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 手が絃を弾き、遮るもののない蒼穹へと澄んだ音色を響かせた。竪琴にあわせて朗々たる声が紡ぐのは、この国――アルクネアの国語りの創世神話。




 遠い昔、この世界には二神が存在した。

 一方は光の世界を統べる天の神、アルクトゥース。もう一方は闇の世界を統べる夜の神、サタルディーア。

 二神は等しく世界を分け合い、慈悲を注いでいた。


 ある時、夜神が言った。


『地上に我らが恵みを受けて生まれた命の多くは光を愛し、闇を忌避する。私の腕で安らぎを得るのに、それを厭うとは……』


 ならばどうするがいいのかと訊ねた天神に、


『私の存在を知らしめるには、闇の時を長くすることだ』


 夜神が答えれば、ではそのとおりにと天神は己の世界の半分を彼の神に譲った。

 けれど皮肉なことに、長くなった夜に生命はますます光を乞い、闇を厭うようになった。


『なれば、私の世界の半分を貴方に与えよう。闇の持つ喜びに気づくだろう』


 再び告げた夜神に、


『我らが愛する地上の命はまだ時が若い。答えを急ぎすぎるのだ』


 と戒めながらも天神は従ったが、地上では増した光の時に喜ぶばかり。どうあっても闇に対する尊びが得られない夜神は、ついには怒りを露わにした。


『世界を私で覆いつくしてやろう!』


 すべてを闇で覆いつくさんとした夜神に、さすがに天神も黙ってはいなかった。


『身勝手が過ぎる!』


 対立した意見は、お互いの己が身をかけた戦いへと発展し、三日三晩荒れ狂った空はこの世の終わりを思わせた。海は大時化となり、雷光が大地を抉り、熱風がすべてをなぎ払った。


 再び訪れた静寂に、やがて天に太陽が昇った時、この世は天神の統べる世界となった。


 唯一となった神は自らの力をわけ、四神を生んだ。

 男神の火神バルカスティスと地神ディレイアスを金の月に、女神の水神リルファーナと風神アスティオーネを銀の月として、いまだ夜神の影響の残る夜の世界を見守る光となした。この四神の息吹は精霊となって世界を潤し、また戦いの際地上に及んだ天神の力は世界のあちらこちらで新たな生命を芽吹かせた。

 しかし、地上に及んだ力はそれだけではなかった。戦いに敗れた夜神の力もまた、大いなる影響を与えていたのだ。

 彼の力はこの世界に悪意を持つ『闇族やみぞく』と呼ばれる魔の存在と化し、さまざまに生命を脅かした。

 それを危惧した天神は今度は地上へと使いを降ろし、ある一人の高潔で勇敢な男を王とさだめ、その二つの存在をもって地上を守る結界の柱としたのである。




 伝承者は語る。


 自身の強すぎる光に安らぎを与えるため、天神は唯一となってなお夜を残したのだ、と。

 ただ、自らが姿を消す代わりに、神は天に双月を据えた。どちらかが欠けてもどちらかが常に闇を照らしだせるよう、夏の一夜だけ訪れる新月の晩を除いて。

 だから決して、その晩は出歩いてはならない。弱まった守りに蠢く闇の手に、捕らわれてしまうから────


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