めた魔法の方は、師匠であるスタンが呆れ返るくらいにダメダメだった。
スタンだって、何も先天的な素質が必要な精霊魔法や、高等な古代語魔法をいきなり教えた訳ではない。極々スタンダードな、冒険者として使えれば楽だろうという簡単な魔法だ。
“共通魔法”―――― 一般的には“初級魔法”と言った方が余程通りの良いソレを、ディーはこれっぽっちも修得出来ないでいた。
『……オレもよー、今まで何人も魔法憶えようってヤツは見たけど、オマエほどヘッポコいの見たのは初めてだわ』
いい加減怒鳴る気も失せたのだろう、盛大な溜息と共にスタンが愚痴をこぼすのを、リョウヤとシェリルは引きつった笑いで聞いていた。
クヤシクテ、タマラナイ。
普通なら、生まれつき魔法に抗性を持つような体質でも無ければ、少し練習すれば殆どの人が修得出来るという簡単な物を、何故自分は出来ないのか。
宇宙へ出る前の検査で、“アンチマジック(抗魔)”体質ではないと結果が出ていたのに。その点に関して言えば、リョウヤもしきりに不思議がっていた。
で、シェリルはと言えば、専門分野でもないし、本人も大した魔法が使える訳でもないので、特にコレと言った感想は持っていないようだった。
とは言え、お相伴とばかりにディーと一緒に習い始めた彼女は既に初級魔法の殆どをマスターしてしまっていた。
「まぁ、何か理由があるかも知れないしぃ~。使えない物は仕方ないわよね~。
でも、よっぽど? って感じカモ……」
とまぁ、聞く方にしてみればあんまりなお言葉を曰っていた。
その事と関係が有るかどうかは解らないが、ディーは故郷の星を出て暫くしてからまた検査を受けさせられた。
そこが何処なのかは、ディーが聞いても詳しく教えてくれなかった。
唯、そこは人工の星で、リョウヤの故郷の場所なのだとしか。
でもそこで受けた検査は、宇宙に出る時の適性検査よりも、余程時間が掛かるし細かいし、面倒臭い物だった。
かといって、悪い事ばかりだった訳でもない。何げにご飯は美味しかったし、人工星とは思えない程季候が良くて―――。
何より、友達が出来た。名前は、カイリ。
少し長めの薄青い髪がサラサラで、目は引き込まれそうなブルー、自分とは違って色が白くて、華奢な体つきをした、何処かお伽噺のお姫さまみたいに綺麗な男の子。
たった半日ほど一緒に居ただけだったのに、彼のことは強烈な印象としてディー少年の心に焼き付いている。
何故か、カイリと居るとディーはドキドキしていた。
良くは解らないけど、多分、カイリがとってもとってもとーーーーーーーっても綺麗に儚く笑うから、と、思う。
孤児院を離れて以来、初めて接した同年代の子供だからだったかも知れない。
何しろ、色んな事をひっくるめて、あの星での滞在はディーにとって掛け替えのない思い出になっていた。




