39、二月九日。 ジャグス。
気がつくと、そこは漆黒の空間だった。
周囲には星々の輝きがあるのに、そこだけは円形に光が歪み、すぐそばの巨大な惑星を今にも飲み込まんとするところだった。
また夢なのか?
ジャグスは声に出さずに考えた。いつになったらこれは終わる?
「知ってほしいのさ」
飲み込まれようとする星が答えた。
知るって何を?
「きみらが現在『街』とか『都市』とか呼んでいるものの本当の姿を」
わからねぇ。なんのことだ。
「命の不思議の話だよ」
また、それか…
「また、って言わないで。奇妙だと考えたことはない? 有機物の混合から、ある日急に命は生まれる。なんのきっかけがあったと思う?」
知らねぇ。俺には関係ねぇ。
「おもしろいことを教えよう。命ってのは、放っておけば、そこかしこで生まれてくるんだ。きみらの街もある日、自分が命を宿していることを自覚して、意識を持った」
街が?
「そう。でもね、困ったことに街は病んでる。心を病んでしまっているんだ。だから言うことが支離滅裂だよ」
そんなことはどうでもいい。俺に何を求めてる?
「きみは選ばれたんだ。人工的に生み出され、人間ならすぐにほだされるような些末な情緒に心乱されることがない。そんなきみは、この病んだ街の本当の姿を知る立場に立てる」
そんな役回りに興味はねぇ。
「なくても見てもらう。ある日突然生まれる本物の命の姿をね。あ、もう時間だ…」
星は大きく変形し、まるで空気がなくなりしぼんでいく風船のように歪んだかと思うと、次の瞬間、円形にたわむ暗黒に呑まれていった。
待て、俺は…
ジャグスもまた、暗黒に引きずられ、瞬時に中へと呑み込まれた。
気がつくとそこは海の中だった。
両脚をつかんでいる魚人たちの手に気づいたジャグスは必死にそれを払いのけ、海面へ躍り出た…
と、そこはあの庭園だった。
クリータスが待っていた。「準備は済んだようだな」グレイハウンドはまた微笑んだ。
「クリータス、待て! こいつはいったい何の真似だ!」
その瞬間、今度は本当に目が覚めた。
巨大な縦坑を落ちている最中だった。




